テラーノベル
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美術室は、夕陽が差し込むたびに色を変える。
絵具の匂いと静かな空気が混ざり、昼間とはまったく違う顔を見せていた。
資料を返そうと扉に近づいたその時――
中から柔らかな笑い声が聞こえた。
すち先生とみこと先生だ。
通りすがりにいつも一緒にいる二人。
穏やかで優しい空気が似ているせいか、誰が見ても“相性抜群”だと思われていた。
──しかし今日、その理由が「ただの仲良し」ではないと知ることになる。
「今日さ……他の先生に触られてたよね?」
柔らかい口調とは裏腹に、すち先生の声にはどこか鋭い熱が混ざっていた。
絵筆を机に置きながら、みこと先生の手首をそっと掴んで引き寄せる。
みこと先生はぱちぱちと瞬きをする。
「え、え? え、俺? 触られた……? 覚えてないけど……?」
「……ほんと、天然。 そんな無自覚で笑ってたら、誰でも触りたくなるに決まってるでしょ」
言葉は穏やかだったが、すち先生の瞳は明らかに嫉妬で揺れていた。
美術室に差し込む光がその眼差しを照らし、静かな独占欲を浮かび上がらせる。
「みことは俺のでしょ?」
みこと先生が返事をするより早く――
すち先生が抱き寄せ、みこと先生の後頭部に手を添える。
そして。
深く、逃がさないキスが落ちた。
みこと先生が息を呑む音さえ、耳まで届く。
すち先生は後頭部を押さえ、 離れられないように唇を重ね続ける。
舌を絡める音が、美術室の静けさにわずかに混ざる。
みこと先生は必死に息をしようとしながらも、 すち先生の強い気持ちに呑み込まれていく。
力が抜け、膝が震える。
そして――キスがようやく離れた頃には、 みこと先生はその場に崩れ落ちるように腰を抜かして、 ぼんやりと意識が飛びかけていた。
「……もぅ、ほんと……可愛い……」
すち先生は息を吐きながら、完全に力の入らないみこと先生を抱き上げる。
「今日はお仕置きだからね。覚悟して」
声は穏やかだが、どこか甘く沈んだトーン。
みこと先生は、まだまともに言葉も返せない。
胸元にぐったりと寄りかかり、頬を赤らめたまま小さく息を漏らしていた。
私は扉の隙間から見た瞬間、完全に固まった。
(す、すち先生って……あんな顔するんだ……!?)
普段は柔らかい微笑みで、生徒に優しく接してくれるすち先生。
そのすち先生からは想像もつかないほど、強い独占の熱がこぼれていた。
みこと先生を抱きしめる腕も、落ちそうになれば自然に支える仕草も、 全部が「特別」だと一目でわかった。
顔を熱くしながら、そっと扉から離れる。
(……アリだな)
ただ“優しい先生”じゃない。
誰かひとりを深く愛すると、あんな顔をするんだ。
その事実を知った瞬間、胸の奥がぞくりと震えるような感覚に包まれた。
コメント
1件
アリよりのアリですね