「桜坂さん!」
律は思わず声を張り上げ、慌ててフロントを飛び出した。
背後で泰三が何か言っていたが、耳には入らない。
ホテルの廊下を、華の小さな背中が駆け抜けていく。
必死に追いかけ、角を曲がった先でようやく彼女の腕を掴んだ。
「……待ってください!」
振り返った華の瞳には、大粒の涙が溜まっていた。
「……律さん、放っておいてください!」
腕を振り払おうとするが、律は離さなかった。
「放ってなんておけません!」
その真剣な声に、華の足は止まった。
震える肩を抱えるように、彼女は目を伏せる。
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