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「失礼します」

どうやらバイトさん達がやってきたようだ。

これからお世話になる人達だから、変な印象を与えないように気をつけなくてはな。

俺と聖奈さんは衝立の向こうにいく。

「「おはようございます」」

「おはようございます。今日から改めてよろしくお願いしますね」

頭を下げた二人に聖奈さんが挨拶を返した。

俺も遅れないように。

「おはようございます。初めまして。一応社長の東雲 聖といいます。

よろしくお願いします」

俺が挨拶をしたらようやく二人が顔を上げてくれた。

「おはようございます。私は二階堂 愛菜にかいどう まなといいます。よろしくお願いします」

事前に聖奈さんから聞いていたことを踏まえると、二階堂さんは27歳で、今まで専業主婦をしていたらしい。

漸く見つかった保育園にお子さんが行くことになり、仕事を探していたようだ。

太ってはいないがぽっちゃりとしていて、性格はほんわかしていそうなイメージだ。

「おはようございます。私は林 恵里奈はやし えりなと言います。よろしくお願いします」

林さんは26歳で、こちらも同じ理由だ。

同じような境遇の人を雇ったのには理由がある。

もし、子供の発熱などで早退したい場合に、お互いが近い環境にいるので、共感しやすく助け合える可能性が高いからだ。

両方とも、旦那さんは良いところの職業についていて、そこまでお金に執着しないところも採用の理由の一つだ。

俺たちは半分以上は会社にいないので、見張りが必要な変な人は雇えない。

ちなみに林さんは明るめの髪で、化粧も濃いめだ。

なんだろう…俺の理想の女性から遠いような……二人だから気のせいかな?

「うん。仕事内容は昨日教えた通りだけど、大丈夫かな?」

挨拶を終えたところで聖奈さんの業務連絡だ。

「はい。砂糖と胡椒の瓶詰めは大丈夫です。

配送の手続きで変わったことがなければ大丈夫です」

と、二階堂さんが答えて、林さんも続く。

「私はよくフリマアプリを利用していたので配送に関しては大丈夫だと思います」

言葉とは裏腹に、少し自信がなさそうに伝えた。

俺がいるから緊張しているのかもな。

よし、ここは緊張をほぐすためにも、いっちょっやるかっ!

「お二人共、失礼ながら私より年上ですので、敬語ではなくても構いませんよ。

気にしないので」

にこやかに伝えたがここで待ったが入る。

「聖くんダメだよ。社会人なんだからケジメは大事だよ」

聖奈さんに怒られてしまった。たしかにケジメと言うか、公私混同はダメだよな。

「すみません。撤回します。この様に彼女が管理してくれているので、うちの会社は回っていけています。

敬語の件はダメでしたが、困った事、わからない事、相談したい事があれば、気軽に言ってください」

『彼女が〜』の件で、少し表情が柔らかくなったな。

「あのー。お二人はご夫婦なのですか?苗字は違いますけど」

「林さん!そんなプライベートなことっ!」

二階堂さんが林さんを止めようとするが、別にそこまでの遠慮はいらないよ。

「二階堂さん。大丈夫ですよ。

私達は夫婦でも無ければ、恋人でもないです。

元々同じ大学で、その縁で一緒に会社を立ち上げました。

優秀で美人な彼女が、こんな冴えない私と付き合っていると思いますか?」

笑って伝えたが受けなかった。

そりゃそうか…上司の自虐ネタなんて、部下は反応に困るもんな。

「さっ!無駄話は終わりですよ!今日は早いですが仕事を始めましょう」

聖奈さんが仕切ってくれた。俺だとこのまま喋って無駄に時間を浪費していたな……

下に降りた俺たちは業務に取り掛かった。

「まずは、家具の写真を撮ります。林さんは良くわかっていると思いますが、写真で売れるかどうかが決まるくらい重要です」

そうだったのかぁー!

「次に家具の梱包作業です。大型家具は重たいので気をつけてくださいね。

まず緩衝材で補強します。この時にテープが家具に接触しない様に気をつけてください」

聖奈さんは梱包のプロでもあったのか。

何でも出来るな、この人。

「最後に梱包した後のラベル貼りです。中身が何かわかる様にアルファベットと数字で管理します」

凄い。あんなシールをプリント(?)する機械をすでに準備していたなんて。

任せて正解どころか、俺要らなくね?

「以上が梱包作業になります。

家具を移動させるのは、梱包前の方が持ちやすいので作業しやすい様にして下さい。

次は砂糖と胡椒の瓶詰めのおさらいです」

全部で1時間程の指導になった。

「私達はこれから2週間ほど海外に行ってきます。

これからも度々海外に行きますが、困った時はこのマニュアルを確認してください。

連絡が取れない地域にいることも多いので、すみませんがよろしくお願いします」

二人の出退勤管理は事務所のパソコンで行う。

今ある家具の梱包作業が終われば、配送手配と瓶詰め作業をしてもらう。

他にも頼みたいことがあったみたいだが、それはおいおいとのこと。

俺たちは会社を後にして、某国際空港があるところへと向かった。




「そういえば聖くんはお礼くれるんだっけ?」

あれ、断ってませんでしたか?

別に構わないけど。

「ああ。何が欲しいんだ?」

「じゃあ、聖くんの時間を1日欲しいな。

だめかな?」

予想外の欲しいものに、以前の婚姻届の件が頭をよぎり、疑いが出る。

「良いけど、内容次第だな」

「ぶー。何か疑ってない?

まぁ、いいや。国際空港の近くにあるテーマパークで、1日遊びたいの!」

「そんなことでいいなら……」

「やったぁ!」

ミランが働いている時に遊ぶのは気が引けるが、拍子抜けしてしまったことでイエスと返事をしてしまった。

まぁ、いいか。

ミランにはお土産をたくさん買って今晩にでも渡してやろう。

それでチャラだっ!




某テーマパークに着いた俺達は、夕方まで遊び倒した。

「そろそろお土産コーナーでミランちゃん家族にお土産買おっか」

「そうだな。バーンさんには何処かで酒でも買おう」

土産を買ってから、今日泊まるホテルに向かった。



「ツインでご予約の東雲様ですね。1105号室になります。ごゆっくりお寛ぎ下さい」

ホテルマンに鍵を渡され、エレベーターに乗り込んだ。

「2部屋じゃなくてツイン?」

俺は目を細めて聖奈さんを睨んだ。

「そんなに見つめないでよっ!恥ずかしくなるじゃない」

いや、睨んでいるんですが……




部屋はそこそこ広くて綺麗だった。

画像


「じゃあ、月が出るまでルームサービスでも頼んで時間潰そっか!」

「外に食べに出なくていいのか?」

「うーん。聖くんと久しぶりに二人きりなんだから話をしたいの」

「わかった」

何か伝えたいことがあるんだな。

と、意気込んでいた自分を殴りたい。

新しいアニメの話や今日遊んだ話ばかりだった。

まあ息抜きも大切だよな。



夜もすっかり更けた頃、漸く月が出た。

「じゃあ行こう」

「うん」

俺達は宿の部屋へと転移した。


宿には着替えを置いているが、ミランが家じゃなく宿にいてくれたら着替えなくて済む。

「じゃあ、いるか確認してくるね」

バタンッ

部屋を出た聖奈さんはすぐに帰ってきた。

「起きてたからすぐに来るって」

その声のすぐ後。

「おかえりなさい。セイさん」

「ただいま。休んでいたところ悪いな。報告があれば聞くけど、何かあるか?」

「いえ。父が張り切っている以外はありません。

後、家族がお土産を大変喜んでいました。ありがとうございました」

「それは良かった。これはまたお土産なんだけど、日持ちするものばかりだから明日にでも家族と一緒に食べてくれ。

これはバーンさん用のお酒だ」

俺が大袋を渡すと、ミランは目を輝かせて口を開く。

「ありがとうございます!明日が楽しみです!」

ミランには明日からのことを頼み、俺達はホテルへと戻った。

「明日は早朝の便に乗るから頑張って起きようね!」

ベッドに潜った聖奈さんにそう言われたが……

自信はない!起こしてくれっ!



「聖くん!起きて!飛行機飛んじゃうよ!」

うぅ。そんなに揺すられると昨晩の酒が……

「起きたから…やめてくれ……」

「おはよう。私はもう準備できたから待ってるよ」

女性を待たせてしまうなんて……聖奈さんだからいいか。

準備が出来た俺達は空港へと向かう。



空港に着いてからが長いんだよな……

「手続きを済ませてからゆっくりしよ」

「そうだな。国際便は一度しか乗ったことがないから付いていくよ」

「わかった。迷子にならないでね」

迷子になる自信がある。そして探すのを諦める自信もある。

無事搭乗手続きを終えた俺達は、長いフライトを迎える。



「なぁ。アメリカ行きなのはチケットでわかってたんだけど、なんの用事でどこに向かうんだ?」

飛行機に乗り込んだ俺は、寝る前に確認がてら聞いた。

「うーん。場所はロサンゼルスだよ。理由は…大きな声で言えないから耳を貸して」

なんだ?そんなにやましい理由ことなのか?

想像も出来なかった俺は素直に耳を貸した。

(あのね。アメリカには銃を買いに行くの)

はっ?買ってどうするんだよ?

まさか俺…撃たれるの…?

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