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何を言い出すかと思えば……ディオンは、何度目か分からないため息を吐いた。
(下らな過ぎる)
レフは死んだ目をしていた。全てを諦めた様な生気を感じられない。項垂れ自暴自棄になっているように見えた。
「あのさ、人を羨む前にお前は何をしたの? 兄達に頭では敵わない? 俺に剣術で敵わない? だっけ」
ディオンが鼻を鳴らすと、レフが顔を歪ませるが意に介さない。
「レフの兄達の事は知らないよ。でもさ、俺は俺なりに地を張って泥水啜るくらいには努力はしてきたつもりだ。何も知りもせずに、勝手に人に評価を下さないでくれるかな。腹立つんだけど。……で、お前は一体何をしたの?」
「ぼ、僕だって努力したけど、やっぱり生まれながらに才能のある人間にはどう足掻いたって敵わないんだ!」
幼児の様に地団駄を踏み喚くレフに、頭が痛くなる。これで黒騎士団三番隊長など良く務まるものだ。これまでも多々子供染みた言動はあったものの此処までだとは……呆れるを通り越して心配にすらなる。
「あのさ、確かに生まれながらに備わったものはあるよ。だけどそれが全てではないし、それらが万能だとも思わない。本気で兄達や俺より勝りたいと思っているなら、血を吐いて、地べた這いつくばってでも頑張りなよ。自分に才がないって分かっているんだろう? ならまだ救いようはある。自覚のない人間は一生成長も出来ないままだからね。……才のある人間の何倍、何十倍、何百倍でも、届くまで、超えるまで努力しろ。今吐いた台詞はそれからにする事だね。お前はただ楽して才能を手に入れたいだけだ。いくら才能のある人間でも初めは何も出来やしない。レフが知らないだけで、誰もが大なり小なり努力はしているんだよ。お前の兄達も然りだと思うよ」
レフは口元をワナワナと震わせながらディオンを睨んでくる。だが何も言ってはこない。言葉を探している様に見えた。
ディオンは傍にあった練習用の木剣を足で蹴り上げ拾った。それをレフへと軽く投げる。
「な、何……」
カランっと音を立てて目前に木剣が転がり、レフは困惑した顔をする。
「剣を取れ」
ディオンはルベルトが持っていた木剣を借りた、もとい奪った。そしてそれを一振りしてレフへ突き付ける。
「少し退屈していた所なんだ。遊んであげるよ」
その言葉が彼の癇に障ったのかレフは顔を顰めると木剣を広い上げた。その目は確かに生気を感じた。
「はぁ……はぁっ……もう、無理ぃ」
レフは地べたに横たわり、木剣を投げ捨てた。
「俺が敵だったら、死んでるよ。いいの」
「もう、いいっ……立てないもん~……っ」
そう言いながらレフは涙をボロボロと流し出しだす。流石に羞恥心があるのか腕で目元を覆っていた。
「よ~しよし。レフは強い。だから大丈夫、大丈夫だ」
ルベルトはしゃがみ込み、レフの頭を撫でてやっていた。相変わらず面倒見が良いというか、甘いというか……呆れる。
「ルベルト、レフを甘やかさないでよ。直ぐ調子に乗るんだからさ」
ディオンが呆れ顔をして二人に近づくと、レフが突然飛び起き木剣を突き付けてきた。
「っ……」
ディオンは辛うじて躱すと、木剣ごとレフを地面に叩きつけた。
「痛いっ~……酷いよ~……やっぱり、ディオンには敵わないな……凄いや……」
「莫迦だな、レフ。ディオンに敵うやつなんて、この世にいるとしたら悪魔くらいだ」
「あー、確かに! あはは」
「ハハッ」
レフとルベルトは失礼な事を言いながら笑い出した。ディオンはその様子を興味なさげに眺めていたが、別段悪い気はしなかった。
「本当にね、莫迦だ」
無意識に、薄らと唇は弧を描いた。