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「お早う、芥川」
「お、はようございます…中也さん」
そう云って、てきぱきと朝御飯の用意をしている芥川をぼんやり見る。最初は料理の作り方も知らなかった芥川に教えつつ、俺が作っていたが。……交代制になったのは何時からだったか。
嗚呼、そうだ。芥川が。僕は、中也さんに何かお礼をしたいです、と云ったからだ。何か出来ることは、と問われたから、じゃあ、飯を作るのを手伝って呉れ、と。
初めに比べて随分と上手くなったものだ。新婚みたいだな、とふと思ってしまい、にやけそうになる口許を手で覆う。
────あ゛ー、駄目だ、考えるな……。
「皿、運んどくな」
平常心を装って、机に料理を運んだ。
「では、行って参ります」
「おー、頑張れよ」
「じゃあね~、中也。書類整理頑張って♡」
「へいへい、芥川に変なことすンじゃねェぞ」
え~?変なことって何さ、ちゅーやのえっち~♡とほざく太宰を無視して思い切り扉を閉めた。
今日は1日ひたすら書類仕事が待っている。書類仕事は好きではない。寧ろ苦手な部類だ。自分には体を動かす方が性に合っている。
書類仕事は嫌いだが、仕事は仕事。深呼吸をして、気持ちを切り替える。
「よし、やるか」
ふと壁の時計を見ると、午前8時だった。
ドスドスドス、という誰かの足音で意識が浮上した。いつの間にか寝てしまっていた。時計を見ると午後8時を回っていて、ぼんやりとしていた頭が覚醒していく。
其れはさておき、不機嫌そうな足音は如何やら俺の部屋に向かってきているらしい。此の部屋を訪れるのは主に芥川か太宰か姐さんくらいだ。
凄まじい音を立てて扉が開かれた。矢張彼の足音の主は太宰だったようで。芥川の腕を引っ張ってきたらしい太宰の顔は顰めっ面だった。
「だ、太宰さん……??」
「……はあ…。君達ってホント面倒臭いね」
「あ゛あ??」
いきなり部屋に乗り込んできたと思ったら罵倒され、何が何だか判らない。芥川も急に連れてこられたらしく、目を白黒させている。
「藪から棒に何だよ、突然」
「はあ~~~……何で私がこんなこと、否、はあ……」
「よし、芥川君。先刻云っていたことを全て、此の蛞蝓に云えば善い。屹度解決してくれるだろう」
「誰が蛞蝓だオイ上等だ表出ろやコラ」
ぽん、と軽く芥川の肩を叩き、じゃあ!とさっさと部屋を出ていってしまった。部屋には俺と、取り残されてしまった芥川。気まずい空気が流れる。
一体全体何が何やらさっぱり判らないが、如何やら芥川には悩み事が有るらしく、更には俺が解決出来るらしい。
────悩み事か。俺が解決出来るッてなると、休暇か、戦闘系か、其れとも、組織に関する何かか?
取り敢えず訊いてみないことには判らない。口を開いたのは、ほぼ同時だった。
「あく「中也さん」、…おう、何だ?」
「中也さんは、誰にでも優しく、戦闘面に於いても秀でていて、僕の面倒をみてくださいました」
悩み事を云われるのかと思いきや、急に褒められた為、少々面食らってしまう。
「そして、僕達を”どん底”から救ってくださった」
「明るく、真摯で、笑顔の似合う、……僕にとって、太陽の様な御人です。…………ですが、」
「僕は、中也さんに笑って欲しいと思っているのに、然し、他の人に笑い掛けている処を見ると、苦しくなるのです」
「触れると、何故か熱くなって、如何したら善いのか判らなくなるのです」
「僕は、何処かおかしいのでしょうか」
と、深刻そうな顔で訊いてくる芥川。一方、其れを聞いた俺の顔は、芥川の顔とは対照的に真っ赤になっていた。
────何だ、其れ。そんなこと、まるで。
そんな都合の善いこと、ある筈がないのに。
────まるで、芥川が俺のことを好きだ、なんて。