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人生最悪の日はいつかと聞かれたら、俺は真っ先にあの日のことを思い浮かべるだろう。

見回りを終えて楡井と蘇枋と別れ、帰宅しようとしたときのことだ。

近道をするために入った道を抜けるとそこは歓楽街に繋がっており、俺は居心地の悪さを感じて早歩きでその道を抜けようとしていた。

BARやクラブの煌びやかな看板やキャッチの声を無視してひたすらに歩いていると、どこかから女の声が聞こえた。

それは短い悲鳴で周囲にいる人間は俺以外にその悲鳴に気がついていないようだった。

足を止めた俺は迷うことなく悲鳴が聞こえた方向に向かって走っていた。

女に絡むダセェ輩か、はたまた通り魔的な何かが女を襲っているのかもしれない。もちろんただの空耳かもしれないが杞憂で済むなら越したことはない。俺は狭い路地を通って悲鳴が発せられたであろう現場に走った。

路地の奥に僅かに広まったスペースが見え、何人かの人影が動いていた。

俺の視界に映ったのは男二人と女一人の計三人。

男のうちの一人は女の首元に覆いかぶさっていた。そして地面にはポタポタと赤い液体が垂れており、ただの男女の痴話喧嘩には到底見えなかった。

「やだっ、誰かっ……た、たすけてっ…」

女の助けを求める声が聞こえたそのとき、俺は考えるよりも先に身体が動いていた。

その場で地面を踏み込むと、女に覆いかぶさっていた赤毛の男に向かって飛び蹴りをかました。だが、赤毛の男はまるで後ろにも目があるかのように襲撃を読みきってあっさりと俺の蹴りを躱した。

俺は攻撃を避けられたことに怯むことなく、次の反撃を仕掛けようと拳を構えるが、近くにいた大柄の男が俺に向かって手を伸ばしてきたことで、咄嗟に後ろに下がり距離を取った。

俺は一旦状況を整理する。

襲われていた女はピクリとも動かず地面に倒れ込んでいる。

俺が最初に蹴りを喰らわせようとした赤毛の男は血のついた口元を服の袖で拭うと、ジッと俺のほうを見つめている。

そして、手を伸ばしてきた大柄の刺青男は突然乱入してきた俺に興味があるのか、ペロリと舌舐めずりをしてこちらを眺めていた。

二人組の男の雰囲気は明らかにヤバい。

コイツらを相手に女を抱えてこの場を脱出するのは容易ではない。

ならば、この場で時間を稼いで誰か助けが来るのを待つべきだろうか。

俺は臨戦体制を崩さずに、男たちを睨みつけた。

「………おーおー…焚石の食事の邪魔をするなんて度胸のある仔猫じゃねぇか」

「別にいい。もう食べ終わった後だ」

「ありゃまー…せっかくヒーロー気取りだったのに手遅れだったとは可哀想になぁ…」

赤毛の男は地面に倒れる女の体を足で退かした。その拍子に、完全に瞳孔が開いて動かなくなった女の顔が露わになった。

俺はその面を見て瞬時に自分が間に合わなかったことを察した。

女の首筋に開けられた二つの穴、その穴から流れ落ちる鮮血、先程の行為を「食事」と言った男の言葉。

そして薄暗い路地で揺れる真っ赤な瞳。

それらの全てが目の前の男たちの正体を俺に知らしめていた。

_________吸血鬼。

人間を食べるために襲う人外の生き物。

今までも下級の雑魚吸血鬼は一人で相手したことは何度もある。だが、おそらく目の前にいる二人は今まで会った下級吸血鬼とは比べ物にならないほどの高位の吸血鬼だ。

俺一人で相手取れるものではない。

俺はゴクリと唾を飲み込んで、少しでも奴らと距離を取ろうと後退る。

「焚石ぃ、お前腹いっぱいになったか?いらねぇならコイツ俺が貰っていいー?なんかすげぇ甘い匂いすっし…ちょー美味そうじゃんっ」

「まだ物足りない。あれは俺が貰う」

二人の視線が俺の手首に向けられた。そこは今日の見回りで迷子の猫に引っ掻かれ、運悪く出血してしまった箇所であった。

俺は咄嗟に自分の手首を掴み、ジリジリと迫ってくる二人を睨みつけた。

_______どうする、応戦を試みるか。

正直コイツらに勝てる気はしてない。

そして、防風鈴の規則では上位吸血鬼との一対一の応戦は禁止されている。俺は短く息を吐き、頭の中で梅宮からよく言われる言葉を思い出した。

『敵わないと思った相手に一人で挑むな、まずは自分の身を守ることが優先だ、逃げることは卑怯なことじゃない。逃げることが自分や誰かを守ることにつながるときもある』

脳内に浮かんだ梅宮の言葉のおかげで俺の覚悟は決まった。

俺は奴らが行動を起こす前に踵を返して来た道を引き返した。

今はとにかく人が多い大通りに出よう。

息を荒げて必死に肺に空気を送り込み、足を動かすことだけに専念した。砂利を踏みしめ、倒れたゴミ箱を飛び越えてひたすらに駆け抜けた。

しばらく走ると俺が女の悲鳴を聞いた大通りまで出てきた。チラリと後ろを振り向いてみると、予想とは裏腹に路地には誰もいなかった。

俺のことを追いかけるのが面倒になったのか、食事をする気がなくなったのか。どちらかはわからないが、あの二人組の興味が自分から逸れたことに安堵して俺はその場に立ち止まり、溜めていた息をぜぇぜぇと吐き出した。

何か悪い夢を見ていたようなそんな感覚だった。

けれども、今目の前で起きた事象は現実以外のなにものでもない。

確かにあの男たちの瞳は深紅の色に染まっていた。

あれは吸血鬼が吸血衝動を起こしたときの眼。そして赤毛の男に血を吸われて目を虚にさせて倒れていた女の青白い顔。

「クソっ…なんなんだ、アイツらは……」

奴らの視界から外れたというのに、自分よりも生物として格上の奴らの圧を思い返すと、手が震えて上手く握ることができない。

もしあと一秒でも長くあの場に留まっていたら、俺もあの女と同じようにアイツらの餌食になっていたかもしれない。

悔しさや恐怖、そして逃げ出すことができた安堵。俺のなかで複数の感情が混ざり合い、酷い頭痛を感じた。

俺は震える身体をどうにか抑え込んで、制服のポケットに入れていたスマホを手に取り、警察に連絡を入れる。

自分の目の前で起きたことを自分で解決できないことへの不甲斐なさは確かにある。

だが、今の俺にできるのは警察に吸血鬼の情報と被害者がいるこの状況を伝えることだけだった。

あれほどの上位種がこの街を練り歩いているとなれば、また犠牲者が出る可能性は高い。それは俺の知っている街のやつかもしれないし、風鈴の仲間かもしれない。だとしたら、今俺にできるのはこれ以上の被害が出ないように情報を共有すること。

俺は通話に出た警察に事件を目撃した経緯と場所、犯人の特徴、そして犯人の吸血鬼に目をつけられて逃げていることを告げた。

警察はすぐに現場に向かってくれると言ってくれたが、俺はいつ奴らが路地から姿を現すかわからない状況でこの場で待機するのは危険だと判断し、一旦現場から離れた自宅に帰ることにした。

遠くから聞こえてくるパトカーのサイレンの音にホッと胸を撫で下ろしながらも、俺は足速に繁華街から抜け出した。

帰宅したら梅宮にも連絡を入れておこう。

この地域の軽度の吸血鬼事件は俺たち風鈴生が解決することも多く、なかでも梅宮は上位種との戦闘も経験している。

地元警察からは過度の活動は控えるようにと言われているものの、地域の治安維持に奮闘する防風鈴の活躍は警察や地元の人たちの間でも認められているのだ。

梅宮に話せばきっと何かしらの対応を考えてくれるはすだ。そのついでに楡と蘇枋にも後でLINEを送っておこう。

心配性の奴らのことだ。梅宮経由で俺が上級の吸血鬼に会ったことを知れば口煩く叱ってくるに違いない。

そんなことを考えているうちにいつのまにか俺は自宅のアパートに辿り着いていた。

部屋に入り電気をつけると見知った自宅の景色に一気に気が抜けて俺はその場にしゃがみ込んだ。制服を脱ぐ気力も湧かず、畳に敷かれた布団に制服を着たまま身を投げる。

放課後の見回りまではいつもと同じ日常であったのに、そのあとの出来事には酷く疲れた。

目を閉じると瞼に浮かぶのは、二人組の吸血鬼とその被害者になった女の顔。

あの女は大柄の男が言ったように手遅れだった。光を失った瞳に生気はなく、おそらくあの瞬間に命の灯火は消えた。

俺があと少し早く現場に辿り着いたら、俺が即座に男に反撃できていたら、結果は変わっていたかもしれない。そう考えると、ぶつけどころのない悲壮感に襲われて、目尻に熱いものが溢れた。

「…そだ、梅宮たちに…連絡しねぇと……」

そう言葉には出したものの俺の手はスマホを畳の上に手放していた。塩辛い雫が頬を伝うなかで、重たくなる瞼に抗うことができず、視界がぼやけていく。

今日は疲れた。少し休んでから、ひと眠りしてから、みんなに報告を入れよう。

そうして俺は制服に身を包んだまま、身体を丸めて布団の上で意識を手放した。

◇◇◇◇◇

それから数時間後、家主を急かすように等間隔で鳴らされるインターフォンの音で俺は目を覚ました。

_______一体誰がこんな時間に。

スマホを手に取り画面を確認するとスマホの時刻は午前一時を表示していた。

三十分ほど仮眠をとるつもりが、いつのまにか日を跨いでしまったらしい。

俺は寝起きのぼーっとした頭でインターフォンの鳴る先、玄関へと向かった。

こんな深夜遅くに自宅を訪問するような知り合いはいない。はた迷惑などこかの酔っぱらいが部屋を間違えているのではないか、そんな考えを抱き、俺はドアの覗き穴に右目を近づけた。

その直後、俺は咄嗟にドアノブを強く握り締めて内側に強く引いた。

外からドアを開けられないように渾身の力で押さえつける。ドアの先にいる相手は俺が来訪に気がついたことを察してたのか、ガチャガチャと音を立てて扉をこじ開けようと迫っていた。

最悪なことに俺の自室の鍵は壊れている。

チェーンロックなど侵入者を防ぐアイテムは一切備わっておらず、ドアノブを回すだけで最も簡単に侵入されてしまう。

俺は押し開けようとする力に必死に抵抗して、ドアノブを奥に引っ張り続けた。

___________最悪だ、最悪だ。

覗き穴の先にいたのは夕方に見た吸血鬼だった。そう、黒髪癖っ毛の大柄の男がにんまりと笑って外に立っていたのだ。

______どうして居場所がバレたのか。

帰宅するときも跡をつけられた形跡はなかった。となれば吸血鬼特有の嗅覚が原因だろうか。手首を怪我していることもあり、おそらく血の匂いを辿ってここまで突き止めてきたのだろうか。

吸血現場を目撃した俺を始末する目的なのか、はたまたそれ以外の理由があるのか、俺は様々な線を予測して思考する。

その間も男は俺の部屋に無理やり押し入ろうとドアノブを強く押してきていた。

____このままでは押し負ける。

_______どうする、どうすればいい。

いっそのこと窓から外に逃げるべきか。幸いにも俺の部屋は二階。アパート自体も高層の造りではないため、窓から飛び降りても怪我をすることはない。

しかし、そんな俺の考えが吹き飛ぶ事態がその直後に起きた。

ガシャンッ、と部屋の奥からガラスが割れる衝撃音聞こえて俺はハッと後ろを振り向いた。

自室から淡々と歩いて姿を現したのは、黒髪の男の相方である赤毛の吸血鬼。

その手には金属バッドのような筒状のものが握られていた。窓ガラスを割って侵入したのだろう、服にはガラスの破片が飛び散っていたが、男は破片を気にする素振りも見せずに金属バッドを床に放り投げると、玄関でドアを死守していた無防備な俺に手を伸ばした。

いきなりのことに防御できなかった俺は赤毛の男に首を掴まれた。

どこにそんな腕力があるのかと不思議に思えるほど、男の力は強く、首を締め上げられた俺は男の手を振り解けずにいた。

そして、俺が手を離したことによってフリーになった扉を外からガチャリと開けて、大柄の男が堂々と玄関から侵入を果たした。

「お、焚石ぃ…お目当てのモンは手に入ったかぁ?」

「あぁ、甘い匂い……すぐに食べる……」

赤毛の男は俺の首を絞めていた手をパッと離すと、ゴホゴホと咳き込む俺の首根っこを掴んでズルズルと引きずるように部屋のなかに進む。そして、床に敷かれた布団に俺の身体を放り投げると、手首を押さえて俺の身体に覆いかぶさった。

「……クッ、退けっ、クソ野郎ッ何しに来やがったっ、この人殺しッ!!」

「……………お前、甘い匂いがする。今まで嗅いだことのない…イイ匂い……」

赤毛の男は必死に抵抗する俺を押さえ込んで、首筋に顔を埋めた。奴の唇が肌に触れ、ゾクリと恐怖と嫌悪の感情が暴れ出すも、次の瞬間、男は鋭い牙を剥き出しにして俺の首筋に噛み付いていた。

「ぐっ、う、あぁっ…」

鋭利な刃物で刺されたような痛みに顔が歪む。

じゅるじゅると己の体内から血が吸われていく生々しい擬音が耳を掠めた。

「やっ、やだぁ、やめろっ、やめてっ、痛てぇッ」

生理的な涙がボロボロとこぼれ落ちた。

泣いて懇願する俺の静止に聞く耳を持たない男は自分の欲望のままに俺の血を啜っていく。

その顔は恍惚に満ちたものであり、ほんのりと頬は赤く色付き、男が心底興奮していることが理解できた。

「美味い……甘い、こんな血…飲んだことがない、全部、俺のモノだ」

男はそうブツブツと呟きながら俺の首に牙を突き立てて離れようとしない。

「いっ、うう、あっ、いやだッ、やめっ、んっあ」

歯を食いしばるほどだった痛みは次第にじわじわと別の感覚に変化していく。

身体の奥が疼くような、熱を欲するかのような未知の感覚。それは吸血行動に伴う快楽の症状だった。

痛いのに怖いのに、自分を搾取する目の前の男を拒絶することができない。

血を吸われすぎたのか、吸血から数分もしないうちにだんだんと意識にモヤがかかり始めて俺の瞳は光を失っていく。

赤毛の男は俺の変化に気がつくこともなく、熱に侵されるように一心不乱に俺の血を啜り続けてきた。

このままでは俺も先程の女のようにここでコイツに殺される。

恐怖のあまりじわりと涙が滲んだ。

すると、どいうわけか赤毛の男の吸血は止まった。

いや、正確にはもう一人の黒髪の男が赤毛の男を諌めるようにしてその腕を掴んでいた。

「まぁまぁ落ち着けよ焚石、そんなにがっつくとコイツ失血死するぞ。布団も血だらけじゃねぇか」

「離せ、邪魔するなら殺すぞ」

「俺がお前の邪魔をするわけねぇじゃん。でもよ、そんなに美味いなら今回限りじゃあ勿体無いって思わねぇ?」

「……………どういう意味だ」

「せっかくなら長く味わいたいだろ?けど人間はちょっと乱雑に扱うとすぐ死んじまうからなぁ…」

「……………………」

「ってことで、それならいっそのこと転化しちまおうぜ!俺らの血を飲ませて吸血鬼にして傍に置こう。そしたらいつでもどこでもコイツの血と身体を味わえるぜ♡」

「転化」という言葉を耳にして、朦朧としていた俺の頭は一気にクリアになった。

転化とは吸血鬼が人間に自身の血を飲ませることでその人間を吸血鬼化させる現象の名前。

それは吸血鬼が自身の種の存続のために同族を増やす手段として用いられることが多い。しかし、転化といっても必ず成功するわけではない。吸血鬼の血に耐えられず身体が拒否反応を示すケースがほとんどなのだ。そのため転化の成功例は非常に少ないとされていた。

そして、もし転化に失敗すれば、吸血鬼の血に拒絶反応を示した身体に大きな負荷がかかり、無理やり血を与えられた人間は死ぬ。

だが、例え低い確率を引き当てて転化に成功したとしても待っているのは真っ暗闇の地獄。

血を飲まないと保つことができない理性、日の光を浴びることで焼け爛れる皮膚。人間としての尊厳を全て無くして、人外として長い生を送らなければいけない屈辱。

それはどれも実に耐え難いものだった。

「そ、それだけは、やだっ…頼む、やめてくれ…」

転化させられるくらいなら、いっそのことここで死にたい。万が一にも俺が吸血鬼になってしまったら、俺が大切にしてきた人たちをいつかこの手で傷つけてしまうかもしれない。やっとできた自分の居場所を自分の手で壊してしまうかもしれない。それは俺にとって死の恐怖よりも恐ろしいものであった。

けれども現実は無慈悲なもので、赤毛の男は転化という選択肢に対して前向きな返答を口にした。

「確かに今殺すのは勿体無い。吸血鬼にして手元に置く」

赤毛の男は自身の掌を爪で傷つけた。

赤い線が走った掌からはツーっと鮮血が滴り落ちる。男がその血を俺の口元に無理やり押し付けようとしたタイミングで、再び黒髪の男が止めに入った。

「ちょいちょいタンマ、焚石の血は力が強すぎて成功率が下がるだろ。死なせたら元も子もない。だから転化は俺の仕事だ」

「………さっさとしろ。失敗したらお前も殺すからな」

「へいへい。そんじゃあ仔猫ちゃん、お兄さんたちのお仲間になろうな。大丈夫、苦しいのは最初だけだからよぉ」

赤毛の男と代わるようにして次は黒髪の刺青男が俺の身体に覆いかぶさってきた。

男は自身の唇を軽く噛んで出血を促すと、俺の顔を掴んで唇を無理やり重ねてきた。

俺はどうにか奴の血液が自分の口に入るのを阻止しようと頑なに口を結んで、必死に顔を逸らす。

男は俺の抵抗を小馬鹿にしながら鼻で笑うと制服の下に着ていたTシャツのなかに手を伸ばした。

大きくひんやりとした掌が俺の腹部に直接触れた衝撃から俺は抑えていた声を僅かに漏らす。男はそんな俺の反応を見逃さず、ニヤリと笑ってさらに奥へと手を滑り込ませ、俺の胸の突起をぎゅっと優しく摘み上げた。

ビクビクと肩を揺らして耐え忍ぶ俺の反応を楽しむように男は突起を弄り回し、俺が刺激を外に逃そうと背筋を反らしたタイミングで再び唇を重ねてきた。僅かに緩んだ口の隙間から唾液と共に奴の血液が俺の口内に流し込まれる。吐き出そうとしても、上から無理やり押さえつけられて注がれる血液を逃す場所はなく、俺は窒息に耐えられずとうとう奴の鮮血を飲み込んでしまった。

「よしよし、良い子だ。偉い偉い♡」

男はまるで幼い子供を褒めるかのように俺の頭を優しく撫でて先程の続きをするように俺の唇を貪る。

「んっ、あぁ、やめっ、んぁ…」

「あー……何コイツ…超可愛いわぁ。本当イイ拾い物したなぁ」

血と唾液の味が混ざり合う。

男は俺の頭を撫でながら、口内を味合うようにゆっくりと舌を絡めてくる。

熱と羞恥心に魘される最中、俺の心臓が突然ドクンと波打った。

それは今までとは明らかに違う異変。

自分の身体の中身が作り替えられるような骨の軋む激しい痛みを感じるとともに、体内を流れる血液の温度が一気に上がった。

_____なんだ、これは。

_______俺の身体に何が起きている。

「ぁ、あぁ、がっ、ゔぁあぁぁ」

ガタガタと身体を震わせて絶叫する俺の声を聞き、男は待っていましたと言わんばかりにニッと口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。

喉が焼けるように熱く、身体全身が痛い。

そしてなによりも自分のなかを何か得体の知れないものが侵食している感覚が恐ろしくてたまらない。

「よーし、拒絶反応はそこまで強くねぇな…ほら痛いのは俺が紛らわせてやっから、もうちょい我慢な」

男はそう笑って、軽く痙攣を起こす俺をあやすように抱きしめたかと思うと、先程の赤毛の男が噛み付いたのとは反対側の俺の首筋にガッと歯を突き立てて、その皮膚に噛み付いた。男はぢゅるぢゅると音を立てて俺の血を吸い上げていく。

俺は自分の身体の異変に未だに適応できず、男にされるがまま、体を震わせることしかできなかった。

「焚石の言う通り、お前の血すげぇ甘いなぁ…マジでこのまま飲み干しちまいそうだわ」

男は掘り出し物を見つけたと子供のような無邪気な顔で俺の血を啜り続けていた。

するとその様子を静観していた赤毛の男が苛立った声で釘を刺した。

「おい、加減しろ」

「大丈夫大丈夫、死なないギリギリまで吸うだけだからよ…それに俺だって味見したいしいよぉ」

「コイツを死なせたらお前を殺す」

「わーってるよ、それによ、適当に気絶させてやった方がコイツのためだと思ってさ。ほら苦しいのは可哀想だろ?」

男たちの会話の声が次第に遠のいていく。

いや違う、正確には俺の意識の方がぐらつき始めていた。

頭に血が回らずに思考が止まる。

転化の予兆と見られる全身をめぐる激痛と吸血行為によってもたらされる快楽。

この二つの感覚を遮るようにして、俺は突如として睡魔に襲われる。

二人の吸血鬼に無遠慮に血を吸われた俺は極度の貧血症状に陥っていた。

視界がぼやけ始めてクラクラと頭が揺れる。男はそんな意識が朦朧とした俺の身体を腕で受け止めた。

そして、男の「おやすみぃ」という囁き声を最後に、俺の意識は完全にシャットダウンした。



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