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昨日のことを思い出すと、正直少し恥ずかしかった。自ら他人のことに積極的に関与しようと考えるなんて、全く私はどうかしている。勢いとは怖いものだ。
しかし、なぜか私は後悔してはいない。むしろそうすべきだったと思っている自分がいる。私は彼女に特別な感情を抱いているのだろうか?
彼女はいつもの場所にいた。彼女は熱心に本を読んでいた。少し分厚いその本は、彼女にとってとても魅力的なものだったようで、私がかなり近づいても彼女は私の存在にづかなかった。
少し気は引けたが、ずっと待っているわけにもいかないので、話しかけた。「面白そうだね、その本。」
聞こえたはずだと思ったが、彼女が全く動かなかったので、逆に私が少し戸惑った。
「あの、、。」
「大丈夫よ、聞こえてるわ。」
悪戯っぽく笑いながら、彼女は顔を上げた。だったら、反応してくれれば良いのに、、、。
「それ、何読んでるの?」
隣に座りながら、彼女に尋ねた。
「あなたが読まなければならない本よ。馬鹿らしくなるくらいロマンチックで、信じられないほど重要な本。」
いつもの通り、彼女の言っていることはわからない。しかし、以前ほどわからないわけではなかった。それは私が、彼女が何かしらの謎を秘めていることをなんとなく察していたから、彼女の謎めいた発言にそこまで驚かなくなったからだろう。だから、私が次に出した言葉に、迷いや戸惑いは少しもなかった。
「わかったよ。」
彼女は微笑んだ。そしてとても嬉しそうに話した。
「あなたは以前に比べて、とても深く私を知っている。どうしてって思うでしょう?あなたは私の名前さえ知らないのに。好きな物も知らない。何者かも知らない。でもね、、、。」
彼女は軽く深呼吸をして、続けた。
「私達が一緒にいた時間はね、私のあなたへの気持ち強くして、あなたの私への気持ちを強くした。人を知るということは、何も、その人に関する知識を得ることじゃないわ。何も分からなくても、その分からないという不安と寄り添えるくらい、信頼が深まることなの。」
「時間は相対的。私達が重ねた時間も同じ。そして、私達が抱いた強い気持ちは、私達の時間も、世界も、歪めるの。」
今思えば、彼女は我々に起きたすべてをこの時話していた。だが、その時の私がそれを理解するにはあまりに知っていることが少なすぎた。
彼女は一つの大きな仕事を終えたかのように、体を伸ばした。
「この本を渡すわ。明日までに読んできて。特に線が引かれているところはよく読むこと。宿題ね。」
彼女は立ち上がり、駅の出口に向かおうとした。私は急いで立ち上がって言った。
「ねぇ、最後にいいかな?」
全てを見透かしたような表情で振り返る彼女は、またもや嬉しそうだった。
「君の―――」
「私の名前はね、」
遮るように出した彼女の言葉の続きに、私は戸惑いを隠せなかった。
「私の名前は、―――。」
その名前と、彼女が私にくれた本。それらが、最後のピースとなった。