暗い。静か。…俺が育った場所。俺が壊してしまった場所。逃げ続けるのも限界があるのは知っている。それが卑怯で、きちんと向き合うことが美徳であることも。
「おかえり、ラダオクン」
「……」
でも、一度壊れたら元通りになんてならないんだよ。それはお前らが一番わかってるはずだろ。
「おかえりらっだぁ、ようやく目がさめたの?」
「らっだぁ、俺らずっと待ってたよ。戻ってきてくれて嬉しい」
「……よぉ、らっだぁ。随分暗い顔やな」
何も言わない俺に、みどりが正面から抱き着く。心から嬉しそうなみどりを払い除けることはできなかった、でも抱きしめ返すこともできなかった。
「やっぱり人間なんかより俺らと一緒にいた方がいいよ。俺の美的感覚を理解できない下等生物よりね」
「こんちゃんの美的感覚は俺らもわからないけどな…でもまぁ、らっだぁだって俺らといれて嬉しい、よね?」
「…ラダオクン?」
「……嬉しい、ね。どうだろ。俺まだお前らのこと許せてないよ、多分」
「許す?俺ら何か悪いことしたか?俺らがあそこで助けなかったらお前死んでたやろ?」
感謝こそすれ、恨まれる覚えは無い。
……なんて、わかりきった答えだった。人間を認めていない時点で俺はこいつらとわかり合えない。わかってた。でも、期待しなかったわけじゃない、あーあ。嫌いになんてなりたくなかったのにな。
腹に巻きついているみどりを剥がし、正面から目を合わせてやる。するとみどりは、嬉しそうに目を細めた。やめて罪悪感すごいから。
「……みどり」
「ナァニ?」
「お前、何でぺいんとに手出したの」
みどりの顔はこれから説教される子供のそれになった。そうだな、今ふさわしいのはその顔だな。俺は続ける。
「ぺいんとは関係無かっただろ?俺らと違って脆いんだよ、人間は。しかも子供は尚更な」
「……ダッテ」
「だって?」
みどりの瞳に膜が張る。泣いても許してやれない、だからほんとに泣くのやめて。その少年フォルムで泣かれると心抉られるんだわ!!!
「……ダッテ、目障りだったンダモン…俺らヨリ、ラダオクンと仲良くしてるカラ…」
「そんな理由で殺そうとしたの?」
「殺そうとしたわけじゃないよ!ただ、お前より俺のが仲良しだってわからせたくて…っ」
みどりの口調がカタコトじゃなくなる。余裕がないときの特徴だ。
「……俺は、お前よりもぺいんとの方が好きだよ。少なくとも誰かに害なそうとするお前よりはね」
「え」
「もうやめてあげてよ!」
レウが俺とみどりを引き剥がし、みどりを抱き締めた。レウに睨まれると本当に自分が悪者になった気分になる。悲しんでいるのはみどりだから、傍から見れば俺が悪者かもしれないけど。でも経緯を知っていてその態度は違うじゃん、レウ。
「そりゃみどりくんも悪かったよ、でもそんなに怒ること?らっだぁの機嫌が悪いからってみどりくんに当たらないで」
「当たらないでって何。毎日毎日会いたくないのに結界壊そうとして、それだけでもお前らのこと嫌いになりそうなのに。その上俺の大事な友達にも手出すの?自分よりも仲が良さそうだからって?人間よりもお前らの方が頭悪いよ。…お前らのこと嫌いになりたくないのに、どんどん嫌いになってくんだよ、そういうことされると」
「…………」
「……まぁ、とりあえずお茶でも飲んで落ち着こうよ。らっだぁの頭も冷やさないと。俺らのこと殺したいって顔してるし!」
この殺伐とした空気に似合わない穏やかな声でコンちゃんが言った。一番俺が食いきれない男。俺が帰らないとわかったときだって怒っているのか喜んでいるのか、よくわからなかった。
「……ええ加減にせえよ、らっだぁ。もう子供やないんやから、聞き分けろ」
「…誰だよ、俺をいつまでも子供扱いしたのは」
「あ”? 」
「らっだぁ、ほら行こう?別に監禁しようって訳じゃないよ。きょーさんも、ずっと怒ってるかららっだぁも感化されちゃうんでしょ」
コンちゃんが俺の腕を引く。ついでにきょーさんの頭も撫でていた。すぐに引っぱたかれてたけど。
「……わかった」
「うん!」
コメント
5件
めっちゃ好きです!続きめっちゃ気になる!!頑張って下さい!!