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昨夜の狂乱から一夜明け。
僕はルーシーの家の、本に囲まれたソファの上で目を覚ました。背中が痛い。ミラにバシバシ叩かれた衝撃が、時間差で僕の精密機械な身体を蝕んでいた。
「……おはよう、ショウ。自警団の『特別顧問』初日の気分はどう?」
朝から元気なルーシーが、これまた健康に良さそうな(味の薄い)温かい飲み物を差し出してくる。
「最悪だよ。本当はあの場から脱出マジックを決めたかったんだ」
「あはは、ミラはああ見えて感謝してるのよ。……でも、冗談抜きで、あなたのことは本格的に調べたほうがいいかもしれないわ」
ルーシーが分厚い本を一冊、机に広げた。そこには古ぼけた挿絵とともに、この世界の「伝承」が記されていた。
「この世界にはね、稀に『異界』から人間がやってくるという伝承があるの。人呼んで『異界の迷い子』。彼らは私たちが知らない高度な知識や、理外の技術を持っていて、時には国を救い、時には世界を混乱させる……。ショウ、あなたの『マジック』も、もしかしたらその類かもしれない」
「迷い子、か。僕の場合は迷子というより、盛大なステージ事故だけどね」
ルーシーは真剣な顔で僕を見つめ、それから一気に身を乗り出した。
「もう一度行きましょう! あなたがあの時、最初に現れたあの洞窟に!」
「……あそこか。岩噛みとかいう猛獣が出てきた、あの湿っぽい場所?」
「そう! 異界転移が起きた場所には、微かに『時空の歪み』や『残留魔力』が残ることがあるの。それを調査すれば、あなたがどうしてここに来たのか、そしてどうすれば帰れるのか……あるいは、あなたがどうすべきかの手がかりが見つかるはずよ。私、魔法を使うのは苦手だけど、見る目はあるの」
僕は燕尾服の汚れを払い、立ち上がった。確かに、このまま「自警団の便利屋」として一生を終えるつもりはない。
「いいだろう。マジシャンは舞台裏の確認を怠らないものだ。……ただし、ルーシー。今度は護身用の魔法、しっかり頼むよ?」
「任せて! 私の『光球(ライト)』は目眩ましには最高なんだから!」
「……火力が不安すぎるな」
僕はトランプを一組ポケットに突っ込み、彼女に続いて家を出た。目指すは、僕がこの世界に「降臨」してしまった始まりの場所。
朝の光を浴びながら、僕たちは町に出た。