「こんにちは」
夕日に背を向けて佇む君は、静かに笑っていた。
僕はいじめを受けていた。
最初は小さな悪口。でも日に日にエスカレートして、暴力にまで発達してしまったそれが嫌になってしまって屋上へ登った。
だけどそこには先客がいたようで、声をかけられてしまった。
「こんにちは、どしたん、こんなとこ来て」
夕日の赤色に染まった白い髪がさらさらと靡く。
すべてを見透かすような青い目は少し悲しそうな自分を写していた。
「…こんなとこに来るやつの目的なんてひとつしかないでしょ?」
ふっと自嘲するように笑う。
だからそこをどいて。逝かせてよ。
「そうやね、そりゃそーか。でもさ、少しだけ僕に時間をくれないかな」
にひひっと笑うその人が輝いていて、どこか惹かれて気づいたら頷いてしまっていた。
「ありがとう!まず、僕の名前はおらふくんだよ!君は?」
「…おんりー」
「おんりー、いい名前やね。さて、おんりー、さっそく本題!僕が言えることでも無いけど、君はまだ学生なのに死んでしまってもいいんか?」
この世に未練があったらオバケになっちゃうんだぞ〜なんていいながら続ける。
「ということで、この天才おらふくんがおんりーのお悩みを聞いてあげよう!なんでも聞いたげるで?」
胸を叩いて少しふざけながらも真剣で優しげな目を見られると、気がつけば今までのことをぽつりぽつりと話していた。
なぜかは分からない。自分でも知らぬうちに、誰かに打ち明けたい、相談したいという想いがあったのかもしれない。
話しているあいだも、おらふくんは小さくうん、うんと相打ちを打つだけで黙って聞いていてくれた。
「…そっか、今まで辛かったんだね、苦しかったんだね。お疲れ様。よく頑張った。えらいよ」
頭をポンポンされながら言われる言葉は思ったよりも胸に響いて、頬を伝って雫がひとつ落ちた。
そのままおらふくんにしがみつき子供のように泣いてしまった。
なんも抵抗せずに受け止めるおらふくんは本当に子供に言い聞かせるようにゆっくりと言葉を紡いでいく。
「おんりーは頑張った。すごいよ。でもな、僕はおんりーにもうちょっとだけ頑張って欲しい。これは僕のわがままだけど、おんりーに生きてて欲しいんよ 」
ね?と囁く声がとっても優しくて、こんな風に思ってくれる人がいてよかったと思った。
僕は誰かに認められたかったんだ。
…おらふくんのためにも、もうちょっとだけ頑張ってみるか。
「うん、ありがとう。止めてくれて良かった。…また今度、絶対お礼するから!」
「期待しとるよ」
ばいばいと手を振って入ってきたドアに戻る。
もうここには来ない。そう決心して、ドアを開けた。
「行っちゃった…」
また静かになった屋上で呟く。
きっと明日になったら僕のことは忘れられているだろう。
なぜなら僕は、 幽霊 だから。
『この世に未練があったらオバケになる』
これは僕のことだ。
僕は昔、ずーっと昔にここで死んだ。だけど「もうこんな思いする子はいなくなってほしい」っていう未練があって、幽霊として成仏できないでいる。
成仏する日は、この世から自殺が無くなる日は来るのだろうか?
来ないなら、僕がいくらでも止めてみせる。そしていつか、満足して、安心して成仏できるときが来たら、なんて。
僕は生きている人に少しだけ干渉することはできるけど、相手に記憶は残らない。
まあ、それでもいい。きっとそれでいいんだ。
さあ、次に人が来るまで寝ていようか。
「さようなら、おんりー」
夕方のひやりとした風が吹く屋上には、だれもいなかった。
コメント
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スーーーーッ… 普通に神作を見つけてしまった…(( 自分のフォロワーさんの作品巡回してました() え、フォロー失礼します((