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昨日の夜🌙
玄関を閉める。
静か。
さっきまでの声が、嘘みたいに消える。
靴を脱いで、そのまま壁にもたれる。
北斗「……はぁ」
疲れてない。
むしろ、妙に冴えてる。
頭の中だけがうるさい。
風磨の膝。
あいつの寝顔。
俺の名前。
“いる?”
あの声、反芻するたびに胸が締まる。
北斗「寝言だろ」
わかってる。
意味なんてない。
でも。
北斗(俺の名前だった)
それだけで十分だった。
リビングに入る。
上着をソファに放る。
スマホを見る。
連絡は来てない。
当たり前。
〇〇はもう寝てるだろうし。
起きたとしても、昨日のことなんて半分も覚えてない。
俺だけ。
北斗、キッチンへ。
冷蔵庫から水を出す。
コップに注いで、一口。
昨日、あいつにも言えばよかった。
「水飲め」って。
いや、言わなくてよかった。
言ってたら、たぶん優しくなりすぎてた。
北斗「……重」
自分の感情が。
思った以上に。
シャワーを浴びる。
熱い水をかぶっても、消えない。
あいつが他のやつに寄りかかってた光景。
正確には、一瞬。
でも十分だった。
北斗(俺のじゃない)
何度も繰り返す。
自分に言い聞かせるみたいに。
ベッドに横になる。
部屋は暗い。
天井が遠い。
目を閉じる。
――ぽすん。
感触、思い出す。
ほんの一瞬、俺の肩に預かった重み。
そのあと離れた温度。
北斗「……」
なんであのまま、支えなかった。
なんで、手を伸ばさなかった。
意地。
余裕のフリ。
不仲コンビ。
全部くだらない。
北斗(奪えばよかった)
思った自分に、少し驚く。
そんなタイプじゃなかった。
追われる方が楽だった。
でも今は。
他のやつの膝に乗ってる姿、見たくない。
北斗「ダサ」
片腕で目を覆う。
暗闇の中で、あいつの声。
“ほくと”
あんなに柔らかく呼ばれたの、初めてだった。
北斗「……いるよ」
誰もいない部屋で、もう一度。
返事は当然ない。
静寂だけ。
スマホを手に取る。
トーク画面を開く。
何か送ろうとして、やめる。
今送ったら重い。
今はまだ、ただの仲間。
ただのいつもの距離。
指を止める。
北斗(焦るな)
始まってもない。
勝手に一人で進んでるだけ。
あいつは何も知らない。
それでいい。
北斗はスマホを伏せる。
目を閉じる。
でも。
眠れない。
胸の奥に残ってるのは、
あの寝顔でも、
嫉妬でもなくて。
安心したみたいに
“いる?”って聞いた、あの瞬間。
北斗(俺に聞いたんだよな)
たぶん。
偶然でも。
無意識でも。
それだけで、十分だった。
北斗は小さく息を吐く。
北斗「……今日は寝かせろよ」
誰に言ってるのかも分からないまま。
夜は、思ったより長かった。
―――――
時計、2:17。
目、閉じてるのに意識がはっきりしてる。
最悪。
寝返りを打つ。
シーツがやけに冷たい。
北斗「……なんなんだよ」
疲れてるはずなのに。
体じゃなくて、頭がうるさい。
風磨の膝。
きょもの声。
“好きでしょ”
否定しなかった自分。
北斗(認めたのか、俺)
誰にも言ってない。
告白もしてない。
何も始まってない。
でも、自分の中では確定した。
好きだ。
それが一番眠れない理由。
天井を見る。
暗い部屋。
静かすぎる。
あいつは今、ぐっすり寝てるんだろうな。
何も知らずに。
俺がこんなことになってるのも。
昨日の寝言も覚えてないだろうし。
北斗「……ずるい」
無防備に寝るくせに。
名前呼ぶくせに。
安心した顔するくせに。
こっちは、勝手に持っていかれる。
スマホを手に取る。
トーク画面。
最後のやり取りはまだない。
送ってないから。
打つ。
『昨日さ』
消す。
重い。
打つ。
『寝言覚えてる?』
消す。
怖い。
打つ。
『ちゃんと家入れたか心配』
……これならいけるか?
いや、今2時。
さすがにキモい。
北斗、スマホを胸の上に置く。
目を閉じる。
あの声。
“いる?”
あれは確認だった。
俺がいるかどうか。
他のやつじゃなくて。
俺。
北斗(期待すんな)
無意識。
偶然。
たまたま近くにいたから。
でも。
もしあの時、俺がいなかったら?
あいつ、誰の名前呼んだんだろう。
想像して、胸がざわつく。
北斗「……無理」
嫉妬してる自分が、思ったより幼い。
奪いたいわけじゃない。
でも。
選ばれたい。
その感情が、一番厄介。
ベッドから起き上がる。
キッチンへ。
水を飲む。
冷たい。
昨日、あいつに言えばよかった。
「水飲め」って。
なんであんな時だけ余裕なくなるんだ。
北斗(不仲コンビ、ね)
あれが一番安全だった。
距離も保てる。
踏み込まなくていい。
でももう、戻れない気がする。
昨日の夜で、何か変わった。
あいつは変わってない。
俺だけ。
北斗はソファに座る。
暗い部屋。
窓の外、街灯の光。
静かすぎる。
北斗「……いるよ」
小さく。
昨日と同じトーンで。
あの時みたいに。
でも今は、誰も聞いてない。
返事もない。
それでも。
あの瞬間を思い出すと、少しだけ胸が落ち着く。
好きって、めんどくさい。
でも嫌じゃない。
眠れないけど。
苦しいけど。
あいつの名前思い出すたび、少しだけ笑ってしまう。
北斗「……ほんと最悪」
時計、3:04。
まだ眠れない。
でもきっと明日も、いつも通り電話する。
普通の声で。
何もなかったみたいに。
それが一番きついって分かってるのに。
目を閉じる。
眠れなくてもいい。
せめて、夢に出てくれ。
そう思った瞬間。
また、あの声が浮かぶ。
“ほくと”
深く息を吐いた。
ーーーーー
結局、浅い眠りのまま朝。
スマホを手に取る。
連絡はない。
当たり前。
あいつはきっと、何も覚えてない。
それでも。
指が勝手に動く。
発信。
コール音。
出た。
〇〇「もしもし?」
いつも通りの声。
それだけで、少し安心する自分がいる。
北斗「起きた?」
普通のトーン。
何もなかったみたいに。
水を飲めと言って。
昨日の話を少しだけ出して。
“俺には?”って、つい聞きそうになって。
やめた。
あいつは覚えてない。
俺だけが覚えてる。
通話が終わる。
画面が暗くなる。
北斗、しばらく動かない。
北斗(俺だけか)
昨日の寝言も。
服を掴んだ感触も。
安心した顔も。
全部、俺だけの記憶。
あいつは「通常運転」。
それが少し寂しい。
でも。
それでいい。
今はまだ。
――――――――――
昼過ぎ。
ふと気になる。
あいつ、水飲んだか?
朝、ちゃんと飲めって言ったのに。
こんなの、ただの心配。
ただの確認。
ただの、いつもの俺。
トークを開く。
北斗
『水飲んだか』
既読、すぐ。
〇〇
『飲んだ』
短い。
それだけ。
北斗、少しだけ息を吐く。
安心してる自分が分かる。
続けたくなる。
昨日のこと。
覚えてないのか聞きたくなる。
でも。
言わない。
北斗
『ならいい』
送信。
それだけ。
冷たい文面。
でも本当は。
北斗(無理すんなよ)
昨日みたいに無防備になるなよ。
他のやつの前で、あんな顔するなよ。
……言えるわけない。
スマホを伏せる。
胸の奥に、まだ残ってる。
あの夜の声。
“いる?”
北斗「いるよ」
小さく、また呟く。
でもこれは、俺だけの感情。
あいつはまだ何も始まってない。
好きでもない。
意識もしてない。
俺だけが、一歩踏み込んだ。
それでもいい。
追うのは嫌いだったはずなのに。
今は。
この距離のままでも、そばにいたいと思ってる。
北斗「……重」
自分で笑う。
でもやめない。
まだ言わない。
まだ壊さない。
ただ。
水を飲んだか確認する男でいる。
それでいい。
今は。
――――――――――
SixTONES 楽屋。
ジェシー「昨日の途中合流のやつさ、何かあったの?」
高地「樹たち意味深だったよね」
樹「……あったよな」
慎太郎「あった」
きょも「うん」
北斗「やめろ」
ジェシー「何?気になる」
高地「教えてよ」
樹「〇〇寝たんだよ」
ジェシー「へぇ、珍しくない?」
慎太郎「問題は寝方」
高地「寝方?」
きょも「最初、北斗の肩」
(ジェシーと高地が北斗を見る)
北斗「……」
樹「そこまではまあ普通」
慎太郎「で、バランス崩して」
きょも「風磨の膝」
ジェシー「は?」
高地「なんで?」
樹「ルートおかしいだろ」
慎太郎「北斗その瞬間フリーズ」
ジェシー「嫉妬?」
北斗「してない」
きょも「してた」
高地「そんな分かりやすいの?」
樹「分かりやすい」
慎太郎「目が笑ってなかった」
北斗「……」
ジェシー「で、そのまま?」
きょも「風磨がちょっと煽った」
樹「“連れて帰ろっかな”って」
高地「うわ」
慎太郎「その時の北斗早かった」
ジェシー「何て言ったの?」
樹「“やめろ”即答」
ジェシー「ははは!」
北斗「……」
きょも「俺が“なんで?”って聞いたら」
高地「うん」
きょも「“嫌”って」
(空気が少し変わる)
ジェシー「素直」
慎太郎「そのあとも止まらなかった」
樹「“俺の前であんな顔して寝るの他に見せたくない”」
ジェシー「え?」
高地「それは…」
北斗「言うな」
きょも「事実」
慎太郎「完全に本音」
ジェシー「北斗そんなこと言うの?」
樹「言った」
高地「それ好きじゃん」
北斗「……」
(少し沈黙)
慎太郎「で、決定打」
ジェシー「まだあるの?」
きょも「〇〇が寝言で」
高地「うん」
きょも「“ほくと、いる?”」
ジェシー「え」
樹「その場全員止まった」
慎太郎「北斗も止まった」
高地「で?」
きょも「“いる”って」
(楽屋、静か)
ジェシー「映画?」
慎太郎「少女漫画」
樹「そのあと北斗が抱き上げた」
高地「うわ」
ジェシー「ヒーローじゃん」
北斗「……やめろ」
樹「で?今日相談ってことは」
慎太郎「昨日で完全に自覚したんだろ」
北斗「……した」
ジェシー「何を」
北斗「好きだわ、俺」
高地「ついに」
きょも「でも?」
北斗「でもあいつは何も知らない」
樹「天然だからな」
慎太郎「寝言も多分無意識」
ジェシー「期待しちゃうやつだね」
北斗「するだろ」
高地「じゃあどうするの?」
北斗「何もしない」
樹「またそれ」
北斗「今の不仲コンビのままでいい」
慎太郎「昨日あんな顔してたのに?」
北斗「……」
きょも「限界くるよ」
北斗「こない」
ジェシー「いや来る」
高地「絶対来る」
樹「その時また会議な」
北斗「開催しなくていい」
慎太郎「昨日の“いる”は一生いじるけど」
北斗「黙れ」
きょも「北斗」
北斗「何」
きょも「大事にするなら、逃げるなよ」
(少し沈黙)
北斗「……分かってる」
北斗side
楽屋のドア、閉まる音。
一人、廊下。
さっきまでの笑い声が遠い。
北斗「……最悪」
バレてた。
全部。
嫉妬も。
本音も。
“いる”も。
思い出して、耳が熱くなる。
北斗(好きだわ、俺)
口に出した瞬間、逃げ場なくなった。
自覚はしてた。
でも、言葉にすると重さが違う。
壁にもたれる。
天井を見上げる。
あいつは今、何してるんだろう。
たぶん普通に笑ってる。
昨日のことも、深く考えてない。
俺が一晩眠れなかったことも知らない。
北斗「何もしない」
さっき言った言葉、反芻する。
今の距離がちょうどいい。
不仲コンビ。
軽口叩いて。
電話して。
水飲んだか聞いて。
それくらい。
踏み込まなければ、失わない。
でも。
慎太郎の声が浮かぶ。
“昨日あんな顔してたのに?”
きょもの声。
“逃げるなよ”
北斗「逃げてねぇよ」
小さく呟く。
……逃げてるのか?
昨日。
風磨の膝に落ちた瞬間。
本当は、引き寄せたかった。
俺の肩に戻したかった。
でも動けなかった。
余裕ぶってた。
結果、嫉妬。
ダサい。
北斗(あいつは何も知らない)
それが一番きつい。
俺だけが、あの夜を抱えてる。
“ほくと、いる?”
あの声。
何度思い出しても、胸が静かに痛む。
選ばれたわけじゃない。
ただ近くにいただけ。
でも。
俺の名前だった。
北斗はスマホを取り出す。
トーク画面。
特に用事はない。
それでも開く。
昨日の履歴。
今日のやり取り。
短い文。
そっけない距離。
北斗(これでいい)
今は。
もし俺が踏み込んだら。
あいつ、困るだけだ。
好きじゃない相手に向けられる好意って、重い。
分かってる。
だから何もしない。
でも。
何もしないって、簡単じゃない。
目に入るたび。
声を聞くたび。
昨日の夜が蘇る。
北斗「……限界くる?」
ジェシーの言葉、思い出す。
たぶん、くる。
でもまだじゃない。
まだ耐えられる。
まだ“仲間”でいられる。
それならいい。
北斗はスマホをポケットに戻す。
仕事のスイッチを入れる。
ステージに立てば、余計な感情は消える。
消えるはず。
それでも。
心の奥に残ってる。
あの小さな声。
確認するみたいな、不安げな声。
北斗「いるよ」
今は言わない。
本人には。
でも。
いなくなる気もない。
逃げない。
ただ。
まだ動かない。
それだけ。