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「迫り来る影 ― 黒狼軍との決戦前夜」
● 黒狼軍襲来の報せ
黒狼との通信を終えてから、
村は瞬く間に緊迫した空気に包まれた。
斥候として出ていた少年兵が息を切らしながら戻る。
「北東の渓谷から、武装した集団が接近!
黒狼の旗が見えた!」
村人たちの顔が強張り、
子供たちは怯えた目で母親の後ろに隠れた。
アザル
「黒狼ついに動いたな。」
ホシュワン
「これを防げなければ、村は終わる。」
ロジンは深く息を吸い、
覚悟を固めるようにカイを見る。
カイはすでに武器を手にしていた。
● 村の防衛会議
村の中央に急ごしらえの作戦会議所が設けられた。
木のテーブルに地図が広げられ、
リーダーたちが集まる。
● アザル(戦術担当)
● ホシュワン(重火器)
● シラン(医療・補給)
● ロジン(チーム長)
● カイ(特別作戦要員)
アザルが指示棒で地図を叩く。
「黒狼軍は、およそ80〜180名。
重装備に加え、迫撃砲まで持っている可能性があるわ。」
ホシュワン
「こっちは武装した村人を含めて40人。
正面からぶつかれば長くは持たない。」
ロジン
「でも、逃げるという選択肢はない。
ここはみんなの家。」
カイはしばらく地図を見つめ、
静かに言った。
「ヤツ(黒狼)のやり方は、よく知っている。
あいつは正面突破よりも“包囲”を好む。」
アザル
「つまり?」
カイ
「北の渓谷を本陣にし、
南の平原に別働隊を回して村を囲む。
同時に迫撃砲で混乱を作り、一気に突入する。」
ホシュワンが唸る。
「しかし、厄介だな」
ロジンはカイの顔を見つめた。
「その黒狼を、どう止める?」
カイ
「村の中央で戦っても勝てない。
黒狼の軍は兵力差で押してくる。」
地図上の一点。
カイが指差す。
「“峡谷の入口”。
ここを塞げば、黒狼の軍は動きを制限される。」
アザル
「峡谷は狭い…3人で十分守れるわね。」
カイ
「そうだ。
俺とロジン、それにホシュワン。
3人で黒狼軍の先頭を押さえる。」
仲間たちが一斉にロジンを見る。
ロジンは迷わず頷いた。
● 村の覚悟と、戦闘準備
会議が終わると、
村全体が戦闘態勢へと動き出した。
・家々の窓に土嚢を積む
・子供と老人は地下へ避難
・後方支援隊は屋根の上へ配置
・罠の設置
・急造バリケードの構築
村人たちの表情は不安に満ちていたが、
そこには恐れを乗り越えた強さがあった。
シランは医療所で包帯を並べながら言う。
「あの人たちは…逃げる選択をしないのね。」
ロジン
「ここが故郷だから。
失えば、もう帰れる場所がない。」
シラン
「あなたも…?」
ロジンは力強く頷いた。
「私はカイと戦う。
あの人のため…そして村のために。」
シランは微笑みながらも、不安げに目を伏せた。
「ロジン隊長…無茶だけはしないで。」
● 武器の整備 ― カイの胸に残る影
廃屋の裏で、
カイは黙々とM16A4の整備をしていた。
ロジンが近づく。
「カイ…大丈夫?」
カイは工具を止めずに答えた。
「黒狼と決着をつける時が来た。」
ロジン
「怖い?」
カイは一瞬だけ手を止める。
「あいつはかつての仲間だ。
殺し合いなんて、したくはないのが本音だが…。」*
ロジンはカイの横に座り、
少し迷ってから言う。
「それでも戦うんだね。」
カイ
「ああ。
終わらせなきゃならない。」
ロジンは静かに微笑む。
「なら私も一緒に戦う。」
カイは工具を置き、
ロジンを見つめた。
カイ
「ロジン君って奴は、優しすぎる。」
ロジン
「あなたが一人で抱えてきたものに比べたら
私が背負う痛みなんて、大したことない。」
二人の視線が交わる。
次の瞬間、
アザルが駆け込んできた。
「来たよ!
北の渓谷に黒狼軍が展開を始めたわ!!」
村全体が一気に騒然とした空気に包まれる。
カイは立ち上がり、
銃を肩に担ぐ。
カイ
「行くぞ、ロジン。」
ロジン
「うん。」
全員が揃った直後だった。
村の方角から轟音が上がる――。
次の瞬間、敵兵の一隊が村へ雪崩れ込んだ。
その中心には、仲介人の姿を思わせる黒い外套の影があった。
「来た…黒狼の部隊だ!」
アザルの叫びを合図に、クルド女性兵士たちと民兵が一斉に反応。
家屋の影から銃火が走り、戦いが再び始まった。
シランとホシュワンは即座に別の持ち場へ散り、ロジンも加勢しようと銃を握る。
しかし、カイがそっと手を添えた。
「ロジン…今のお前は前線に立たなくていい。」
ロジンは一瞬だけ迷ったが、震える指先を見つめ、悔しそうに頷いた。
「わたしも戦う!!。」
「お前の代わりは俺がやる。」
その言葉に、ロジンの胸の奥で何かが緩んだ。
◆ 逆襲
村人たちの抵抗は予想以上に激しく、黒狼の部隊は徐々に押し返されていく。
カイはアザルと共に、敵の側面へ回り込む。
「カイ、あの瓦礫の裏に重機関銃だ!」
「任せて。」
カイはM16A4を構え、短時間で敵の火点を沈黙させる。
その精密さと判断の速さに、アザルでさえ舌を巻く。
「本当に元特殊部隊なのね。貴方人間なの?。」
「普通の訓練だ。」
カイは淡々と返し、次の標的を探した。
戦闘は30分ほどで敵優勢から拮抗、そして撤退へと傾いた。
黒狼の姿が戦場の奥でちらりと見え、黒狼の旗印を掲げた部隊は、まるで霧のように後退していった。
アザルが拳を握る。
「クソ、逃がしたか!」
ホシュワンが走ってきて叫んだ。
「だが、敵の半数は殲滅できた! あいつらも含め
黒狼も、もう追い詰められてる」
◆ 最後の影へ
カイは煙の向こうに残る影を見据えた。
ただ一つの影―黒狼。
ロジンがカイの側へ歩み寄る。
頬にまだ恐怖の名残を抱えながらも、瞳には強い意志が宿っていた。
「カイ…次は、私も一緒に行く。
あの黒狼を、必ず終わらせたい。」
カイはしばしロジンを見つめ、静かに頷いた。
「わかった。だが、無茶はするな。
お前を、また仲間を失うのは…もう御免だ。」
ロジンは微笑んだ。
「あなたがそばにいるから、大丈夫。」
アザル、ホシュワン、シランも集まり、全員が頷き合う。
ついに、敵は残り1つの影だけ。
黒狼。
物語は最終決戦へ向かっていく。
◆ 仕組まれた地獄─迫撃砲の雨
黒狼の本拠地となっている山岳地帯の廃れた通信基地。
ロジン、カイ、アザル、ホシュワン、シランの五人は、前日の村での戦闘を終えて
夜明け前の濃霧を突き刺すように進軍していた。
「敵の残党はもう僅かだ、慎重に行こう。」
アザルが前方を探るように低く言う。
しかしその瞬間――。
ドォン――ッ!
山肌が震え、地面が跳ね上がる。
次の瞬間、斜面の上から迫撃砲弾が連続して着弾し、辺りが爆風と破片に埋め尽くされる。
「伏せろ!!」
カイがロジンを抱き寄せ、岩陰に押し倒すように隠す。
アザル、ホシュワン、シランは離れた位置にいた。
二発目の砲弾が落ちる。
三人のいるエリアに、火柱が立った。
「アザルッ!! シラン!! ホシュワン!!」
ロジンの叫びが霧の中に消える。
爆煙の中へカイが駆け込むと、そこには倒れた三人─
・アザルは脇腹を深く裂かれ、出血が止まらない。
・ホシュワンは足を砕かれ、呼吸が荒い。
・シランは全身を打ち、意識が朦朧としている。
「くそっ、やられた…
まだ…やらなきゃ…。」
アザルが歯を食いしばるが、立ち上がれない。
カイは判断する。
「ここから先は危険すぎる。無線で、応援を呼んだ。
三人はここで救助を待ってろ。
ロジンと俺で黒狼を終わらせる。」
ホシュワンがかすれ声で叫ぶ。
「行け…あいつを倒してくれ…ロジン、カイ!!気をつけろよ!!」
シランは震える手でロジンの腕を掴む。
「あなたたちしか、もう…いない。黒狼を倒して…この戦いを終わらせて…。」
ロジンは涙を堪え、力強く頷いた。
◆ 黒狼の巣へ
基地内部へと続く廃トンネルは、ひどく静かだった。
その静寂が逆に、巨大な獣の喉奥へ踏み込むような圧迫感を生む。
ロジンが言う。
「カイ…怖くない?」
「怖いさ。」
カイは正直に答えた。
「だが、ケリをつけないとな。」
やがて、鉄の扉が見えた。
その向こうから、聞き覚えのある低い声が響いた。
「来たか。最後の希望たちよ。」
黒狼だった。
◆ 対峙
扉を押し開けると、広大な管制室跡が広がっていた。
壁は黒い旗で覆われ、その中心に黒狼が立っていた。
迷彩戦闘服。
鋭い眼光。
背中には、彼の象徴たる黒狼の紋章。
「ロジン、カイ。」
黒狼がゆっくりと歩み寄る。
「よくここまで来た。だが─」
「ここが、お前たちの墓場になる。」
カイが構えた瞬間、黒狼は跳ねるように踏み込み、
鋭いナイフと拳技を混ぜた近接戦闘(CQB)を仕掛けてくる。
カイは素早く受け流すが、黒狼の動きは異常なほど鋭い。
金属が打ち合う音が鳴り響く。
ロジンは援護射撃しようと構えるが、黒狼は一瞬で距離を詰めて蹴り飛ばし、ロジンの銃が転がる。
「ロジン!!」
黒狼が言い放つ。
「お前たちの想いなど、戦場の前では埃にもならん。」
◆ 反撃
カイはロジンを庇いながら間合いを測る。
黒狼は戦士としての経験が桁違いだった。
だがカイには、失うわけにはいかないものがある。
ロジンの命。
村を守る使命。
その想いが、カイの動きを変える。
黒狼の攻撃が来た瞬間、
カイはわずかに身を反らし、逆手に構えたナイフで黒狼の腕を切り裂いた。
黒狼の眼が鋭く細まる。
「ほう…まだ立つか。」
ロジンも立ち上がり、M9を構える。
「カイを…殺させない!!」
ロジンとカイ、そして黒狼の最終章
◆ 崩れ落ちる影
カイは黒狼との激しい接近戦を続けていた。
刃とがぶつかり合い、床へ火花のような衝撃が走る。
「カイ、気をつけて!!」
ロジンは、黒狼にM9で狙いを定めるが、射線にカイが入り込み
撃てない。
ロジンの叫び。
その刹那、黒狼が闇のような動きで後退し、腰から素早く拳銃を抜いた。
黒狼が冷たい声で言う。
「終わりだ。」
乾いた銃声が響く
パァン…パァン…。
カイの胸に衝撃が走り、身体が大きく後ろに弾かれた。
息が切れ、一瞬で力が抜ける。
「カイ!!」
ロジンは駆け寄り、崩れ落ちるカイを抱き留めた。
カイは息を荒げながら、ロジンの腕を掴む。
「ロジン行け…お前だけでも……。」
「そんなの、できるわけない!!」
ロジンの瞳が燃える。
恐怖が消え、代わりに怒りと覚悟が宿った。
彼女はゆっくりと立ち上がり、黒狼を見据える。
◆ ロジン、激昂
黒狼は口元に薄い笑みを浮かべた。
「お前が私と戦うというのか。面白い。」
ロジンは再び、M9を構えた。
「あんたが全部やったんだ!!
仲間を殺し、村を襲い、カイまでも!!。
絶対に…許さねぇ!!」
黒狼が素早く動き―
ロジンもトリガーを引く。
互いの銃声が交錯する。
ロジンの肩口に衝撃が走る。
次の瞬間、胸にも焼けるような痛み。
黒狼の放った弾が、ロジンを撃ち抜いた。
しかし、それでもロジンは倒れない。
足が震え、呼吸が乱れ、視界が揺らぐ。
それでも一歩、また一歩と前へ。
「ぐっ…貴様!!」
黒狼が驚愕する。
ロジンは、血の滲む胸に手を当てながら吠える。
「死ねるか!!…カイが…仲間が…村の人達…が…!!
ここで…お前を…倒す!!」
その姿は、恐怖も絶望もすでに超えていた。
黒狼が再び腕を上げ、ロジンに銃口を向ける。
ロジンも同時に
M9の銃口を向けた。
二人の動きは、ほぼ同時。
しかし―
ロジンの方が、わずかに速かった。
彼女は深く息を吸い込み、
震える手を無理やり制し、
カイを、そして仲間達を思い浮かべ、
照準を黒狼の頭部へ定める。
「カイ…と仲間の仇!!」
乾いた一発。
黒狼の額に、正確にロジンの弾が届いた。
黒狼は信じられない表情のまま崩れ落ちる。
「ば…か…な…っ…。」
その言葉を最後に、黒狼は静かに動かなくなった。
◆ 生還
ロジンはM9を床に落とし、その場に膝をつく。
胸の痛みが走り、呼吸が苦しくなる。
出血も酷い。
しかし、彼女はカイのもとへ這うように戻った。
「カイ…っ、カイ…!」
カイは弱く微笑む。
「やったか……ロジン……?」
「うん…いやぁ…死んじゃあ…ダメ!!カイ!!」
ロジンは倒れ込むようにカイを抱きしめた。
朝陽が差し込み、暗い基地を照らす。
◆ 夜明けの静寂
黒狼が倒れた直後、
崩れ落ちたカイを抱きしめるロジンの手は震えていた。
「カイ…しっかりして…お願い…目を開けて…!!」
カイはかすかに笑った。
その瞳はもう焦点が合わず、光が薄れている。
「ロジン…頼む聞いてくれ…。」
「喋らないで! まだ助かる! 待って、救助部隊を」
「いい……ん…だ。」
カイは優しくロジンの手を握った。
「お前が
生きて…未来を
つくるんだ。」
ロジンの涙が落ちる。
カイは途切れ途切れに、しかし確かな声で言った。
「俺は…戦う理由をずっと探していた。
だけど…最後に見つけた。
お前だ。
ロジン……お前がいたから……。」
ロジンは声を押し殺した。
「いや…ぁ…カイ!!」
カイは微笑んだ。
「その未来…お前が見せてくれ……
ロジン……愛してる……。」
最後の言葉を紡ぎ、
カイ・ヒュウガの呼吸は静かに止まった。
ロジンは彼を抱きしめたまま、
動けなかった。
時間が止まったようだった。
◆ 仲間たちの帰還
救護班が到着し、ヘリが基地跡に降りる。
ロジンはカイの亡骸を胸に抱き続けていた。
アザル、ホシュワン、シランも担架で運ばれて来る。
重傷で立ち上がれない彼らは、
ロジンの泣き腫らした顔と、静かに眠るカイを見て、
すべてを理解した。
アザルは苦悶の顔で、絞るように言った。
「ロジン隊長…カイは…本当に、貴方のことを…。」
ロジンがかすかに首を横に振る。
「お願い…今は…言わないで……」
ホシュワンは涙を堪えきれなかった。
「くそっ……あいつ…俺らの中で一番…しぶといくせに……なんで…」
シランは静かに祈りの言葉を捧げ、
ロジンの肩にそっと手を置いた。
「ロジン…あなたが立ち上がるまで、私たちが支える。」
ロジンは涙をぬぐった。
◆ 後方支援部隊としての再出発
数ヶ月後─。
北部の拠点基地では、かつて前線に立った三人が
新たな任務に励んでいた。
● アザル
重傷の後遺症で前線には戻れない。
だが、戦略・指揮官としての素質を買われ、
後方本部で作戦立案を担うようになった。
「戦場に立つのが全てじゃない。
守る戦い方も…あるのよ。」
● ホシュワン
足の損傷は大きく、走ることも困難になった。
義足。
しかし
兵站部隊として、物資補給や武器整備を担当し、
多くの戦士に“生きるための装備”を送り続けた。
「今の俺は、走れねぇ代わりに、
みんなの背中を支えるんだ。」
● シラン
頭部への損傷で長時間の戦闘はできなくなった。
頭痛も頻繁に起きる。
代わりに通信・偵察の情報分析班へ移籍。
持ち前の洞察力で敵の動きを読み解く。
「前線を守るために、後ろから戦うの。
そう教えてくれた人がいた…。」
三人の活躍は後方の柱となり、
多くの仲間の命を救う存在となっていった。
◆ ロジンの歩き出す道
ロジンはカイの墓を今日も訪れていた。
山の風が木々を揺らし、静かに響く。
ロジンは墓の前に鮮やかなスカーフと、
カイが死ぬ前に握っていた“折れたドッグタグ”を置いた。
「カイ…あなたの言った通り…私は生きるよ。
あなたが見たかった未来を、必ず…」
ロジンの表情には、深い悲しみと、強い決意が混ざっていた。
その背後からアザルの声がする。
「ロジン。そろそろ行きましょう。」
ホシュワンが笑う。
「お前が泣いたら、カイが夢で文句言ってくるぜ?
『ロジン何メソメソしてんだ
らしくねぇーぞ』ってな。」
シランが優しく肩を支える。
「一緒に帰ろう。ロジン。」
ロジンは仲間たちを見て、静かに頷く。
カイはもういない。
だが、彼の遺した想いは、
ロジンたちの心の中に生き続けている。
未来はまだ暗く、戦いもまだ続く。
それでも─
ロジンは歩き出した。
カイが望んだ、生きる未来へ。