テラーノベル
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「……よし、できた」
朝の光が差し込むキッチンで、ぼんじゅうるは小さく息を吐いた。
手元にあるお弁当箱の中には、ゆるく固まった卵とじ。出汁の香りがふわりと鼻をくすぐる。
いつもなら適当に済ませるかコンビニで買う飯を、なぜか今朝は早く起きて作ってしまった。理由は、自分でもよく分かっている。分かっているからこそ、胸の奥が少しむず痒い。
「言えない気持ちを卵とじ、か……」
誰に言うでもない独り言を呟きながら、お弁当のフタをパチンと閉めた。その中身は、ただの卵とじじゃない。最近ずっと胸の中でぐるぐると渦巻いている、あの人への、言葉にできない感情がこもっていた。
カバンにお弁当箱を詰め込み、家を出る。
まだ少し肌寒い朝の空気を吸い込みながら、自転車のペダルを漕ぎ出した。
行こう、行こう。あの子ん家。
向かう先は、社長であり、頼れる相棒であるドズさんの家。
今日は動画の企画会議と、その後の収録を彼の家で行うことになっていた。
自転車を走らせながら、ぼんじゅうるはいつものように、あの人への愛おしい感情に息が詰まりそうになる。
動画の編集、企画の立ち上げ、会社の経営。
四六時中、ドズルは楽しそうに、そして真剣に画面に向き合っている。
『あの子を見つめるお仕事あったらな。いいのにな』
もしそんな仕事が本当にあったら、自分は誰よりも優秀な社員になれる自信があった。
ドズさんの笑い声、集中している時の少し尖らせた唇、真剣な眼差し。
それを特等席でずっと見ていられる仕事があるなら、給料なんていらねえよな、なんてバカなことを考える。
坂道を上りきり、ドズさんの家の前に着く。
自転車を止め、玄関の前で一呼吸置いたその時。
中からかすかに、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「〜〜♪ 〜〜〜♪」
心地いい鼻歌。まだこちらが来たことには気づいていないらしい。
『あの子の鼻歌毎日聞けたなら、いいのにな』
玄関のドアノブに手をかけたまま、ぼんじゅうるは小さく苦笑した。
毎日これを聞ける立場になりたいなんて、そんな贅沢で大それた願い、口が裂けても言えるわけがない。
俺たちは相棒で、ビジネスパートナーで、最高の仲間。
その境界線を越える勇気なんて、今の自分にはひとかけらもなかった。
だから、この溢れそうな想いは全部、お弁当箱の隅に閉じ込めておくんだ。
「おーい、ドズさん。入るよー」
ドアを開けると、リビングから「お、ぼんさん! 待ってましたよ!」と、パッと笑顔が飛んでくる。
「朝早くからありがとうございます!お腹空いてません? なんか頼みます?」
「いや、いい。今日はさ、これ作ってきたから」
カバンから少し照れくさそうにお弁当箱を取り出すと、ドズさんは目を丸くする。
「えっ! ぼんさんの手作り!? うわ、めっちゃ嬉しい!」
テーブルに並んで座り、ドズルが勢いよくフタを開ける。湯気とともに広がった卵とじを見て、ドズルは本当に嬉しそうに目を輝かせた。
「いただきまーす!」
大きな口で卵とじを頬張るドズさん。
「んんー! 美味い! 出汁が効いてて最高です!」
その笑顔を見るたびに、胸の奥のモヤモヤとした塊が、すっと溶けていくような気がする。言えない気持ちを卵とじにして、お弁当に詰め込んで。
伝わらなくていい、気づかれなくていい。
ただ、こうして目の前で美味そうに食べてくれる。それだけで十分。
「……それは良かった。いっぱいあるから、残さず食えよ」
「もちろん! 毎日でも食べたいくらいですよ!」
ドズさんが何気なく放ったその言葉に、ぼんじゅうるは一瞬だけ心臓を跳ね上がらせ、それからフッと優しく笑った。
「ばーか。調子いいこと言うなよ」
そう言いながら、また明日も、彼のために何か作ってやろうかと考えている自分に気づく。
2人の賑やかな時間が、今日も美味しく、温かく、お弁当箱を挟んで流れていった。
ライラ🔮🌸🌙
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ネコばなーな🐾
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みるく
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コメント
1件
お、新作読んだわ!「言えない気持ちを卵とじ」ってタイトル回収の仕方、めっちゃ好き。ぼんさんがドズさんの笑顔見て「伝わらなくていい」って思うのに、もう次の日も作る気満々なとこ、尊すぎるだろ…相棒の距離感でいるからこそ、ああいう細かい心の動きが刺さるわ。卵とじに込めた想い、ちゃんとドズさんに届いてる気がするよ🔥