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第9話:冷たい川と熱い火花
若井side
結局、元貴の「夏といえば川だろ!」という強引な提案により、俺たちは近所の川へ行くことになった。
涼架は「いいね、行こう!」と二つ返事。俺に拒否権なんて最初からなかった。
河原へ続く山道を歩きながらも、元貴は常に涼架の隣をキープし、俺を置き去りにするように地元の思い出話を炸裂させている。
「覚えてるか、涼ちゃん?小3の時、あそこの崖から飛び込もうとしてビーサン流したの」
「あったねー!あの時、元貴が一緒に探してくれたんだよね」
「当たり前だろ。お前は俺がいないと何もできないんだから」
元貴が勝ち誇ったように俺を振り返る。その目は、明確に「お前は部外者だ」と告げている。
「…若井、大丈夫?荷物重かったら持つよ?」
涼架が心配そうに振り返ってくれるが、俺は首を振った。
「いや、いい。カメラだから。それより涼架、足元見ろ。また転ぶぞ」
「あはは、若井はお母さんみたいだね!」
「お母さんじゃなくて、過保護なだけだろ。なあ、都会のカメラマンさんよ」
元貴がニヤニヤしながら絡んでくる。
「風景撮りに来たんなら、あっちの茂みでも撮ってれば?俺と涼ちゃんは泳ぐからさ」
「…風景だけ撮るなんて言ってない。俺は、この夏の空気を撮りに来たんだ」
俺はカメラのストラップを短く握り直した。
川に着くと、そこは驚くほど透き通った天然プールのような場所だった。
涼架は川岸に着くやいなや、シャツを脱ぎ捨てて(その脱ぎ方も、裏返しのままでだらしない)バシャバシャと水の中へ入っていく。
「冷たーい!若井、最高だよ、ここ!」
太陽の光を反射してキラキラ光る水面と、その中央で無邪気に笑う涼架。
俺は反射的にカメラを構えた。フォーカスを合わせ、シャッターを切ろうとした、その瞬間。
「涼ちゃーん!ほらよ」
バシャーーーン!!
元貴がわざとらしく涼架のすぐ側で飛び込み、盛大な水しぶきを上げた。
「わあ!冷たっ!元貴、やったなー!」
「ひゃはは!いい顔してるぜ!」
俺のファインダーの中は、水しぶきで真っ白になった。
「……おい」
「あ、ごめんごめん!写真撮ってた?邪魔しちゃったかなー?」
確信犯だ。元貴はニヤつきながら、水から顔を出して俺を挑発してくる。
「若井も入ろうよ!気持ちいいよ!」
涼架が手招きする。俺はズボンの裾を捲り、渋々水に入った。
確かに冷たくて心地いいが、それ以上に、二人の間に流れる「幼馴染」という強固な結びつきが冷たい水以上に俺の胸を冷やす。
「なぁ、涼ちゃん。今夜、うちの母ちゃんが飯食いに来いって言ってたぞ。若井さんは…まあおばあちゃんとお留守番かな?」
「えー、若井も一緒がいいよ。ねえ、若井?」
涼架が俺の腕を掴む。濡れた指先が熱い。
「…いや、俺はいい。夜は今日撮った写真の整理をしたいしな」
俺が少し不機嫌そうに言うと、元貴が追い討ちをかけるように言った。
「ほら見ろ、都会の人は忙しいんだよ。涼ちゃん、今夜は久しぶりに二人で語り明かそうぜ」
元貴が涼架の首に腕を回す。その近さに、俺の中で何かがプツリと切れた。
俺は無意識に、涼架の空いてる方の手を掴んでいた。
「……若井?」
涼架が、不思議そうに俺を見る。
「涼架。明日は、俺と二人で撮りに行くって約束しただろ。今夜は早く寝るぞ。お前、朝弱いんだから」
「あ……うん、そうだね」
元貴の目が、一瞬で険しくなった。
「おい、あんた。涼ちゃんを縛り付けんなよ」
「縛りつけてるのはどっちだ。俺たちは、写真部の合宿みたいなもんでここに来てるんだ。お前の遊びに付き合ってる暇はない」
一触触発。涼架を挟んで、俺と元貴の視線が激しくぶつかり合う。
セミの声だけがうるさく響く中、涼架が「あはは…」と困ったように笑った。
「二人とも、仲良しなのは分かったから!ほらコテツも泳ぎたがってるよ!」
涼架は無理矢理話題を変え、河原で待機していたコテツを呼び寄せる。
俺は掴んでいた涼架の手を離したが、その熱はいつまでも拳に残っていた。
元貴という強敵の出現で、俺の「被写体を見つめる目」には、いつの間にか、自分でも気づかないほどの執着が混ざり始めていた。
次回予告
[縁側と消えない熱]
お久しぶりです!ちょっと一回新しい物語を更新したいと思うので、それが終わったらまたこの物語を更新していきたいと思います。
コメント
6件
久しぶりの投稿 ありがとうございます💕新しいお話しも楽しみにしています❤️🔥

💕