便箋を取り出して、辞めた。
友達に戻りたいなんて、叶うわけないのに。
『友達』
在り来りで、信じたくないものだった。
なのに、今は、君と友達に戻りたくて仕方がない。
僕は、きっと、救われない。
「怜。僕、怜のこと、好きなんだ」
「私も哀華のこと好きだよ?」
「違う……僕は、怜のこと、恋愛として……好きなんだ。ごめん。気持ち……悪いよね」
よくある百合漫画では、こういう時、『全然気持ち悪くないよ。私も好きだった。』って言うのが定番。
でも、現実じゃ、そうはいかない。
「え、哀華……そんな趣味あったの……?ちょっと無理だわ……ごめん」
その言葉で僕は崩れ落ちた。
君がくれた、両手いっぱいの愛は、僕の愛とは違ったみたい。
なんなら、愛情じゃなくて、哀情だったのかな?
わかんないまま、話さなくなった。
君と友達に戻れたら。
そう願わない日は無い。
君と友達に戻れたら。
もう、それ以上は、何も望まないのに。
「だめ……かなぁ……」
今日もまた、便箋をしまった。
ある日、体育館裏に呼び出された。
同じ部活の後輩の、鍵谷くんだった。
「せ、先輩!おれ、先輩の事がずっと好きでした!付き合ってください!」
驚いた。
僕のことを好いてくれる人なんて、居たのか。
鍵谷くんに、怜に渡せなかった愛を、渡せたら……。
そう思ったのに
「ごめん」
口が、勝手に動いた。
「僕、男を好きになれないんだ。ごめんね。でも、好きになってくれてありがとう」
天邪鬼。
そう言われたことが何度もあった。
実際、好きだった怜にも、友達としても好きと伝えられなかった。
天性の弱虫。
天ノ弱と言った方がいいか。
なのに、今だけは、口がカラカラと動いた。
思っている奥底が、全部吐き出されたように。
「そう……ですか」
鍵谷くんは、気持ち悪いとは言わなかった。
それだけで、嬉しかった。
人がいいんだな。
そう思った。
「なら、おれ、先輩が好きになってくれるまで、待ちます!」
鍵谷くんは、そう言った。
「おれのこと、好きになってくれないのは分かりました!」
でも、と鍵谷くんは言った。
「おれ、先輩に好きになって欲しいんです!」
ああ、この子はいいなぁ。
思ったことを、ちゃんと言えて。
「だから、待ちます!」
「……そっか」
その日から、僕は、便箋を二枚出して、引き出しに戻すようになった。
卒業式の日。また、鍵谷くんは僕に告白した。
「ごめんね。やっぱり、好きになれないや」
「そう……ですか」
鍵谷くんは、悲しそうな目をした。
「やっぱり、あの子に渡せなかった愛を譲る宛なんて、無かったみたい」
思っていることが、言えた。
やっと。
「だから、ごめんね」
好きな人には好きって言えないのに、
好きじゃない人には、「ごめん」って言える自分が嫌になる。
やっぱり僕は、天性の弱虫さ。
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