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りちょニキ前提しろニキ
死ネタ
同棲してる
しろせんせーはりぃちょのことを知らない
しろせんせー視点
「…っ、…ぅ、ッり、…ちょぉ…」
突如魘される声がして、目が覚めた。魘されているのは俺の隣で寝ている恋人で、俺の知らない名前を延々と声に出し続けている。浮気かと疑いたくなる光景なのだろうが、どうもそんな気はしなかった。浮気、というより俺越しに誰か別の人を見ているという感覚に近いだろうか。彼にとっての本物の恋人にはなれないんだろうなって、今この瞬間悟った。俺よりも先にニキと出会っているキャメにでも何か知っているか聞いてみようか、と思いながら布団から抜け出した。
*
「なあキャメ、りぃちょって誰なん」
別日キャメに問えば、鳩に豆鉄砲という顔をしていた。やっぱりニキくんは言ってないよね…と独り言を零したキャメは息を飲んで、真剣な眼差しを俺に向けてきた。思わず俺も固唾を呑む。
「…りぃちょくんはねニキくんの元彼だよ」
「は?」
驚いた。彼にそんな素振りは一切見当たらなかったからだ。何となくそいつがニキの中で大きい存在なことくらい分かる。それと同時にニキに悲しい想いをさせるりぃちょという人物にふつふつと怒りが込み上げてくる。
「りぃちょくんは探しても見つからないよ」
それはどういう事なのだろうか。俺は今すぐにでもりぃちょというニキを悲しませる元凶を一発でもぶん殴ってやりたいというのに。
「だって、りぃちょくんは…
この世にはもう居ないから」
嗚呼、そういう事か。りぃちょという人物を深掘りしたことを酷く後悔した。俺はそのりぃちょって奴の代わりなんだ、そう気づいてしまった。キャメから更に詳しく話を聞けば、りぃちょという奴はニキ以上の気まぐれ屋さんという感じだった。今此処で息をずっと止め続けたらどうなるんだろう、そんな疑問が好奇心に変わる。それが奴の原動力。そして、キャメは「きっとりぃちょくんの事だから俺が今死んだらニキくんはどんな反応をするんだろう?みたいな好奇心から命を絶っちゃったんだよ」と確信のない憶測で語られた。本当にとんでもない奴だ。そして、俺はアイツが弱ってるタイミングに漬け込んだ悪魔みたいなやつって訳だろう。ぬか喜びもいいところってんだ、本当に。
「お前は止めんかったんか」
「っ、…」
苦味を噛み潰したような顔で、目を逸らされる。
「…俺は止めようとしたんだけど、死亡推定時刻の数分前に連絡が来たんだ『ニキニキをよろしくね』ってさ…」
これは間に合わなかったと言うべきか、それとも善処したと言うべきか…。それにキャメが今まで見たことの無い顔をくしゃ、と皺をつくっているのが、やはり周りから好かれていたであろう情景を浮かべさせる。友人という関係性でこんなにも辛そうなのだ、恋人だったニキはどんな気持ちで過ごしてきたんだろうか。
「…すまん。この話は辞めようか」
考えれば考えるだけ思考が纏まらなくなる。背けたい現実から逃れたくて話をぶった切る。案の定、こんな話の後じゃあまともな話もできるわけがなくあのままお開きになった。
「ん、ボビーおかえり」
知らぬ間に起きて編集に打ち込んでいた彼に声をかければ、おかえりと返ってきた。それとなく彼が編集ロボットと言われるほどデスクに付きっきりな理由がわかった気がする。
「そんな見られると恥ずいんだけど…」
「…すまんな」
どうもその場から動く気が起きずぼんやりと彼を見つめていれば、唇を尖らせながら頬を赤らめる。
「ほら、風呂入りな?お湯張ったばっかだし」
「…ほんなら有り難く入らせてもらうわ」
これ以上見るなと言いたいような目線を送られて、大人しく従う。それにしても普段シャワーで済ませる彼がお風呂のお湯を張るだなんて珍しい。まあそういう日もあるか、とあまり気にせず風呂に入った。
髪を乾かしてリビングに行けば、ソファでボーッとするニキが居た。俺を見るなり固く閉ざされていた口を開き、喋り始める。
「ボビーは何処にも行かないよね…」
「もちろんや」
定期的に聞かれるこの言葉。この言葉の意図が読めた。否、読めてしまった。だけども、どうせ俺が死んでもりぃちょのように魘されるくらい想ってくれてないんだろ。
「ボビーなんか泣きそう?」
「アホか、」
そんな考えは無意識に顔に出てしまっていたらしく、彼に泣きそうな顔と言われたが、誤魔化した。大丈夫だよと赤子をあやす様に頭を撫でられ、子供扱いすんな、と悪態をついたが今の彼は間違いなく俺をきっちりと捉えていてこのままじゃ本気で泣いてしまいそうだった。こんな気持ちになるのなら聞かなければ良かった、知らなければ、気づかなければ、まだ幸福で入れたのかもな。
「…そっか、俺先に寝てんね」
俺が悩んでいることなんて彼には見透かされてる。ふっと優しく微笑んで深く求めてこない辺り本当、人情の厚い奴だよな。そんな彼の所に惹かれたのだそれも含めてやはり俺はアイツが好きなのだ。恋が実ることなんざこの上ない幸福なはずなのに、こんなにも苦しいだなんて知りもしなかった。恋語がれたあの時よりも、失恋した時の苦しみを想像したあの時よりも何倍も受け入れ難い現実で、苦痛。
フラフラと覚束無い足取りで寝室に向かう。そこにはもう既に眠りについていた彼がいた。彼を起こさないようにそろりと隣に入る。
「く、ぁあ…」
欠伸が出た。もうそろそろ俺も寝ようと思い、掛け布団に手を伸ばしたそのタイミングで思いっきり服を掴まれた。
「ッぅ…り、ちょ……」
掴まれた方を見やれば異常なほどに汗をかき、りぃちょを闇雲に探すようにボソボソと嗚咽を漏らし、縋るように俺の服を強く握るニキが居た。
「…っ、…りぃ、ちょっ…ど、こ…っ」
今夜もまた魘されて、りぃちょって何度も呼ぶ。ここに居るよ、とあえて関西弁を出さずに優しく頭を撫でながら言えば、少しだけ微笑んでまた深い眠りに戻っていく。
なぁニキ、俺はお前の愛するりぃちょの代わりにはなれてんのか。