ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。先程レイミから連絡があり、カナリアお姉様とお話をすることが出来ました。無事にお会いすることが出来た様子。
最大の難関である私達の正体を信じていただく過程も、難なくクリアしたみたいです。
どの様な手を使ったのかは分かりませんが、それはレイミが帰ってから聞くとしましょう。
重要なのは、カナリアお姉様とガズウット男爵の処遇について話を付けることが出来たと言う事実です。
お姉様の後ろ楯があるなら、私達は遠慮無くガズウット男爵の領邦軍を殲滅できます。
「貴族様の軍隊なんだろう?実際どうなんだ?強いのか?」
レイミ達との通信を終えて執務室ででまったりしていると、ソファーに座っていたルイが聞いてきました。
「以前も話しましたが、領邦軍は錬度も装備もバラバラです。ましてガズウット男爵は脅迫する際にしか使っていない」
貴族が相手となれば、誰でも抗おうと思いません。後々が面倒になりますからね。
そうなると、錬度も高くはないでしょう。これまでの経験から傲慢になっている可能性も高い。
「つまり?」
「相手にならない、と言うことです。万全の状態で迎え撃てば、先ず負けることはありません」
とは言え、死傷者の数も少なくありません。状態からして、ベルも安静にさせるべきでしょう。充分な兵力があれば殲滅することが出来るのですが。
「なら簡単だな」
「ルイは、貴族に歯向かうことに抵抗はないのですか?」
「この街に居る奴に、貴族様を敬う奴なんて居ねぇさ。皆面倒だから避けてるだけだよ」
「でも良いのか?その身内の貴族様に頼めば簡単に解決するだろう?」
「いざと言う時にお姉様の足を引っ張られては困りますからね」
それに、ラメルさんの調べが正しいならガズウット男爵はあの日の件に関与している可能性がある。見逃す手はありません。
「なるほどな。それで、殺しちゃ悪い奴は居るのか?」
「会ってみなければ分かりません。その時に指示を出しますね」
最低限男爵の身柄は確保したいのですが、領邦軍と一緒に行動しているとは思えません。男爵の身柄そのものは、レンゲン公爵家の預かりとなる可能性が高い
。爵位を剥奪して追放となれば話が早くお姉様も賛同してくれましたが、派閥内部で好き勝手にやってくれた相手を前にして爵位剥奪だけで満足されるか疑問はあります。
事が終わったらレーテルに赴く必要がありますね。
「分かったよ。今回ベルさんは休みだろ?シャーリィが無茶しないように見張っとけって言われてんだ。しばらくは側に居るからな」
「失礼な、無茶はたまにしかしません」
「そのたまの無茶が心配になるんだよなぁ」
「今回は少し控えます。ほら、行きますよ」
私はルイを連れて執務室を後にします。レイミからの連絡があったので執務室に籠りましたが、やることはたくさんあります。
先ず避難していた黄昏住民を呼び戻すこと。シェルターに避難していた人達は良いのですが、町から出た避難民を再度探し当てるのは難しいのです。いや、厳密には簡単なのですが避難民に紛れ込んで黄昏に潜り込もうとする間者を暴くのが面倒です。
我が『暁』では黄昏住民の戸籍表を作り上げました。レイミに提案された時は手間の掛かる作業だと非難轟々でしたが、こんな時は非常に役立ちます。
住人の数を正確に把握しておくことかこんなに有益だとは思いませんでした。
この辺りはセレスティン達内務方に任せていますが、必要ならば手伝うと伝えています。何れ要請が来るでしょう。
私はルイを連れて館を出て、近くにある工房へ向かいました。
私が今一番関心を寄せているのは、味方のトーチカを吹き飛ばした敵の砲撃です。私の知る限りトーチカと言う概念はまだ帝国に無いはず。まして帝国では一般的ではないコンクリートを使用して建設したのです。
実験ではQF4.5インチ榴弾砲の砲撃にも耐えました。にも関わらず一撃で大爆発を起こしたのです。
当初は運悪く銃眼の隙間から砲弾が飛び込んだのかと考えましたが、ドルマンさん達が破壊されたトーチカを確認した結果、砲弾が貫通した痕跡を発見。幸い私が破壊した戦車の内一両は原型を留めていて、内部に残された砲弾を回収することに成功しました。
現在ドワーフチームで解析を行っており、調査の途中経過を聞くために呼ばれた次第です。
「悪いな、嬢ちゃん。忙しいのに呼び出しちまってよ」
「構いません。優先順位は高いので、此方を優先しただけです。それで、何か分かりましたか?」
煤だらけのドルマンさんと暑い工房内部でお話です。夏場だと過酷なので、レイミが用意してくれたドワーフ専用の休憩室で報告を聞くことにしました。部屋の四隅には大きな氷柱があり、部屋をひんやりと冷やしています。
うん、涼しい。ドワーフの皆さんにも大好評なのだとか。
「先ずこの砲弾は弾頭が硬い。これは分厚い装甲をぶち破るためにあるんだろう。で、次なんだが。信管に細工が施されてる」
「細工?」
「詳しい話はまだ出来ないが、この細工で衝撃を受けてから起爆するまで時間に余裕がある」
「これまでの砲弾とは違いますね。時限式ですか」
「そうだ。で、これで何が起きるかって話なんだが、コイツを使えば弾かれない限り装甲をぶち抜いた砲弾が内部で爆発することになる。コイツはこれまで帝国には存在しない、まったく新しい砲弾だ」
「待ってください、その砲弾について『ライデン社』の資料に記載はありますか?」
「いや、嬢ちゃんから貰った資料には書かれていないな。装甲をぶち抜く砲弾。しかもトーチカはまだまだ研究段階で、コンクリートを使ってると言っても壁も薄かった。吹っ飛ぶわけだよ」
『ライデン社』の資料に記載がなかった……?
「『血塗られた戦旗』が独自に開発した可能性は?」
「本気で言ってる訳じゃ無いだろう?嬢ちゃん。あいつらにそんな能力があるはずがないだろ?」
「愚問でしたね」
この新型砲弾に関する資料があれば、犠牲を減らすことが出来たのは間違いありません。これは問い詰めないといけませんね。
「ドルマンさんは引き続き調査をお願いします。可能ならば複製も許可しますよ」
「その言葉を待ってた。任せろ」
「ルイ、行きますよ。お話をしなければいけない相手が増えました」
幸いマーガレットさんはまだ『黄昏』に留まっています。この件についてお話を聞かせていただかないと。
私の大切なものが奪われたんです。返答次第では、『ライデン社』は敵です。
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