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翠玲
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静寂。
誰も声を出せなかった。
赤い空。
崩壊する世界。
そして。
空を覆うほど巨大な影。
その存在を見上げながら、過去のこさめは静かに言った。
🦈「未来を壊そうとした人だよ」
全員が息を呑む。
影はゆっくりと形を変えていく。
霧のような黒い塊。
その中心に。
一人の人影が浮かび上がった。
そして――
こさめは固まった。
🦈「……え」
見覚えがある。
毎日顔を合わせている。
ぶっきらぼうで。
口は悪いけど。
なんだかんだ面倒見がよくて。
新人の頃から助けてくれた。
🦈「いるまくん……?」
誰も否定しない。
未来の少女が目を伏せる。
らんも黙っている。
すちも苦しそうな顔をしていた。
🍍「嘘だろ」
なつが呟く。
🍍「嘘だよな」
返事はない。
記録の中の若いいるまがそこにいた。
今と少しだけ雰囲気が違う。
もっと鋭く。
もっと疲れ切った顔をしていた。
その目は。
絶望を見続けた人の目だった。
🦈「なんで」
こさめの声が震える。
🦈「なんでいるまくんが」
すると。
記録の中の過去のこさめが答えた。
🦈「いるまは悪人じゃないよ」
静かな声だった。
🦈「一度も」
全員が顔を上げる。
記録は続いていた。
📢『もう終わりにしたかったんだ』
若いいるまが呟く。
崩壊する空を見上げながら。
🌸『何が』
若いらんが睨む。
📢『全部だよ』
いるまは笑った。
でも。
その笑顔は全然楽しそうじゃなかった。
📢『未来があるから』
📢『人は傷つく』
📢『夢を見るから』
📢『絶望する』
📢『希望があるから』
📢『失う』
未来の光が揺れる。
泣いているみたいだった。
📢『だから未来を消せばいいと思った』
静寂。
📢『誰も傷つかない世界になる』
その声は怒りじゃなかった。
憎しみでもない。
むしろ逆だった。
優しすぎた。
苦しむ人を見続けて。
悲しむ人を見続けて。
その果てに。
間違った答えへ辿り着いてしまった。
🦈『馬鹿だね』
その時。
過去のこさめが笑った。
いるまが睨む。
📢『何がおかしい』
🦈『全部』
📢『……』
🦈『未来がない方が苦しいじゃん』
あっさりと言う。
いつものこさめみたいに。
🦈『失敗するかもしれない』
🦈『傷つくかもしれない』
🦈『泣くかもしれない』
🦈『でも』
未来の光へ手を伸ばす。
🦈『笑えるかもしれない』
静寂。
🦈『幸せになるかもしれない』
いるまの表情が揺れた。
🦈『未来ってそういうものでしょ』
記録が少しずつ薄れていく。
だが。
最後の場面だけは鮮明だった。
若いいるまは泣いていた。
誰にも見られないように。
俯いたまま。
📢『俺は』
小さな声。
📢『怖かっただけなんだ』
📢『‥ごめんなさいッ』
その言葉を最後に。
記録が終わる。
現代。
誰も喋らない。
こさめはゆっくり振り返った。
そこには。
今のいるまが立っていた。
ずっと黙っていた。
何も言わず。
ただ記録を見ていた。
🦈「……いるまくん」
呼ばれる。
いるまは苦笑した。
📢「全部思い出しちゃったか」
いつもの口調だった。
でも。
どこか疲れていた。
🦈「本当に?」
こさめが聞く。
🦈「本当に未来を壊そうとしたの?」
いるまは少し考えた。
そして。
正直に答えた。
📢「した」
なつが息を呑む。
だが。
いるまは続けた。
📢「でも」
目を閉じる。
📢「壊したかったわけじゃない」
🦈「……え?」
📢「誰も泣いてほしくなかった」
静かな声。
📢「それだけだった」
📢「こんなことになるなんて、思わなくて」
こさめは何も言えなかった。
分かってしまったから。
いるまは悪人じゃない。
誰かを苦しめたくなかった。
守りたかった。
ただ。
守り方を間違えた。
その結果が。
未来消失事件だった。
すると。
未来の少女が歩き出した。
全員が驚く。
未来はいるまの前まで来る。
そして。
小さな手を伸ばした。
いるまが固まる。
📢「未来?」
未来は答えない。
ただ。
そっといるまの手を握った。
未来「……ごめんなさい」
小さな声。
今度は未来が謝った。
未来「わたしがいたから」
📢「違う」
即答だった。
いるまの声が震える。
📢「それは違う」
未来が目を見開く。
📢「お前は悪くない」
いるまはそう言った。
三千年前。
言えなかった言葉を。
ようやく。
そしてその瞬間。
世界が大きく揺れた。
館内放送が鳴り響く。
『封印解除率』
『100%到達』
全員が凍りつく。
ついに。
最後の封印が解けた。
そして。
施設の遥か上空で。
『人類の未来』が完全に目覚めようとしていた。