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これほど哀しい血戦がかつてあっただろうか。
冥竜ナポルジュロの体は、3匹の古龍の中で最も大きい。
巨体ならば動きが鈍いのかと言えば、そうではない。
闇を統べる竜の名を持つ、冥竜。
幻竜ジェロードよりも力、素早さ、そして煌気総量。その全てを上回る。
これは、幻竜と冥竜の生きてきた時間が1000年ほど違うゆえの原因である。
古龍族にとって1000年など体感的には大した時間ではないが、実際に1000年も長く生きていれば、その分能力も向上する。
せめて冥竜ナポルジュロが堕落した生活をしてくれていれば良かったのだが、かの竜は2000年の時を帝竜バルナルドとの覇権争いに費やしていた。
両雄の力は拮抗しており、ほんのわずかな差で決着がついたのが1000年前。
そこからは己より勝る帝竜バルナルドに服従し、時にスカレグラーナを脅かし、時にスカレグラーナを豊かにしていた。
幻竜ジェロードが異界の門からやって来たのはそれからずっと先の事である。
古龍たちは人間の完全な敵ではなかった。
だが、神でもない。よって人間を特別扱いなどしない。
人の子供が無邪気にアリの巣を破壊するのと同じように、気まぐれで破壊を行ったかと思えば、夏休みの間に自由研究としてカブトムシを飼育するように、気まぐれで人の住みやすい国を保つ。
人よりも遥かに高位の生物として長きを生きて来た古龍にとって、人の価値など取るに足らぬものなのである。
気にも留めず、ただ気の向くままに相手をしていた。
だが、30年前、そのバランスを破壊する男が現れた。
そうである。逆神大吾が転生して来たのだ。
彼は「ドラゴンってのはぶっ殺さなきゃな!」と言う短絡的な発想で、ちょうどこの地にやって来ていた幻竜も含めた古龍3匹を討伐しようと試みた。
その先は諸君もご存じの通り。
大吾の手には3匹が余ったため、休火山コンバトリに3匹を封印した。
その行為がまさに竜の逆鱗に触れる。
ただ気の向くままに過ごしていた古龍に、「人間憎し」の感情を植え付けてしまったのだ。
「おうおうおう! てめぇ、ドラゴンこの野郎! 俺の封印スキルを破るとか、なかなかやるじゃねぇか!!」
今、お前のせいで古龍がキレた話をしているので、少し黙れ。
「グルゥウウゥゥゥッ! 確かにその煌気、逆神大吾で相違ないようだ。……我らはこのように醜い生き物に封印されたと言うのか!?」
結果論だが、これまでスカレグラーナの地に災厄をもたらす事もあった古龍なので、討伐する方針が完全に間違いではなかったと思われる。
だが、中途半端に封印したりするから、話が拗れた。
カブトムシを愛する無邪気な少年だって、いきなりカブトムシに噛みつかれたら、それを嫌いになるのも道理である。
古龍にとってのカブトムシ。それが逆神大吾だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おら、掛かって来いよ! ボッコボコにしてやらぁ!!」
ヨレヨレのジャージを着た、おたまを持つおっさんが冥竜を挑発する。
挑発すると言う1点において、この世で今の大吾ほど秀でた者はいないだろう。
実力が伴っているのかどうかは別の案件である。
「……甚だ不愉快である。消えよ! グオォォォォォォッ!!!」
冥竜ナポルジュロの吐くブレスはしっかりと属性がある。
闇属性と言う、無属性と同じくらいに希少な攻撃方法を用いる冥竜。
それをすっかり忘れている大吾。
「なんじゃい、そんな灰色の火なんか噴きやがって! 『雷神壁』!!」
大吾だって、腐っても元異世界転生周回者。
一通りのスキルは習得している。
万能無敵の六駆に比べるとやや偏りはあるものの、攻撃、防御、回復と使えるスキルは多い。
「グオォォォォォォッ!!」
「あっつ!! いや、あっつい!! なにこれ!? えっ、お前こんな攻撃してたっけ!? 防御スキル通過するとか、どういうことなの!?」
無属性は防御を無に帰す。
ならば闇属性は。
闇属性は他の属性を喰らう。
大吾が発現した防御スキルは雷属性。
全てを喰らい尽くす闇属性のブレスを防ぐには、それでは足りない。
「そのまま塵と化せ、愚物が!! グオォォォォォォッ!!」
「あちぃ!! バカ野郎、この野郎、舐めんなよ! 『煌気極光剣』! うぉぉぉお!! 一刀流! 『次元大切断』!!」
逆神大吾は剣術とスキルの複合戦闘をメインにして戦う。
『煌気極光剣』とは、彼が独自に生み出した逆神流の剣技。
六駆が幻竜ジェロード戦で用いたのも、元は大吾が始祖の技。
その威力は衰えたとは言え、空間を切り裂く。
「グゥラァアァ!? これは見覚えがある! ブレスを切り裂く妙技! ……だが」
「あっつい!! ダメだ! これじゃ全然長さが足りねぇ! 煌気で刀身伸ばすにしても!! ちくしょう! そもそも刀身ってどこだよ!! おたまじゃねぇか、これぇ!!」
おたまで闇の炎を叩き斬ったのだから、ちょっとは自慢しても良い気がする。
「よし、分かった! 短い得物で繰り出す剣技だって、俺はたくさん作ったからな! ほとんど忘れたけどな!! 一刀流!! 『飛来夢幻烈刃』!!」
大吾はおたまを左右に振り乱し、インフィニティの軌跡を描く。
そこから繰り出されるのは、十万本の煌気の刃。
相手が烈風のように感じた時には既に息絶えていると言う、大吾の必殺剣の1つである。
「ぐぬぅぅぅっ!! その剣術、未だ衰えはしていないようであるな! 逆神大吾!!」
「お前こそ! 俺の必殺剣を受けて平然としてるとは、腕を上げたな!!」
違う。剣じゃない。それはおたまだ。
「ならばこれをどう受ける! グルルルルゥゥゥゥッ!! 『冥府の風穴』!!」
「おまぁぁんっ! 待て、待て待て待て!! そんないきなり大技とか、段取りってもんを知らねぇのかよ!? あ、これ喰らったら死ぬヤツ!! 『瞬動』!!」
『冥府の風穴』は冥竜ナポルジュロの翼から発せられるカマイタチの一種。
だが、通常のカマイタチは触れると裂傷を負うのに対して、こちらは空間ごと削り取られる。
大吾の見立ては正しかった。
普通に受けていたら、今頃その存在感のあるワガママボディに大きな空洞ができていただろう。
「ぎゃあああああ! 『瞬動』使ったの20年ぶりだけど!! こんな遅かったっけ!? やべぇ! 避けきれん!! 『瞬動・二重』!! ぎゃあああ!! まだ速度が足りねぇ!!」
ちなみにこの冥竜のスキル、六駆ならば通常の『瞬動』で避けられる速さである。
では、なにゆえ大吾の『瞬動』は『二重』で発現しているのに死にそうなのか。
1つは、単純に煌気の放出量が足りていない。
もう1つ。大きな原因がある。
太ったおっさんのフィジカルに重大な問題が発生していた。
『瞬動』は肉体強化のスキルである。
つまり、元の肉体が鍛え上げられた17歳のものと、毎日ビール飲んでチーカマ食べている尿酸値高めで中性脂肪は激高な中年のものとでは、差が生まれるのは当然の事だった。
「よ、よし、分かった! オレも本気だ! 『激飛翔』! 『天滑走』!! よっしゃあ、どっちもまだ使えたぜ! って、追って来てるぅぅぅ!! はぁぁぁん!!!」
久しぶりに使うスキルばかりで、どれも中途半端な威力に留まる大吾の逆神流。
それを見ながら、冥竜ナポルジュロは考えていた。
「我は30年前に、なにゆえこの男に不覚を取ったのか……」
それはこの戦いを見ている全ての者が疑問に思っている事なので、わざわざセリフにしなくても良いと彼に伝えたい。
コメント
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美月ゆめかです🌸 第187話読了〜! いやもう、おたまで闇の炎を叩き斬ろうとする大吾のおっさん、最高すぎるでしょww 「刀身ってどこだよ!! おたまじゃねぇか、これぇ!!」のツッコミで爆笑した😂💕 冥竜が「なんで30年前負けたんだろう…」って本気で疑問に思ってるの、めっちゃ面白くて好き! コメディとシリアスのバランスが絶妙すぎるよ…✨ 次も待ってるよ五木先生!
五木友人
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