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静かな朝の街、まだ人通りもまばらな歩道を、かなは俯きながら歩いていた。重たくて息苦しい心――それを抱えて、家に向かっているはずなのに、足取りはどこか曖昧で、迷子のようにふらふらと進んでいた。
その背中に――あたたかく、でも強く、誰かの腕が回る。
「……見つけた。」
息を切らしながらも、必死で笑おうとするはるの声。
かなは驚いて振り向こうとするが、はるはそのまま後ろから抱きしめ続ける。
「一人で行かせないって言ったじゃん……!」
その言葉に、かなの体がふっと力を抜いた。そして――ぽろり、と頬に涙が落ちる。
自分が泣いていることに気づいて、かなは目を見開いた。
「え……なんで……わたし……泣いて……」
声が震えた。普段は強がって、誰にも見せなかった涙。自分の感情さえ分からなかったはずなのに、今はっきり分かる。
怖かった、寂しかった、でも。
「……はる、来てくれて、嬉しい……」
ぎゅっと、腕に力を込めるかな。
はるはその背に顔を寄せて、小さく言う。
「泣いてもいいよ。かなは、ひとりじゃないんだから。」
街の朝が少しずつ明るくなっていく中、二人は、誰もいない通りでしっかりと抱き合っていた。