テラーノベル
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「黒羽さんって、今まで本気で愛した人はいましたか?」
僕達のバンドが売れ始めてから雑誌の取材などがよく来るようになった。
嬉しいような嬉しくないような…
そんな事を思っていたら、 インタビュアーは軽い調子でそう訊いた。
訊かれるだろうなと思っていた質問だった。
好きな食べ物。
影響を受けた音楽。
休日の過ごし方。
理想の女性。
その延長線みたいに投げられた言葉。
僕は煙草を指先で弄びながら、少しだけ視線を落とした。
スタジオの照明が、ガラス製の灰皿に白く反射している。
「……いましたよ」
答えると、インタビュアーの目が少しだけ輝いた。
恋愛話を期待している顔だった。
きっと、
若い頃の派手な話とか、
V系バンドマンらしいスキャンダルとか、
そういうものを想像している。
でも、俺が思い出したのは——
薄い水色のマグカップだった。
欠けた縁。
飲みかけのカフェオレ。
ソファで眠る、小さな背中。
「その人は、どんな方だったんですか?」
質問を聞きながら、
俺はゆっくり煙を吐いた。
白い煙が天井へ昇っていく。
あの人の記憶みたいに。
「……よく笑う人でした」
そう答えた瞬間、
もう駄目だった。
思い出してしまった。
忘れられるはずもない、
春の匂いを。
コメント
1件
俺この書き方好きだな〜。インタビューでの軽いノリの質問に対して、具体的なアイテム(欠けたマグカップ、飲みかけのカフェオレ、ソファで眠る背中)で想い出を語るところ、めちゃくちゃグッときたわ。“よく笑う人でした”って一言に詰まった距離感とか、結局何があったのか全然書いてないのに伝わる寂しさがやばい。春の匂いで終わるラスト、美しすぎてしばらく動けなかったわ…ガチで続き読みてぇ。