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『リディア』
『叔父様……』
リディアがラザールと婚約する二か月程前。滅多に屋敷を訪れない叔父が、珍しく訪ねて来た。その時、ディオンは不在だった。
『話がある。座りなさい』
リディアは昔から叔父が苦手だった。それは叔父がリディアの事を良く思っていないのが分かるからだ。
座る様に促されたリディアは、応接間の長椅子に叔父と対面する形で腰を下ろす。
『単刀直入に話す。お前に縁談がきている』
叔父は、普段と比べて穏やかに話始める。リディアは黙ってそれを聞いていた。
だが、大切な話だと分かっているのに、叔父の言葉が何処かぼんやりと聞こえ話に集中出来ない。
『先方はかなりお前を気に入っていてな。直ぐにでも婚約をしたいと、申し出があった。家柄も悪くない』
今日の夕食はなんだろう、明日登城したらシルヴィと約束したグリエット家シェフお手製新作の焼き菓子を渡さないと、とか今はどうでもいい事ばかりが頭を過ぎる。
『良い話だろう。どうだ』
『……私はまだ』
曖昧に返事をした。すると穏やかだった叔父はいつもの様な辛辣な視線を向けてくる。
『リディア、お前はグリエット家の人間ではない。何時迄も屋敷にいられたらディオンも迷惑だろう。それくらい分からんのか』
『……』
『やはり子爵家などの下級貴族者の女の娘だな。頭も悪い。母親も、未婚で子を孕む様な碌でもない人間だ。よく似ている』
頭が真っ白になる。どうして母の事を悪く言われなくてはならないのか。自分が頭が良くないのは事実だ。それはいい。だが、母を悪く言われるのは我慢ならない。
リディアは俯き加減だった顔を上げると、真っ直ぐに叔父を凝視した。睨むとは違う、強い眼差しを向ける。叔父は一瞬怯んだような表情を浮かべるが、直ぐに威圧感を取り戻した。
『私は母を誇りに思っています。子爵家の出とか、未婚の母だったとか、そんな下らない事で人間性を判断する様な人こそ……碌でもないんじゃないですか』
『っ……お前、誰に向かって口を聞いているのか分かっているのか⁉︎』
テーブルを叩き怒りを露わにする叔父を尻目に、リディアは立ち上がる。
『えぇ、良~く分かっていますよ。お父様と双子でほんの少しだけ生まれたのが遅かった所為で、爵位を継ぐ事が出来ずに悔しい思いをしたにも関わらず、更にお父様は騎士団長まで拝命し、その息子のディオンまで騎士団長を拝命した事で、自尊心がズタボロになっている、哀れな叔父様ですよね?』
言葉にならない程声を荒げ喚き散らす叔父を置いてリディアは、応接間を後にした。その際に一度立ち止まり振り返った。
『婚約のお話、お受け致します』