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ある日の朝早い時間。駐車場で作業をしていると、いいんちょーに声をかけられた。
「おはよう。何してんの?」
「修理とガソリン入れてるー」
「俺も手伝うよ」
作業をしながら、会話が続く。
「車両の整備とか連絡事項の共有とか、いつもありがとうね」
「いいんちょーこそ、現場の取りまとめ、ありがとねー」
とても穏やかな時間だった。
救急隊のみんなが活躍できるようにしていた裏方を私は好きでやっているだけだったのに、そこをいいんちょーに見出されて副医院長になった。
そんなに大変じゃないんだけどな。いいんちょーの方が大変だと思うんだけどな。
「お疲れー。ナイスIGLだったよ」
「救助漏れないですよ」
「たまには現場に出ていいんだからね」
「出てますよ。さっきも別の事件現場に行ってきたので。自分は自分で楽しくやってますよ」
大きな犯罪現場での対応が終わった後、医院長とそんな言葉を交わす。
時間的にもしばらくの間の救助要請は他の隊員任せても大丈夫だろう。
「そう言えば」と言いながら医院長は話を続ける。
「俺が来る前から救急隊だったろ?ぽっと出の俺が医院長で良いのかなって」
「そんなことないですよ。IGLは楽しいですけどまとめたり折衝は苦手なので。誰かの下ぐらいがちょうど良いです」
「それなら良いんだけど」
そう伝えたはずなのに「IGLは自分よりも適任だから」と医院長の独断でもう一人の副医院長と医院長に押し上げられた。医院長だってできるでしょ?とは思うけど、自分の行動の評価と信用がされて嬉しい。
こうして救急隊は医院長三人体制になった。
本当は相棒と呼んでいる人にギャングに誘われていた医院長。
元副医院長を含め、同僚の何人かは闇堕ちしたけれど、医院長は最期まで医院長をやると自分たちに宣言し、救急隊に残ってくれた。
医院長は多くを話さなかったけど、大きな決断だったことは分かる。
警察との現場介入の話し合いで医院長は立派に救急隊の方針を告げていた。
医院長は警察の事情もギャングの事情も両方わかっている。そして救急隊がダウンしたらもっと影響が大きくなることも分かっている。
「俺、前に立ってこういうこと言うの苦手なんだよぉ」
「全然できてた!」
「いいんちょー、すごい!」
「二人がいてくれて心強かったよ」
こちらは自分たち医院長三人。警察は署長から中堅まで10人近くいた。
そんな中、あれだけ堂々と発言していたのに、会議が終わった途端にぺしょぺしょになっている。
実際、俺たちは発言もせず隣にいただけだったが、偉ぶらずに素直に感謝を伝え、同じ目線で立っている、そんな人だから信頼しついていける。
「これ、二人へのプレゼント。いつもありがとうね」
医院長が丸一日休んだ翌日。呼び出されてついて行けば労いの言葉とプレゼントを受け取る事になった。
贈られたのはフロガーというヘリコプター。聞けば自分の車やヘリは買っていないらしい。
プレゼントは嬉しいが、給料は自分のために使えよ!と思う。
自分のことには無頓着で周りに給料を使ってしまう医院長のために、もう一人の医院長の提案で家を買って贈った。
「俺、いつも貰ってばっかりだ。もう、こんなことされたら嬉しすぎて泣くってぇ」
いや自分たちの方こそいつも助けて貰っている。
医院長。救急隊を選んでくれてありがとう。
たまには自分たちに任せてゆっくり休んでくれ。