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ほんと唯一無二。
放課後、オレンジ色に染まり始めた校舎。
俺は屋上のドアを蹴破るようにして開けた。
フェンスの側に、夕陽を背にして立つデカい背中を見つけた瞬間、視界が熱くなる。
「……阿久津!!」
俺の声に肩を震わせ、あいつが振り返る。
逃げようとするその胸ぐらを掴むより早く、俺は全力で助走をつけて阿久津の腹にタックルした。
「がはっ……っ!? てめぇ、何すんだ……!」
「逃げんじゃねーよ、クソ阿久津!待ちやがれっつってんだろ!」
勢い余って、俺たちは屋上のコンクリートの上に転がった。
俺は阿久津の体の上に跨り、そいつのシャツをシワが寄るほど強く握りしめる。
「我妻! お前……っ、俺がどんな思いで離れてやってると思ってんだよ!」
阿久津が俺を突き放そうと腕を突っ張る。
その目は、一週間前と同じように、今にも壊れそうなほど揺れていた。
「お前を見てると、また変なことしたくなるんだよ!傷つけたくねーから、だから我慢してんだろ!」
「誰がそんなこと頼んだよ! 勝手なことすんなボケ!」
俺は阿久津の胸を、拳で思い切り叩いた。
「お前がいねーと…っ、俺、喧嘩もできねえんだよ!他の奴と喋っててもつまんねぇし」
喉の奥が震えて、声がうまく出ない。
阿久津が、呆然としたように目を見開く。
その瞳に、夕陽の赤と、必死な俺の顔が映り込んでいる。
「……お前、それ……なんの告白だよ。喧嘩したいから戻ってこいってか?」
「うるせぇ!そうだよ! お前のクソみたいな暴言がないと、毎日調子狂って死にそうなんだよ!」
「お前のせいで、俺の脳みそまで完全におかしくなったんだから、責任取れよ!!」
沈黙が流れる。
屋上を吹き抜ける風の音だけが聞こえる中
阿久津は数秒、石にでもなったみたいに固まっていた。
やがて、あいつの肩が小刻みに震え始め…
「……っは、はは……っ!」
噴き出すように、阿久津が笑い声を上げた。
それはいつもの馬鹿にしたような笑いじゃなくて
心の底から溢れ出したような、晴れやかな笑いだった。
「……くそっ。本当、可愛くねぇな、お前」
次の瞬間、視界が反転した。
力強く引き寄せられ、俺は阿久津の腕の中に閉じ込められる。
骨が軋むほど強く、折れそうなほど激しく。
「…マジでお前愛くるしいわ。憎たらしいくらいにな……」
耳元で囁かれた、初めてのストレートな言葉。
俺はあいつの広い背中に回した手に力を込め、鼻を啜りながら答えた。
「…うっせ。もう、お前じゃなきゃダメなんだよ」
喧嘩でしか繋がれなかった俺たちの
これが精一杯の、そして唯一の「愛」の形だった。