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第4話「おでこ」
昼休みの教室は、やたらと盛り上がっていた。
「ねえ知ってる? キスする場所で意味が違うんだって!」
女子たちがスマホを見せ合いながら笑ってる。
「口は恋愛でしょ?」「おでこは友情とか庇護!」「ほっぺは親愛!」
そんな声が飛び交うたび、胸がざわついた。
頭の中で何度も繰り返す。毎日のキス。ゲームで始まったはずなのに、俺にとってはただの遊びじゃない。
「翔、顔赤いぞ」
隣の直人が笑って覗き込む。
「な、なんでもない!」
慌てて弁当を口に押し込む。
ほんとは「ゲーム関係なく口にしてほしい」なんて、絶対に言えない。
その日の放課後。
美術室に誰もいないのを確かめて、直人が俺の方に向き直った。
「じゃ、今日の分」
軽い調子で言って、俺の肩を押さえる。
(今日も……口か?)
心臓が早鐘を打つ。
けど直人は、ふっと笑って俺の髪をかきあげ――額に触れた。
一瞬の温もり。
「おでこ。友情のキスだってさ」
さっきの女子たちの会話を思い出したように、冗談めかして笑う直人。
「……っ」
期待してた分、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
友情。俺が欲しいのは、それじゃない。
でも――直人に触れられただけで、どうしようもなく嬉しい。
ぐしゃぐしゃになった気持ちが溢れて、気づけば涙が頬を伝っていた。
「……翔?」
直人の声が驚きに震える。
袖で拭っても止まらない。
「な、なんで泣いてんだよ……」
視線を上げると、直人が固まって俺を見つめていた。
その顔に、いつもの余裕はなくて。
ほんの一瞬――ドキッとしたように、目を揺らしていた。
俺は泣きながら、心臓がさらに暴れるのを必死で抑えていた。
(……お願いだから、そんな顔しないでよ。俺、もっと……好きになるだろ)