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放課後の屋上は、いつも風が静かだった。
校庭の声も、チャイムも、ここまで上がってくるころには水の底みたいに遠くなる。
フェンスのそばで本を読んでいた私に、足音が近づいてきた。
「またここにいた」
顔を上げると、夕焼けの逆光の中に**澪(みお)**が立っていた。
長い髪が風に揺れて、少しだけ水の流れみたいに見える人。
「静かだから」
「知ってる。だから私も来た」
澪はそう言って、私の隣に座った。
屋上のコンクリートはまだ昼の熱を残していて、ほんのり温かい。
私たちは特に話すわけでもなく、ただ空を見ていた。
雲がゆっくり流れている。
「ねえ、瑠璃」
澪がぽつりと言った。
「なに?」
「月ってさ、昼にもあるの知ってた?」
「うん、たまに見えるよね」
「でも誰も気づかない」
澪はフェンス越しの空を見ながら言う。
「静かにそこにあるものって、気づかれないこと多いよね」
その言葉が、なぜか胸の奥に沈んだ。
まるで水の中に石が落ちたみたいに。
「瑠璃はさ」
澪は少し笑った。
「そういう月みたい」
「え?」
「静かで、でもちゃんとそこにある感じ」
急にそんなことを言われて、言葉が出てこなかった。
ただ、風だけが屋上を通り過ぎる。
「澪のほうが月っぽいよ」
私はようやく言った。
「なんで?」
「きれいだから」
言った瞬間、恥ずかしくなって目をそらした。
けれど澪は少しだけ驚いた顔をして、それから小さく笑った。
「それ、ずるい」
「え?」
「そういうこと、さらっと言うの」
夕焼けがだんだん紫に変わっていく。
遠くで電車の音がした。
私たちはまた黙ったまま空を見ていた。
やがて、澪がぽつりと言う。
「ねえ、瑠璃」
「うん?」
「もしさ」
少しだけ迷うような声。
「もし学校じゃなくて、どこか別の場所で出会ってたらどうなってたと思う?」
私は少し考えた。
海とか、森とか、知らない町とか。
「たぶん」
「うん」
「やっぱり屋上みたいな場所を探してたと思う」
「なんで?」
「澪が好きそうだから」
澪は少し黙った。
それから、ふっと笑った。
「瑠璃ってさ」
「うん」
「私のこと、よくわかってるね」
その言葉に胸が少しだけあたたかくなる。
空を見ると、淡い月が浮かんでいた。
まだ薄くて、透明みたいな月。
「あ」
澪が空を指さした。
「月」
「ほんとだ」
「昼の月だね」
誰も気づかない月。
でも、今は二人だけが見ている。
「ねえ」
澪が言う。
「ここ、卒業しても来たいね」
「屋上?」
「うん」
「入れないと思うけど」
「じゃあフェンス越しに見る」
澪は笑った。
「屋上はなくても、空は同じだから」
その言葉が、なんだか大事な約束みたいに聞こえた。
風が少し強く吹く。
澪の髪が私の肩に触れた。
ほんの一瞬だけ。
でもその瞬間、時間が水の中みたいにゆっくりになった。
「瑠璃」
「なに?」
「これからもさ」
澪は少しだけ照れたように言った。
「たまにここ来ていい?」
私は笑った。
「もう聞かなくても来てるじゃん」
「まあね」
「でも」
私は空の月を見ながら言う。
「来てほしい」
澪は少しだけ驚いた顔をして、それから静かに笑った。
「じゃあ、来る」
空の月は、まだ薄いまま浮かんでいた。
誰にも気づかれない光。
でもたしかに、そこにある光。
その下で、
私たちはただ並んで座っていた。
水面に映る月みたいに、
静かに、同じ空を見ながら。
はい、どうも粋可です。
なんか急に百合が書きたくなったので書きました。 まぁ、ただの自己満足作品です。
続きあるんですけど明日にでも出そうと思ってます。あくまで予定なので期待しないでね
(´>ω∂`)☆