コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
いつのまにか、寝てしまっていた。
まだ明け方4時。
貴君を起こさないように、そっと自分の布団に戻った。
やっぱり一人で寝る方が伸び伸びできていいな。
あー、そもそも私は結婚に向いていないのかも、なんて思いながら寝た。
朝になった。
寝不足のせいか少し頭が痛い。
若い頃は一晩くらい寝なくても平気だったのに。
「おはよ!今日はどこ行く?近くに滝もあるみたいだよ」
「あれ?起きてたの?」
「うん、せっかくだから朝風呂入ってきたよ、未希ちゃんもどう?」
「そうだね、さっぱりしてこようかな」
これ、若かったら朝からもう一回、なんてこともあっただろうけど。
私では無理だろうな、若いお嫁さんがいてくれた方が貴君は幸せになるだろう。
なんといっても子どもが産める、本人はそんなに欲しがってないみたいだけど家のことを考えたら、必要なことだ。
熱めのシャワーにして、湯船にどっぷりつかる。
体に残る貴君の余韻を、流してしまおう。
これはこれ、楽しかった思い出だ。
朝ごはんを食べて、ナイアガラみたいだと有名な滝へ行った。
また顔ハメパネルで写真を撮って、帰りは道の駅に寄ってお土産をたくさん買って帰った。
「ありがとう!楽しかった」
「こちらこそ、また…ってまたはないだろうけど、またツーリングとか行こう、面白いことしようね」
「うん、しよう、じゃあね」
家の前まで送ってもらった。
旦那はまだ帰ってないようだ。
あんなに楽しみにしてた旅行は、特にトラブルもなく終わった。
「ただいま!」
玄関マットの上でタロウが眠そうにしている。
リビングに入ると、家の電話が鳴った。
ほとんどの連絡はそれぞれのスマホに入るから、この電話が鳴ることはほとんどない。
「もしもし?」
『小平さんのお宅でしょうか?』
「はい、そうですが」
『私、南川警察の久喜といいます。実は小平進さんが車の事故に遭われまして、病院に搬送されました。
どなたかご家族の方に病院に行っていただきたいのですが…』
「えっ…」
『奥様でしょうか?搬送先は市立病院です』
「あ、あの…」
『詳しくは病院でお聞きください、それでは』
ガチャリと切れた。
車の事故?
ワナワナと足が震えている、行かなきゃ、とにかく。
「タロウ、またお留守番しててね、行ってくるから」
慌てないように、深呼吸をしなきゃと思うのにもう車は走り出していた。
市立病院の救急の入り口から中に入った。
受け付けで、事故で運ばれた小平進はどこですか?と聞く。
「その方でしたらこの奥の…」
説明途中で奥を見たら、救急処置室という部屋が見えた。
慌てて部屋へ入る。
「進君!」
「え!」
「あ!」
左腕に包帯を巻き、顔には絆創膏が2枚、頭には包帯、でも座っていた。
「未希ちゃん、きてくれたの」
「警察から電話があって、事故して運ばれたから病院へって。よかった、大したことなさそうで」
わりと元気そうな様子を見てホッとした。
ドラマでよく見る、ICUとかで、いろんなものが繋がれて…なんて想像していたから。
「奥様ですか?」
「はい」
「一応の検査はしましたが、頭を打っているので念のため今夜は入院してもらいます。外傷は大したことはありませんが、打撲がありますのでそちらの経過も見ないといけませんので」
「あ、そうですか、でも血まみれとかじゃなくてよかった」
本当にそう思った。
もしものことがあったらどうしよう?そればかり考えていたから。
それじゃあこちらへと、旦那は車椅子に乗せられて入院する部屋へ連れて行かれる。
四人部屋だったが、他には誰もいなかったので気兼ねなく入れた。
「では、これで」
と看護師さんが出ていく。
よっこらしょとベッドに移る旦那。
「ねぇ、なんで事故なんかしたの?どんな事故?」
「猫がね、飛び出してきたんだよ、それを避けようとしてガードレールにどん!頭をドアにぶつけたみたいでさ、脳震盪を起こしてて、通りがかった人が救急車を呼んでくれて、今に至る、みたいな」
「猫か…被害者がいなくてよかったけど」
「猫もね、スーパーの袋だったみたい、白猫だと思ったんだけどなぁ。ゴミはちゃんと捨てといて欲しいよな」
運が悪かったとしか言えない事故だけど、これくらいで済んで運が良かったと言うべきか。
「保険屋さんにはさっき電話したし、車もレッカーしてもらってあるから、あとは心配ないと思う」
あははと気まずそうに笑う旦那。
「…だから…」
「え?」
「心配したんだからね!笑うとこじゃないでしょ!!」
思わず大きな声が出る。
「あ、うん、ごめん…。でも、うれしかったよ」
「なにが?」
「来てくれるとは思わなかったから」
「そこまで冷たい女じゃないと思うよ、私は」
「そうだね…」
ただ、自分でも驚いていた。
離婚すると決めたのに、こんなに慌てて心配になって、まだ少し手が震えている。
「明日、夕方でしょ?退院するの。迎えに来るから待ってて」
「うん、お願いする」
病院をあとにして家へ帰る。
昨日と今日と、たった24時間でこんなにも状況が変わって、気持ちがバタバタして疲れた。
ソファに横になったら、そのまま寝てしまっていた。
貴君からLINEがきてたことには、朝まで気づかなかった。