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第九話:ほんと疲れる
とある日の夕暮れ、オレンジ色に染まったバギー海賊団の船の甲板に、バギーのイライラした声が響いた。
「ったくよぉ……なんなんだよ最近は!」
どん、と靴で甲板を蹴りつけ、バギーは苛立ちをあらわにした。カバジは静かにその様子を見守りながら、隣でスッと口を開く。
「どうされました、船長?」
「どうもこうもねぇよ!最近よぉ、どこ行っても誰かに声かけられるし、告白まがいのことされるし、酒場じゃ『バギー様~♡』だぞ!?俺様はそんな軽くねぇんだよ!!」
バギーの眉間には深いシワ。声も段々と大きくなる。
「もう……ほんと疲れるぜ!」
「それは……大変ですね、船長。」
カバジの言葉は静かで、どこか落ち着いていた。しかしその後、彼は少しだけ視線を逸らし、ふと口元に笑みを浮かべながら言った。
「……ですが、その気持ち、分からなくもありません。」
バギーは一瞬、キョトンとした顔になる。
「は?どういう意味だ?」
カバジはゆっくりとバギーの顔を見る。いつもは無表情な男が、今だけは少しだけ真剣な目をしていた。
「私も……好きですよ。バギー船長。」
「……え?」
空気が、一瞬止まった。
風も波も、静まったように感じる沈黙の中、バギーは思わず目を見開いた。
「お、おい……今、なんて?」
「……言葉通りの意味です。」
バギーは戸惑いを隠せなかった。顔を赤くすると同時に、後ずさるようにしてその場から離れる。
「わ、悪い!ちょっと用事思い出した!」
そして慌てて自分の部屋へと向かい、その扉をバタンと閉めた。
船の中、バギーの足音が遠ざかると、甲板には再び静けさが戻った。
一人残されたカバジは、海を見つめながら小さくつぶやく。
「……言っちまったな。」
バギーの部屋・夜
「はあああ!?カバジの奴、何考えてんだよ……!」
ベッドの上でバギーは大の字になって、天井を見つめる。
「いやいやいや、まて、あいつ男だぞ?いや、そもそも俺も男だし!いやでも最近の海じゃそういうのもありなのか?いや、ねーよ!!」
頭を抱えながら、ぐるぐると考えが巡る。だが、その中でふとよぎるのは、カバジのいつもの冷静さと、今日見せたほんの少しの「人間らしさ」だった。
「……でも、仲間だしな。」
バギーはぽつりとつぶやいた。
「カバジは信頼してる。戦うときも、逃げるときも、あいつはそばにいた。」
そう言いながらも、肩をすくめるようにして続ける。
「でも、だからってそういうのは……ちげーよ。なあ……?」
翌朝
甲板では、いつものようにカバジが掃除をしていた。バギーは船室から出ると、一瞬だけ躊躇したが、意を決して声をかけた。
「おーい、カバジ。」
「おはようございます、船長。」
カバジは振り返り、いつもと変わらぬ様子だった。
バギーは少しだけ言いづらそうにしながらも、なるべく自然に言った。
「昨日のことだけどよ。ありがとな。……でも、俺様は……お前のこと、仲間としてしか見れねぇ。……それだけだ。」
「……分かっております。」
カバジは一瞬だけ目を伏せて、静かに頷いた。
「気まずくなんのはゴメンだからな!お前が変に意識したりしたら、俺、遠慮なく蹴るからな!!」
「はは、いつも通りで安心しました。」
そう言って、カバジはほのかに微笑んだ。
数日後
バギーはいつものようにどこか騒がしく、甲板で大声を出していた。
「おい、カバジ!飯はまだかー!」
「ただいま準備中です、船長。」
「おっし!腹減ったぞ、今日は肉がいいな!肉、たんまりだぞ!!」
「承知。」
カバジは以前と変わらぬ忠義を見せる。しかし、誰にもわからない心の奥で、彼はほんの少し、淡く揺れる想いを抱えたままだった。
それでも、彼はそれを口に出さない。
ただただ、静かに、変わらぬ忠誠心をバギーに捧げる。
その関係が、きっと今の二人にとって、一番自然なかたちなのかもしれない――。