次の日から周辺の探索を始めることになった。優恵楼(ゆけろう)は畑を拡大し、小麦の増産体勢に。
果実のなる木も増やす。魚を釣り焼いて魚を釣り焼く。優恵楼は食料を増やし確保する。
そしてルウラは地図を持って周辺の探索へ出かける。
家周辺の地図と白紙の地図を持って家周辺が記された地図の外に行って白紙の地図を開き
一旦家に戻り、優恵楼に地図を拡大してもらい、その地図を埋めていく。
「いちいち帰るのめんどくせぇ」
と呟きながらもルウラは地図を埋めていく。もちろん相棒で家族のラマのシェアとハーフを連れて。
ただの地図埋めの旅ではラマである2頭、いや2人を連れていくのは普通は邪魔だと思うだろう。
それなのにシェアとハーフを連れていく理由。それは相棒で家族である2人の命を連れていることで
足元、そして敵をより一層気をつけることができるから。
さらになによりルウラの本職である行商人としての仕事ができるから。
地図埋めの目的は村を発見すること。行商人の目的は村で村人に、もしくは旅人に商品を買ってもらうこと。
村を見つければ今まで集めてきたものを村で村人に買ってもらうことができる。
なので相棒で家族のシェアとハーフに荷物を持ってもらって地図を埋めていく。
ちなみに1枚埋めるために1回拠点に帰って優恵楼に地図を拡大してもらうのも面倒なので
白紙の地図3枚を持って、地図の四角□の角、例えば右下に行ったとしたら右に行って白紙の地図を1枚開いて
今度はそのすぐ下に行って白紙の地図を1枚開き、さらにその左に行って白紙の地図を1枚開く。
そして拠点に帰って優恵楼に拡大してもらえば、埋める地図は3枚分ということになる。
なので労力は1/3になる。地図を拡大しに拠点へ帰る労力は1/3だが、地図を埋めるために旅に出る期間は3倍。
さらにその地図を埋めるための旅の最中に食べる飲食料も3倍必要。
それはある程度日々の釣りでどうにかなっていた。ルウラは優恵楼が起きてくるまで朝釣りをし、魚を釣って
優恵楼が起きてきて一緒に朝ご飯を食べた後も、優恵楼と一緒に少し釣りをしていた。そのお陰で
「魚ばっか…」
だが食糧難にはなりそうになかった。森の中をシェアとハーフと歩いて進んでいく。
特に村がある雰囲気は感じられない。“村がある雰囲気“ってなに?wと問われると
「さあ」
ということになるが、とにかく村が見つからない。村にある木材のフェンスも…
「あぁ。拠点にあるわ」
村にある作業台、クラフトテーブルも…
「拠点にあるわ…」
村にある釜戸も村にあるチェストも村にある燻製機も…
「あ。全部拠点にあるわ」
全部拠点にあった。
「にしても不思議だよなぁ〜…。村人でもない…よな?
なのに拠点に村にしかないものばっかだし。つーか目の前でベッド作ったし」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(そうなんだ?)」
シェアが言う。
「そうなのよ」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(特異人間だ)」
ハーフが言う。
「特異人間ってなんだよ」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(この世に現れた異端者だよ)」
ハーフが説明する。
「それはわかるけど」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(嵐を呼ぶ異端者)」
「なんだそれ」
とシェアとハーフと会話しながら歩いていくルウラ。
「うわっ…。まあ…そうだよな…」
地図を埋めていると、というか行商人をやっていると、必ずと言っていいほど海に行き当たる。
行商人はラマ2頭を連れている。そうなると海や川などをどうするか。それは簡単。
「よし」
ルウラはシェアとハーフに繋いでいた手綱を外し、前脚の後ろから手綱を回して2人を繋ぐ。
そして後ろ脚も同様。後ろ脚の前から手綱を回して2人を繋ぐ。
そして背中にかけた絨毯のような掛け物を2人の背中を跨ぐように2枚かける。
そしてサドル、鞍をシェアの腰についているチェストから取り出して
2人の背中にかけた絨毯のような掛け物の中央に設置する。
すると1人にルウラの体重がかけられることなく、2人に分散することで
辛うじて水に浮き、シェアとハーフが泳ぐことで海、川を渡ることができるのだ。準備を終え
「よしっ。頼むぞ」
とシェアとハーフ、2人の頬を撫でるルウラ。
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(まかせろ)」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(大船に乗ったつもりで)」
ドヤ顔をするシェアとハーフ。ルウラはサドル、鞍に座る。
「よし。頼む」
とルウラが言うとシェアとハーフが海に向かって歩き出す。シェアとハーフの足が海に浸かる。
徐々に深くなり、2人の胴体の3/4まで海に浸かる。サドル、鞍に座っていたルウラの足も海に浸かる。
「うおっ」
胡座をかき水から逃れる。シェアとハーフがゆったりと犬かきを始める。
広い、一面の海原をゆっくりと進んでく。ルウラは地図を見ながら。
「うお。一面青」
シェアとハーフがゆっくり進んでいき、ルウラの持っている地図もゆっくりと埋まっていくが
進んでいく先に陸地は見えず、埋まっていく地図も海の青ばかり。
一応海の深度で青の濃さは変わっているものの、進んでも進んでも海、青、真っ青。
しかし奥の方にようやく陸地が見えてきた。
「お。シェア、ハーフ。あそこ。陸地。見えるか?」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(お。やっとか)」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(寄るか)」
「寄ろう寄ろう。一旦休憩しよ2人とも」
「「(「ふ」と「く」の間)〜ん(ラジャー)」」
遠目に見える小さな陸地に向かって進んでいく3人。
陽はとっくに天辺を過ぎており、日の終わりに向かっている。
小さかった島がだんだんと大きくなってくる。つまり近づいている。
しかし小さかった島は言葉通り小さな島であった。大きな島の飛び出た一角とかではなく
「小さ」
おそらく500ブロックほどしかない島。ワールド・メイド・ブロックスの世界では1ブロックは1メートル。
なのでその島は500メートル分、1キロメートルの半分ほどあるということ。
「え!?500メートルの島ってデカいじゃん!小さくないよ!」
と思われる方もいると思うが、1遍が500メートルではない。
その島は500ブロックほどの広さしかないということである。
だいたい600平方メートル。坪数で換算すると約180坪。何畳かというと約370畳。1部屋の感覚でいうと
「広っ!」
だが、島である。
「…ま。羽を休めるにはいいか…」
程度の広さである。シェアとハーフから降り、シェアとハーフにかけた絨毯の中央に置いたサドル、鞍を外し
絨毯も外して2人をまとめている手綱も外し、自由にさせる。
「お疲れ。ほら、食べー」
ルウラは小麦を2人に食べさせる。シェアとハーフはむしゃむしゃと口を動かす。
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(生き返るぅ〜)」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(エネルギーチャージ)」
空は青からオレンジに変わり、透明度が高く、青かった海は暗色が強くなり
波立つ水面にオレンジの夕陽が反射し、綺麗で神秘的な海となっていた。
島は先程言った通り500ブロックほどの広さ。視界に広がるのがこの島のすべて。
歩き回ればすぐにスタート地点に戻ってこれる。海辺は砂で内陸は芝が生い茂った土。
サトウキビなども生えておらず、ただのなにもない小さな孤島。
「あぁ〜…潜るか?」
と海を見る。オレンジ色の夕空はすでに紺色というのか暗いブルーになっており
水平線にオレンジの夕陽が沈みかけていた。そのため海の暗色は濃さを増し、深い部分はもはやなにも見えず
上澄の部分ですら透明度が無いように感じるほど。
「…これは潜れんな」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(うん)」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(うん)」
シェアとハーフも海を見て、そのそこはかとない怖さに顔を強張らせ頷いた。
オレンジ色の夕陽は完全に海の底へ沈み、反対側から半分の月が顔を出した。
夜空は星々が散りばめられた綺麗な満点の星空。
幸いなことに小さな島なので暗くなってもモンスターが生まれる、湧くことはなかった。
「シェアとハーフも朝まで寝な?
で、ま、大丈夫だとは思うけど、もしモンスターが湧いたら起こして知らせてくれ」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(オッケー)」
「(「ふ」と「く」の間)〜ん(りょーかい)」
優恵楼(ゆけろう)と出会う前、行商人として各地を練り歩いていたときに寝ていた場所は
もちろんこんな小さな孤島でモンスターが湧く心配がないところだけではない。
なんならこんな小さな孤島でモンスターが湧く心配がないところなんて珍しい。
普段は森や原っぱ、時に雪山や砂漠などで寝ることもあった。
森は日中でさえ豊かな葉を携えた枝枝のお陰で暗い。夜になると一層だ。なのでモンスターが湧きやすいし
なんなら夜湧いたモンスターが陽の光から身を隠すための場所だったりするので
日中でもモンスターがいる可能性が高い。原っぱもモンスターが湧きやすい。
だだっ広く、森のように木々が生い茂っているわけでもない。
なので、気がつけばモンスターパークとなっていることがほとんどだ。
そんな中でも行商人は日中歩いた疲れをなるべく取り
次の日も歩くためにに体力を回復しないといけないので寝る。
ではモンスターだらけの中どうやって寝ていたのか。
それは「透明化のポーション」というものを飲んで、自身を透明化させてから眠りにつく。
ルウラはシェアとハーフにも飲ませて透明化させたいと思っているが
幸いモンスターはラマなど動物は狙わない。
なので完璧に安心はできないが、ルウラだけ透明になって木の根本などで寝ている。
ちなみに「透明化のポーション」は可視化できなくなるだけであって、実体は存在し、触れることもできるため
ゾンビが誤って触れてしまった場合バレかねないので
ルウラが寝ているときにゾンビなどのモンスターが近づいたら
近くに寄っていってルウラに近づかせないようにモンスターのルートを変えさせるか
ルウラに近づいて起こすようにしている。
「ん。2人ともおやすみ」
「「(「ふ」と「く」の間)〜ん(おやすみ〜)」」
そんな心配もいらなさそうなので3人で仲良く肩を寄せ合って眠った。
…
「ルウ。これがあなたのラマよ」
気がつくと母の声がして横を見る。するとルウラと同じ背丈ほどの幼い顔立ちをしたラマ2頭が立っていた。
「よかったなぁ〜。一緒に成長していく相棒兼家族だ」
父の声に
「うん!」
とルウラも嬉しく、笑顔で頷き返事をする。ルウラも子ども時代に戻っており
しかしそれを疑問に思うことなく父、母、ルウラ、そして大人のラマ4頭と子どものラマ2頭と歩いていく。
みんなで森を歩いていくと木々が開け、その先に村が広がっていた。村では村人たちが生活しており
鍛冶屋の金属音が響き、鍛冶屋の住む家の屋根からはモクモクと煙が上がっており
農家がパンを焼くパンの香りがし、牛や豚、ニワトリに馬まで飼っていた。
そこら中に畑があり、農家の人たちが育った作物を収穫し、即座に種を植えていた。
ルウラは目を輝かせて村を練り歩く。
「よし」
父が足を止める。
「今日からルウが大きくなるまでこの村を拠点として生活していくぞ」
と父が言う。
「うん!」
「そうね。村なら雨も防げるし」
村にはルウラと同い年ほどの子どももおり
「よし。ルウ、遊んできな」
と母に言われてルウラは走っていった。
ルウラが同い年ほどの子どもたちと遊んでいる間に空はオレンジ色に染まり始め
「私もうおうちに帰らなきゃ」
「僕もー」
「オレもー」
「私もー」
と次々とみんなが帰っていく。遠くから
「ルウー!そろそろー!」
と母の声が聞こえ、ルウラも母の元へ帰っていく。
母はある家の前にいて、ルウラと手を繋いでその家に入った。
そこにはベッドが1台とチェストが1つ置いてある部屋で
窓際には花瓶が置いてあり、綺麗な花が刺さっていた。
ルウラが部屋を見渡していると母がルウラの前にしゃがみ込み、ルウラの両肩にそっと手を置いた。
「ルウ、いい?パパとママは旅に出るから」
そう言われた。
「え?」
「ルウ、あなたももう12歳なんだから」
「え、僕まだ」
まだ12歳とは思えない身長のルウラ。12歳ではないという自覚もなぜかあった。
「大丈夫。ルウはパパとママの子なんだから。ルウも立派な行商人になれる。大丈夫」
「でも」
「このお姉ちゃんにいろいろ頼んだから。ね?」
と母が言うと家のドアが開いて、父が入ってきた。
「オレ先出てもいいか?」
「あ、うん。なんだったら先出ててもいいわよ」
と母が父に言うと、父はルウラに歩み寄ってきてルウラの前でしゃがみ込む。そしてルウラの頭に手を置いて
「立派な行商人になれよ。で、いつかどこかでパパとママと会おう。な」
と言いながらルウラの頭をわしゃわしゃと撫でる。そう笑顔で言った父は立ち上がり、ドアから出ていった。
「パパ…」
「じゃ、ママもそろそろ行くね」
と母もルウラのおでこにキスをしてからギュッっと抱きしめて、立ち上がり
「またどこかで会おうね」
と言ってドアに向かっていった。
「ママ…パパ…」
追いかけていったが母が出ていった瞬間、ルウラを部屋から出さないように
なにかしらの力が働いたように勢い良くドアが閉まった。
オークの木材でできたドアの4つの小窓から見える空はオレンジ色をしており
小窓からも夕陽が差していたはずなのに、一気に暗くなった。
そして、ドンッ!っというオークのドアの向こうからドアを叩く鈍い音が部屋に響いた。
ドンッ!その音は止むことなく不規則に続けて鳴った。
ドアは外から叩かれており、叩かれる度に少し内側に湾曲していた。
部屋の中にいるお姉さんはベッドの上で布団に包まり、ブルブルと震えながらも必死に眠ろうとしていた。
お姉さんと目が合うとお姉さんが手招きしてくれた。
ルウラは何が起きているのかよくわからずオークのドアの4つの小窓を見上げると、ゾンビの顔が覗いていた。
「ひっ…」
ルウラは小さく慄く。その小さな叫びが聞こえたのかどうかはわからないが
ゾンビの顔はゆっくりとルウラのほうを向く。
その目は黒いのか、暗いのか、はたまた空洞なのか、まるで闇が広がるような目をしていた。
黒目がないのに目が合ったように感じたルウラ。背筋に冷や汗がスーッっと垂れ、背筋がゾクッっとする。
ゾンビはその4つの小窓の十字部分を掴みガタガタとドアを揺らす。
ルウラは座ったまま後退る。すると今度は後ろから
ペタッとという音とドンッっという音が組み合わさったような音がして振り返る。
すると花瓶の飾られた窓にもゾンビが張り付いており、掌を窓に打ち付けていた。
窓に掌を打ちつけるたび、窓が振動する。
家の中にいれば大丈夫。家の中にいれば大丈夫
そう心の中で唱えるルウラだったが、その願い虚しく、ガッシャーン!っと窓ガラスが割れる音が響いた。
窓辺に飾っていた花瓶も床に落ち割れ、床に水と花が散らばった。
割れた窓からゾンビが上半身を入れてきて、ベタンッっと顔から床に打ちつけた。
しかしそんなこと関係ないように這いながらルウラに向かってくる。
ルウラの心臓は止まりそうなほど早く動いており、あまりの恐怖から知らぬ間に涙も頬を伝っていた。
後退るが、子どものルウラと大人の体のゾンビ。いくらゾンビで這っているとはいえ
子どもで怖がって体があまり動かないルウラに追いつくのは雑作でもなかった。
その指先が腐ったような、黒い爪、黒い指先のゾンビの手がルウラの足を掴んだ。
…
「はっ!」
飛び起きた。心臓はドクンドクンとうるさいほど高鳴っている。
辺りを見回すとそこは小さな孤島。自分は子どもではないし
シェアとハーフもとっくに自分の身長を越し、立派な大人のラマになって側で寝ている。
「…夢か…」
足を見るとシェアの足にルウラの足を乗せており
そのルウラの足にハーフの足が乗っていて、2人の足に挟まれるようになっていた。
「…なるほど。これで足掴まれたと思ったわけか」
気持ち良さげに眠るハーフのおでこにデコピンをするルウラ。
「父さんと母さんか…。ひさしぶりにあんな夢見たな…」
ルウラは行商人をしている父と母の間に生まれ
12歳になるまで村で家族で過ごさせてもらい、12歳で家族と離れて行商人として旅に出ていた。
「会えんのか。マジで」
と苦笑いとも寂しげな笑いとも取れる笑い方でクスッっと笑った。
そんなルウラを励ますかのように水平線から朝陽が顔を覗かせ、朝を告げた。
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