犯罪現場での銃撃戦が増えるにつれて、事件対応中にダウンすることが増えた。
ここは最前線で銃撃戦がまだ続いているため、救助要請は出せない。
救急隊は非武装だ。おそらく現場が収束するまで救助はされないだろうと覚悟する。
(ミスったなぁ)
まだ続く銃声を聞きながらそう思っていると、突然身体が浮いて移動させられていた。
見上げると見慣れた黄色のマスクを着けた医院長に担がれていた。
「はやっ」
「まだ銃声するからすぐ離れるね」
言葉少なくそう言われると救急隊のヘリに乗せられ、そのまま警察署まで運ばれ治療を受けた。
「さっき撃たれてませんでした?」
「まぁ少し。でも俺、医院長だから平気だよ」
「はい。しばらくは安静にしてください。また別の現場で頑張って」
治療が終わり、医院長はそう言うとヘリで飛び去った。おそらく先ほどの現場に戻るのだろう。
医院長だから大丈夫ってどういうこと?
理屈に合わない。
束の間の休憩中、救急隊の現場介入の話になった。
「事件現場でも救急隊がだいぶギリギリまで入ってくれるようになりましたね」
「でもあの医院長だけ、最前線でも異様にピック速くない?」
「俺目線ですけど、ダウンして気付いたら後ろに医院長いるんですよね。救助要請をまだ出していないのに」
「それってヘリから状況を把握してるってこと?」
「この前はロードキルをスライディングでかわしてましたよ」
「なんなら最前線の流れ弾を、スライディングで避けてましたね」
「あの人、救急隊だよね?」
そんなことを話している後ろを先輩警官が通りながら言う。
「アイツならそれぐらい余裕っしょ」
そうは言うが、それが一朝一夕でできないことだけは分かる。
自分だって避けられる自信は無い。
医院長はまるで戦場を駆け抜ける衛生兵のようだ。同僚は空から舞い降りてきて天使みたいだとも言う。
すぐ助けてもらえるから次の現場にも行ける。
医院長、いつも助けてくれてありがとうございます。
また次の現場も頑張ります。
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