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うわあああ!ありがとうございます!そろそろ物語の締めですが、次の作品も用意しているので、読んでいただけると幸いです!
彼女は別れ際、明日も会えるように、会う理由を考えようと言った。
そう言った割には、今回は私の意見を聞いてはこなかった。ただ、「私の知っているある人について聞いて欲しい。」と言っただけだった。
「会えて嬉しかった。」
彼女は確かにそう言った。まだそこまで深い仲でもないのに、どうしてこの出会いが嬉しいのか。私には理解できなかった。ただ、あれからというもの私は少しおかしい。その自覚はあった。
私に起きた大きな異変は、彼女と別れたその夜に起きた。昔のことを夢で見たのだ。それは小学生の頃の体験の夢だった。
小学6年の頃、父が突然この世を去った。理由も原因もわからず、父はベットでそのまま亡くなった。医者も家族も誰も、その死の原因を明らかにできないままだった。
父と仲が良かった私は、突然のことにその事実を受け入れられなかった。その時から、感情も喜びも時間が止まったかのように、全てが凍結してしまった。
けれど、私以外のものにはいつもの日常が流れていき、時間が流れていき、私を置き去りにして勝手に進んでいった。私はそれに強い違和感を覚えた。しかし、その違和感は頑固に違和感のまま、消えていくことも、別の何かに変わることもなく、しばらくはただ違和感であり続けた。
次の朝、起きたのは、8時くらいだった。
学校があったら完全に遅刻だったが、夏季の休暇中はそんなことを気にする必要もなかった。それが幸いして、私には夢のことを考える余裕ができた。確かに父が死んだあの日からも、何かがおかしくなった。私の中の、「何かが足りない」という感覚はその時生まれたのだろうか?その感覚は私がその日から抱いてきた違和感と同じものなのだろうか?
恐らくそうだろう。その時は違和感としか表現できなかったものが時間を経て、何かの欠落という、しっかりとした輪郭を持つ問題になってきたのだろう。だが結局、その欠落したものが何か、足りないものが何かはわからなかった。私はどういうわけか、彼女に会いたくなった。
「今日はあなたのほうが先ね。」
「また紳士がどうのとか言われるのは、あまり心地が良くないからね。」
「素直に私に早く会いたかったっていえば良いのに。」
彼女はかなり鋭いの性格なのだろう。とてもじゃないが、私にできる芸当じゃない。私は少し悔しさを抱きながら、質問した。
「どうしてそう思うの?」
「内緒。」
「根拠があって、そう思うの?」
「それも内緒。」
納得できなかったが、初めて会った時から彼女は重要なことを隠しがちな気がした。発言も言葉足らずな感じがして、私をからかっているのだろうか思う時もあった。まあ、私たちはまだ会って三日目なわけで、まだ印象の域を出ないわけだが、、、。
まだ太陽が沈むには時間がありそうだった。また私たちは駅のベンチに座りながら、遠く見ていた。彼女は突然話し始めた。
「私が知っているある男の子はね、突然私のことを忘れてしまったの。」
「突然忘れた?事故にあったとか?」
「そうね。あれは本人にとってはある種の事故。とても気の毒だったわ。」
「彼はどうなったの?」
「今は元気よ。でも、私のことは思い出してくれない。」
「今、彼はどこにいるの?」
彼女は質問には答えなかった。その代わりに彼女は私に質問をした。
「彼に思い出されない私と、私を思い出せない彼は、どちらの方が可哀想だと思う?」
「それは、、、。難しいな、、、。」
「私はこう思うの。私は彼について寂しく思ったり、悲しくなったりできるだけ、彼より幸福なんだって。」
「マイナスな感情を持つことが、幸福なの?」
「比較的幸福だと思うわ。本来愛おしいはずの誰かに対して、感情も記憶も持つことができない、そんな最悪ケースに比べればね。」
「彼は君のことが好きだったの?」
「ええ。きっと。」
これ以上はきけなかった。ただ、謎めいていた彼女を、少しだけ近しいものに感じることができた。謎を秘めた彼女を、その謎を秘めたまま受け入れることができる気すらした。
「明日は何を理由に会おうかしら?」
「提案がある。」
「何?」
「その男の子が君を思い出すために、私たちに何ができるかを話し合いたい。」
彼女は少し涙ぐんだ目で、とても幸せそうな笑顔をたたえて言った。
「合格!」
今日は少し、彼女の表情がわかりやすかった。