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第6話:夜明け前の「約束」


アオイが手紙と未来の「証明」をポストに投函してから、一日の時間がひどく長く感じられた。

ポストの闇に吸い込まれたメッセージが、ナギの人生の転機となるよう、ただただ祈るしかなかった。

窓の外の海はいつも通り穏やかだったが、アオイの胸の内は嵐の前の静けさのようにざわついていた。

「手紙は、届いたかな…」

アオイは海猫軒のカウンターに頬杖をつき、

無意識にナギの最後の絵、あの「荒れた海と小さな船」の写真をスマホで見ていた。

あの絵は、周囲の期待と自己否定の波にもまれながらも、必死で航路を探すナギ自身の心の風景だったのだろう。

夕方、町役場の職員から電話がかかってきた。

「ナギ君のお引越しですが、予定より一日早まり、明後日になりました。お母様からの連絡で…」

アオイの心臓が、ドクンと大きく鳴った。

(あと二通どころじゃない、もう一通しかやり取りできないかもしれない!)

最後のチャンスが、突然、目前に迫ってきた。

アオイは電話を切り、すぐにナギへの最後の手紙を書き始めるべきか迷った。

しかし、ナギからの返事を待たずして「最後の手紙」を送ることは、

彼の心をさらに追い詰めるのではないかという不安が、アオイの手を止めさせた。

その夜は、ほとんど眠れなかった。

朝になり、慌ててポストを覗くと、昨日の不安を打ち消すように、少し厚みのある封筒がそこにあった。

「ナギ君からだ!」

アオイは震える手で封を開けた。

中には、いつものナギの丁寧な文字で書かれた手紙と、数枚の薄い紙が入っていた。

ナギは、アオイからの手紙と、未来からの「証明」を読んで、深く感動していた。

アオイさん、

印刷されたメッセージ、何度も何度も読みました。

2000人以上の人が、僕の絵を見てくれて、心を動かしてくれた… 美術の先生たちが、僕の絵を認めてくれた…

「絵は、人の心を救い、勇気を与えることができる」

この言葉が、僕の頭の中で何度も響いています。

お母さんが言う「役に立つこと」とは違うかもしれないけど、

僕の絵が誰かを救ったという事実が、

こんなにも僕を強くしてくれるなんて、想像もしていませんでした。

嬉しくて、恥ずかしいけど、また泣きました。

お母さんのことも、少し考えてみました。

お母さんは、僕に苦労させたくないんだと、アオイさんの手紙を読んで少しだけ理解できました。

でも、僕はもう、絵を「隠すもの」「悪いもの」として見つめることができなくなりました。

「筆だけは絶対に手放さないこと。」

約束します。新しい町に行っても、僕は絵を描き続けます。

誰かに見せるためじゃなく、僕自身の心を守るために。そしていつか、未来の誰かを救うために。

僕の旅立ちは、予定より一日早くなりました。

だから、この手紙が、アオイさんとの最後の文通になるかもしれません。

本当にありがとうございました。

アオイさんの言葉と、未来からのメッセージは、僕の人生の宝物です。

もし、これが最後の手紙になるなら、未来のアオイさんに、

僕の決意を込めた「未来の約束」を届けたいです。

同封した紙は、僕がこの町で最後に描いた絵のスケッチです。

もしよければ、未来で、僕がこの絵を完成させているか見てほしい。

さよなら、そして、ありがとう。

ナギ

同封されていたのは、鉛筆で描かれた、まだ粗いスケッチだった。

描かれていたのは、荒れた海ではなく、静かに朝陽を浴びて輝く灯台だった。

灯台の光は、暗い海原を照らし、未来への希望を象徴しているように見えた。

アオイは、そのスケッチを握りしめ、安堵と、胸を締め付けるような寂しさに包まれた。

ナギは、自ら新しい一歩を踏み出す勇気を得た。しかし、これが、本当に最後の手紙となるかもしれない。

「約束…絶対、筆は手放させない。」

アオイは、ナギが旅立つ前に、もう一通

「未来で会いましょう」という希望に満ちたメッセージを届けたいと強く思った。

彼の旅立ちが早まった今、最後の望みを託して、アオイは急いでペンを取った。

時を越えるポスト

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