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皆さんごきげんよう、マーガレット=ライデンですわ。私は今『黄昏』に滞在しておりますの。
奪われた兵器についての情報を『暁』に引き渡し、更に追加発注を受けた武器弾薬の手配や納品に奔走していたら戦いが始まってしまい、帰還することも出来ないので結末を見届けるために町に残りましたの。
結果は『暁』の大勝利。『血塗られた戦旗』は一千近い戦力をかき集めて、我が社から強奪したM1917C 155mm榴弾砲とFT-17戦車を投入してきました。
幸いだったのは、彼らがそれらの新兵器を有効に活用する術を持たず、更に『暁』の策略に引っ掛かり内部にゴタゴタを抱えたまま戦いに引きずり込まれたこと。
その結果、『暁』にも少なくない被害が出ましたが見事に撃退。彼らの名声を更に高め、我が社との確執も避けることに成功しました。シャーリィを敵に回すなんて正気の沙汰ではありませんわ。
戦いを見届けて事後処理を可能な範囲で手伝いそろそろ帝都へ帰ろうかと考えていた矢先、シャーリィから突然話し合いたいとの連絡を受けました。
非常に嫌な予感がしますが断るわけにもいきませんので、帰る準備を中断して『黄昏』中心部にある領主の館と呼ばれる屋敷へと赴きました。
守衛に通されて応接室へ向かおうとしたら、侍従から執務室へと案内する旨を伝えられました。この時点で私の中の警報が鳴り響いておりましたが、今更断ることも出来ず私は案内されるまま執務室へ向かいました。
案内された執務室にはシャーリィと……非常に珍しいことにシスターカテリナがいらっしゃいます。
すんごく、嫌な予感がしますわ。
「ごきげんよう、マーガレットさん」
「ごきげんよう、シャーリィさん。先ずは此度の戦勝おめでとうございます」
戦闘後にお会いするのは初めてですから、先ずはお祝いを。
「ありがとうございます、マーガレットさん。貴女の提供して下さった資料のお陰です」
「これは我が社の失態が招いた結果ですもの。協力するのは当然ですわ。此方は戦勝祝いです。お納めくださいませ」
武器弾薬と一緒に本社から取り寄せていた手土産の入ったアタッシュケースを手渡しました。受け取ってくれたシャーリィは首を傾げています。
「マーガレットさん、こちらは?」
「我が社で、まあ正確にはお父様が身内だけで試作した新式銃とでも言いましょうか」
シスターカテリナがシャーリィさんに代わってケースを開き、中にあるライフルを取り出しました。
「ふむ、興味深い。ミス・ライデン。この銃は?」
「ウィンチェスターM1897と言う名前だそうです。カテゴリーは散弾銃、或いはショットガン」
「ショットガン、ですか?」
「物凄く乱暴な言い方をすれば、発砲したら複数の銃弾が広範囲に飛び散る銃だとか。遠距離射撃には向きませんが、近接戦闘では無類の強さを発揮すると。ちなみにモデルは12ゲージ30インチ銃身型です」
「ほほう、だから散弾銃ですか。シスター、どうですか?」
「見晴らしの良い場所では扱いに困りますが、遮蔽物が多い市街地などでは至近距離の遭遇戦が主となります。瞬間的に火力が出せるのは魅力的ですね」
「その通りです。専用の銃弾を用意する必要はありますが、あなた方にとっては魅力的な銃だと考えます」
良かった、お気に召した様子。
「ありがとうございます、有り難く頂きましょう。銃弾についても余裕を持ちたいのですが?」
「もちろんですわ。今回は贈呈用に百発用意しましたが、追加の発注も受け付けておりますので」
まあ、彼らの抱えるドワーフ達に掛かれば銃や銃弾の複製も難しくは無いでしょう。
どちらにせよお父様が道楽で試作したもの。本格的に売れそうになったら更に高性能なものを製作するように要望すれば良いだけですわ。
会社のお金を自由に使えると思えば、お父様も遠慮し無いはずですもの。
「その言葉を聞けて安心しました。手始めに千発ほど発注します」
「あら、使い勝手を確認しなくても良いのですか?」
「シスターが気に入った様子ですし、銃に関しては素人なので判断に任せているんです」
「ミス・ライデン、驚く必要はありません。シャーリィの気前の良さは知っているでしょう?」
シスターカテリナが早速ウィンチェスターM1897を構えて具合を確認していますね。弾は入っていませんが、銃口を此方に向けないように配慮している姿は、銃の扱いに慣れている証ですわね。
「……そうでしたわね、ではその様に」
出きればこのまま帰りたいのですが、いつの間にかシスターカテリナが出入り口へ移動していますわね。背中を嫌な汗が流れるのが分かりますわ。
「さて……素敵な贈り物を頂いた後なのにこんな話をするのは本意ではないのですが」
向かいに座るシャーリィの雰囲気が変わりました。
「伺いましょう」
私が答えた瞬間ドアがノックされました。ビックリしたのは内緒です。
「どうぞ」
「失礼致します。お嬢様、ご要望の品をお持ちいたしました」
入室してきたのは執事のセレスティンさん。何やら片手に……砲弾?
「ご苦労様でした、セレスティン。テーブルへ置いてください」
「御意のままに」
ゴトンと音がして、砲弾がテーブルに置かれました。とても重そうなのですが、片手で?
「執事の嗜みでございます」
「あっ、はい」
うちの執事には絶対に無理ですわよ?
「マーガレットさん、この砲弾は今回鹵獲したもので、『血塗られた戦旗』のFT-17戦車に搭載されていたものです。解析の最中なのでまだ完全には解明されていませんが、この砲弾によってトーチカが一撃で吹き飛んで私の大切なものが十名命を落としました」
シャーリィの表情は見えませんが、明らかに空気が凍りつくのを感じました。
「この砲弾は分厚い装甲を持つ対象を破壊するために開発されたものであると想定されます。当然『血塗られた戦旗』にこのような砲弾を開発する力がないことは承知していますし、他の会社にもそんな力はありません」
そんな砲弾知らないっ!誰がこんなものを!
「あなた方から提供された資料に救われたのは事実ですし、今後もより良い関係を維持したいと考えております。しかしながら、この新型砲弾についての情報は一切無かった。そして無視できない被害が生じた」
「っ!」
「さて、マーガレットさん。迂遠な言い方は好きではないのでハッキリとお尋ねしますね。貴女は私の敵ですか?」
そう言って私を見つめる彼女の目は、何処までも冷たいものでした。