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#M!LK
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「ん〜…」飲み屋のガヤガヤとした空気の中、隣に座っていた仁ちゃんが俺に寄りかかってくる。
ライブの終了後、珍しくみんな翌日オフだったのでメンバーとスタッフと一緒に打ち上げに来ていた。
個室の居酒屋なのでゆっくりできたせいかみんなお酒を飲むのがすすみ、仁ちゃんも珍しくたくさんお酒を飲んでいる。
俺にすり寄るように頭を押し付けてくる仁ちゃんに心臓が大きく跳ねた。
「仁人酔っ払ってんじゃん」
「甘える吉田さん出ちゃってんちゃう〜?」
ケラケラと笑うはやちゃんとだいちゃんが茶化してくるが俺の気持ちはそれ所ではなかった。
「仁ちゃん大丈夫?酔っ払っちゃった?」
目を閉じて俺に体重を預けてくる仁ちゃんの体を支えるために腰に手を回す。そうすると仁ちゃんは俺に抱きついて胸に顔を擦りつけてきた。
「ははは!マジで酔いすぎだろ」
爆笑するはやちゃんを横目に動揺する自分を隠して笑顔を保とうとする。
好きな相手にこんなふうにされて冷静でいられる訳がない。
もちろん自分の気持ちなんて伝えられずにいる。だってこんな事を言って、今の関係が壊れてしまったらと思うと怖かった。
自分の自慢であるポジティブも恋愛ごとには通じないらしい。もっとも、これが男女で普通の関係性だったら別なのだろうけど…。
「舜、送ってあげたら?」
「…え」
「こんな状態で置いておけないでしょ。スタッフさんに頼むのも悪いしさ」
柔太郎が微笑んでそう言う。多分俺の表情を見て何かを察したのだろう。柔は本当に鋭い。
「もうしゃあないな〜俺もそろそろ帰ろうと思ってたし、一緒に帰るついでに送ったるわ」
心の中で喜んでいるのが顔に出ないか不安になる。タクシーを手配した後、ほとんど力の入らない仁ちゃんに肩を貸して靴を履かせた。
「吉田さんお持ち帰り〜」
個室から出た時にだいちゃんが冗談めかして言った言葉にドキッとする。
タクシーに乗り込んで行き先を伝えようとした時、仁ちゃんが住んでいるマンションがオートロックである事を思い出した。俺の隣ですやすやと眠る状態の仁ちゃんが暗証番号をまともに入れられるとは思えない。
俺は悩みながらも自分の家の住所を運転手に伝えた。
「ありがとうございました。ほら、仁ちゃん着いたから起きて」
「…んう……」
ほとんど意識のない仁ちゃんに困り果てる。タクシーを引き止める訳にもいかない。その体を引き寄せてお姫様抱っこのように体を抱える。俺の腕の中で無防備に体を預ける仁ちゃんに愛おしさを感じてしまい苦しくなった。
俺の部屋に何とか到着し、仁ちゃんを俺のベッドに寝かせると近くにくしゃくしゃにして置いていた布団をたぐり寄せて抱きしめた。
「俺の布団…」
自分のにおいが付いた布団を抱きしめてそれにすり寄るように顔を埋める仁ちゃんにたまらなくなる。
「それ、落ち着くん?」
「ん……」
俺の声が聞こえてるのか内容が伝わってるのか分からないが返事が返ってきてさらに心臓が高鳴った。
「かわええなぁ…本当に…」
思わず手が伸びて仁ちゃんの頬に触れるととても熱い。とりあえず水でも持ってこようかと思い立とうとすると頬に触れていた手を引っ張られる。
「冷たくて、きもちい…」
そう言いながら俺の手に甘えるようにすり寄る。いつものような声ではなく、か細く可愛らしい声。
頬ずりをしているとその唇が俺の手に触れてギリギリで保っていた理性が崩れる。
「ダメやで、男にそんな事したら…」
仁ちゃんの唇を親指で撫でると、冷たさが気持ちいいのか口付けるように押し当ててくる。
抑えなければ、と思えば思うほど自分の欲望が疼く。
「こうしたらもっと気持ちええ?」
布団の隙間から仁ちゃんの服の中に手を入れてお腹から腰を撫でる。その体は酔いのせいか顔のように熱を帯びていた。
「あ、ん…っ」
仁ちゃんの口から甘い声が漏れる。
こんな事をしたらダメなのに。
そう思うのに仁ちゃんの声を聞いて、俺の手はその体を触るのがやめられない。
「んぅ…ふ……」
体を捩りながらいやらしい声を出す仁ちゃんが可愛くて、腰からパンツの中に手を入れる。ギリギリのストッパーをかけて、臀部までは触れず窪みの部分を撫でるだけにとどまった。
「あっ…はっ、あ…」
それなのに仁ちゃんからはいやらしい声が出て心臓がバクバクする。自分はとても卑怯なことをしている。そんな罪悪感が俺の中をいっぱいにした。
「ごめんな…」
体を撫でていた手を離して仁ちゃんの服を整えた。
何をやっているんだろう、俺は。
酔っ払った状態を利用して手を出すなんでとても卑怯だ。
自分に嫌気がさして頭をぐしゃぐしゃにする。
仁ちゃんの頬に触れていた手も離して、今度こそ水を探しにいこうとした。
「……んだよ、逃げんの…?」
背中でそんな声が聞こえて思わず振り返ると、仁ちゃんが眠そうな目で俺を見つめていた。
「…え?仁ちゃんいつから意識……」
「あんなに触られたら、流石に起きるわ」
呆れたような声色で言う仁ちゃんに動揺してしまい、とりあえずその場で正座して頭を下げる。
「ほんまにごめん!お、怒ってるよな…?あの、俺……」
言葉を紡ごうとするが上手く出てこない。仁ちゃんのことが好きでつい手を出してしまったなんて、こんな所で言いたくない。
「…まあ、いいわ。今日は」
「え?」
「俺、寝るから。お前ソファででも寝ろ」
そう言って俺に背を向けてしまう。触った事を責められるかと思ったのに、思ったのと違う反応に困惑が止まらない。
どれぐらいから意識が戻った?頬を撫でた時?唇を撫でた時?腰を触った時?それとも……。
そんな事をぐるぐると考えていると仁ちゃんの寝息が聞こえてくる。
聞けないし、聞ける訳もない。疑問を抱えて俺は項垂れる。明日怒られるかもしれない。いや、もしかしたら忘れてくれているかもしれない…。
色々なことを考えて後悔しながら寝室から静かに出た。その日は考えることが多すぎて頭が疲れたのかソファに横たわったままいつの間にか眠っていた。
「おい、いつまで寝てんだよ」
「…んえ……?」
ぼやっとした視界に仁ちゃんの顔が見えて、夢でも見てるのかと思うが一瞬昨日の出来事が頭をよぎる。
勢いよく飛び起きた俺に仁ちゃんは呆れたような顔をしていた。
「え、あ、俺……」
「飯、作っといたから食べろよ。つーかお前の家、何もねえな」
机の上に簡単な朝食が用意されていた。仁ちゃんが料理が得意なのは今までのことで知っている。
いやそんなことを考えている場合ではないと我に返り自分を取り繕う。
「あ、ありがとな〜なんか遅くまで起きてたら熟睡してもて…」
「別に、お前も介抱してくれたんだろ。そのお礼」
「…うん」
昨日自分がしたことを思い出して上手く答えられない。お礼してもらうような資格が俺にはないのだ。
勝手に気まずい気持ちを感じながら朝食に手をつける。
「ん!うまい!」
「大したもんでもないだろ…」
仁ちゃんが作ってくれたというだけで、ただの目玉焼きもすごく美味しく感じる。朝食を食べながら仁ちゃんと会話をしているとだんだん緊張感が薄れて笑顔でいっぱいになってしまった。
この様子なら昨日のことは記憶がないのかもしれない。覚えてない仁ちゃんにあんなことをしたと思うとやはり心が苦しくなるがそれと同時に安心する。
朝食を食べた後、皿を洗おうとする仁ちゃんを止めて自分がするようにした。
その間も仁ちゃんはいつも通りにイヤホンをしてラジオを聞いたり自由に過ごしている。
良かった、普段と同じ仁ちゃんだ。何を言われるのだろうとビクビクしていた胸を撫で下ろす。
それでも仁ちゃんが俺の家にいて、一緒に朝食をとって、こうやって側にいるのが幸せで…昨日あんな事をしたのに心が弾むような感覚を覚えていた。
「んじゃ、俺帰るわ」
「うん!帰り気をつけてな?もうふらついたりせんよね?」
「大丈夫だっつーの」
しばらく過ごした後、仁ちゃんが帰宅する事になった。少しの寂しさを覚えながら会話をする。
でもその会話すら嬉しくて笑みが溢れてしまう。
「あ、あと」
「ん?」
扉を開けた状態の仁ちゃんが俺を見つめる。
「今度は逃げんなよ」
そう言ってすぐに扉が閉まる。思わず脳が停止した。
”逃げんの…?”
昨日、体を触ることをやめた時に言われた言葉。忘れていなかった。あの出来事を。
「じ、仁ちゃん!」
ハッとして扉を開けて追いかけようとするが仁ちゃんがしっしっと追い払うようなジェスチャーを振り向きもせずにしていた。扉に体を預けたまま崩れ落ちる。
「それって、そういう意味なん…?」
頭を抱えながら仁ちゃんの言葉を、昨日の出来事を思い出す。期待して、いいのだろうか。あの時もっと、手を出していて、良かったんだろうか。……あの行為を、仁ちゃんは嫌じゃなかったんだろうか。
心臓がこれまでにないぐらい、爆発しそうになったいた。