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朝日が窓のカーテンの隙間から差し込む頃、はるはまだ布団の中。昨夜、かなを抱きしめながら眠りについたぬくもりが心地よく、ゆっくりと目を覚まそうとしていた。だが、その隣にいるはずのかなの気配が、ない。
静かすぎる部屋。耳を澄ませば、ドアがそっと閉まる音が聞こえた――。
その少し前。
かなは、テーブルの上で震えるスマートフォンを見つめていた。着信履歴はすでに十数件。全て「母親」からの鬼電。無言の圧が心を締めつける。
「……帰らなきゃ、私……」
まだ不安が完全に晴れたわけではない。でも、このまま逃げているわけにはいかない。そんな責任感と、恐怖とが入り混じった気持ちを抱えながら、かなは静かに立ち上がる。
はるを起こすつもりはなかった。きっと、止められてしまう。それが怖くて、申し訳なくて、だから何も言わずに部屋を抜け出そうとした。
けれど――。
「……かな?」
寝ぼけた声で目を覚ましたはるが、隣にいないことに気づき、跳ね起きた。
ドアを開け、靴音の響いた玄関を見て心臓がざわめいた。
「まさか……」
はるは慌てて着替えもそこそこに、かなの名前を叫びながら家を飛び出す。
「かなっ!待って!どこに行くの!?」
でもかなはもう見えない。朝の通学路に紛れて、どこかへ消えてしまった。
はるの足が自然に動いた。学校と逆の方向、昨日かなが「帰りたくない」と言っていた家――その方向へ。
心臓が痛いほどに鳴っている。
「お願い、間に合って……っ!」
不安と焦りと、知らない間に育っていた「大切な人を失う恐怖」が、はるの背中を押し続けた。