テラーノベル
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天使狩りが終わって世界には平和が訪れた。執事達は悪魔との契約を破棄して普通の人間に戻ったし、私の主様としての仕事も終わり。もうこの世界に私の存在は必要ない。それなのに指輪を外す気になれなかった。だって、指輪を外したらきっともう二度とこの世界に来ることができないと悟っていたから。だって、この世界に来られなくなるということは大好きな執事達とお別れすることになるということだから。
でも、今まで天使狩りや貴族からの依頼でしか役に立っていない私がこの世界に留まってもいいのかな?私がこっちの世界でできる仕事とかあるのかな?
私がひとりベッドの中で悶々と考えていると微かにノックの音が聞こえてそっと誰かが部屋に入ってきた。長い髪を三つ編みにしているのが見えたのでラトで間違いない。
ラトは足音を立てないで私が寝ているベッドの横に置かれた椅子に座った。
「主様、眠れないのでしょう?何か不安なことがありますか?」
『うん…これからのことをずっと考えてるの。指輪を外したらきっともうこの世界には来られないって気がするし、でもずっとお屋敷でお世話してもらうのも…せっかく皆自由になったのにそれを邪魔してしまわないかなって考えちゃって、どっちの世界で生きていくか悩んでて…』
ラトは私の悩みを聞くと、指輪を嵌めている手をぎゅっと握って縋るように私を見つめてくる。
「主様はこちらの世界に留まってくださらないのですか?こちらの世界の生活に不満がありましたか?他の執事達の自由を奪ってしまうよりも、執事達はその自由で主様にお仕えしたいと思っているはずですよ?それに、私から主様を奪わないでください。私は主様が居ないと壊れてしまいます。主様があちらの世界で暮らして二度と会えないだなんて状況になったら私はきっと…どんな死に方をするかは決めていませんが死にます。それでもあちらの世界のほうが大事ですか?」
今ここで元の世界に帰るだなんて言ったらラトが目の前で自害しかねない。それに、私はラトのことをずっと担当執事にしておはようからおやすみまでずっと側に居てもらっていたから、ラトと離れるのは嫌だ。それに現実世界に戻ったところで私の存在価値など有象無象の中に埋もれてしまうほどで、仕事も人間関係も家事もパッとしなくて全部中途半端。現実世界で孤独で延々と続くトンネルのような人生を歩むくらいなら、ラトと一緒に幸せな生活をしたい。もうラトが居ない生活なんて考えられなかった。
『…分かった、この世界で暮らすよ。でも、このままお屋敷に居たら迷惑じゃないかな…』
「大丈夫ですよ。私はミヤジ先生が作る学校の手伝いをすることになっているんです。なのでミヤジ先生が一緒に住むと約束しました。主様が増えても大丈夫ですよ。きっとミヤジ先生は三人で暮らすのには反対しないでしょうから」
確かにラトと二人きりで生活するとなると、ラトはパセリしか食べないし家事もできないだろうから私は主婦をしながら働かなくてはいけないのではないかと不安だったが、ミヤジが一緒に暮らしてくれるというのなら収入面も生活面も安心だ。
これからの方向性が決まって安心したのでラトの手を引いてベッドに誘った。ラトは素直に私の手に引っ張られてベッドに上がって靴を脱いで隣に寝そべる。
「くふふ、主様と暮らせるようになったら、毎日一緒にお風呂に入って、毎日一緒に寝ることもできますね。…でもミヤジ先生も一緒にとなると一番大きいベッドでもぎゅうぎゅうかもしれませんね。それに、主様の寝顔をミヤジ先生にも見せるのはちょっと嫌ですね。寝起きの目も開いていない子猫のような主様を見るのは私の特権ですから、一緒に寝るのは私だけにしましょう。できれば庭でパセリを育てられたらいいですね」
『ラトと二人きりで居られる時間が作れるの、嬉しい。ミヤジのことも好きだけど、ラトの好きとは違うから』
「私が特別に好きということですか?」
『そうだよ。じゃないと毎日ずっと担当にして側に居てもらって、おはようからおやすみまでお世話してもらう訳がないでしょ?』
「確かにそうですね。いつも一緒に居るのが当たり前だったので、主様が側に居ない生活をすると考えると壊れてしまいそうです。これからもずっと側に居てくださいね」
ラトが布団の中で私の手を握って唇を重ねて約束した。
翌朝、ラトと一緒にミヤジと同居したいことを話しに行くと、ミヤジはこうなることを全て見越して良さげな物件を幾つか見つけたと笑っていた。
「ラト君が主様を諦めて元の世界に帰すはずがないと思っていたからね。主様もラト君から離れたくないと言うだろうから、最初から三人で暮らせる物件を探したんだ。
寝室は分けるかい?それとも一緒に寝たいかな?」
ミヤジが何枚かの部屋の見取り図を見せてくれる。そのどれもファミリー向け物件という感じで、夫婦の寝室が一緒のものと分かれているものの違いくらいしかなかった。
「私は主様と一緒に寝たいです。なので広めの寝室がある部屋がいいですね」
「じゃあ、これとこれは無しだね」
ミヤジが完全に個室になっている間取りの紙を取り去る。
『私はトイレとお風呂が一緒になってるのはちょっと苦手なの。それにラトと一緒にお風呂に入りたいから大きめの浴槽がある部屋がいいな』
「それならここも無しだね。残ったのは三軒だから内覧に行ってから決めようか」
ミヤジとラトと私の三人で早速街に出て不動産屋に内覧をしたいとお願いしに行った。
幸い繁忙期ではないらしく、三軒とも一気に回れることになったので、馬車で物件に向かった。ミヤジがここがいいかな、と呟いていた物件が三軒のうちで一番広くて新しくて綺麗だった。ラトも私も広い浴室とオーブンが備え付けてあるキッチン、二人で使っても窮屈にならないであろう寝室、街にも出やすい距離などを加味してそこにしようと決めた。
『…でも家賃とか大丈夫なの?学校ってフィンレイ様から補助が出るといっても、設備を整えるのは自腹で授業料とか取らないんでしょ?私お金持ってないし、働くところも決まってないし、しばらく居候になっちゃうよ?』
「お金の心配はしなくていいよ。パレスで使い道がなくて貯めていた分もあるし、フィンレイ様から退職金をたくさん貰ったからね。ラト君の貯金と退職金もあるからしばらくは何もしなくても暮らしていけるよ。それにナック君が銀行に勤めることにして、学校の設立をバックアップしてくれると言ってくれているから初期費用も心配なさそうだから安心していいよ。主様が働きたいというのならば止めないけど、主様には専業主婦になってほしいと思っているんだ。私もラト君も学校の経営が安定するまでとても家事なんてできる状態ではないと思うからね」
『専業主婦かぁ…私の料理でロノのご飯を食べ続けてたミヤジの口に合うかな?』
「大丈夫ですよ、主様の作ってくださるパセリ入りパンケーキはとても美味しかったですから」
「作ってもらったものに文句は言わないから大丈夫だよ。でも肉料理が続くと少し困るかな…」
とりあえずの不安材料は潰れたし、家を借りる手続きもスムーズに進んだ。
新生活に必要なものを纏めて屋敷を出るとき、ベリアンが私の両手を握って優しく声をかけてくれた。
「私はこの屋敷で孤児院を経営するつもりですから…主様、いつでも帰ってきてくださいね。どうかお幸せになってください。ミヤジさん、ラト君、主様をお願いしますね」
『ベリアンも頑張りすぎないでね。時間が取れるようになったらお茶を飲みに来るからね』
「任せてください。主様が私を選んでくださったときから幸せにすると決めていますから」
「絶対に不自由な思いをさせないと約束するよ。いつか孤児院と学校の提携ができるといいな。その話し合いで屋敷に戻ることが多くなりそうだね。そのときは主様も一緒に連れてくるよ」
「ふふ、それなら安心ですね。楽しみにしています」
屋敷にお世話になりました、と声をかけて馬車に乗り込んだ。もう既に必要な家具などは搬入してあるし、あとは今持って行っている着替えや身の回りの物だけを荷解きすれば引っ越しは完了だ。屋敷を出ると言って散り散りになり始めた執事達が集まって引越しの手伝いをしてくれたので本当にあっという間に引っ越しの準備が終わってしまった。もちろん他の執事が店を開いたり引っ越したりするときの手伝いに行って恩は返したので、申し訳なさもなく気持ちよく新生活が始められそうであった。
学校の経営も落ち着くまで深夜まで仕事をして帰ってくるミヤジとラトを待って、朝は早起きして朝食とお弁当を作る日々がしばらく続いた。掃除と洗濯を済ませて買い物に行き、夕飯の下準備をしてから仮眠をとって、二人が帰ってきたらすぐにできたての食事を食べられるようにしていたが、だんだん帰宅時間も早くなってきて夜に眠れる時間も伸びた。
ミヤジが本格的に授業を始める頃には、ラトと寝る前に手を繋いだり抱きしめ合ったりして離れていて寂しかったのを埋めるようにスキンシップを取る時間も取れるようになった。
相変わらずパセリばかり食べるラトの偏食には困らされたが、私の作った食事は残さずに食べてくれるようになって、私もパセリを使った料理のレパートリーをどんどん増やしていった。
ロノが開いた料理屋に三人で行ってラトが美味しそうにパセリの入っていない料理を食べるのを見て、ロノはどんな魔法を使ったんだ!?と驚いていた。それからたまにロノの店に食べに行くのが習慣になり、ロノといかに美味しくパセリを食べるか、いかにミヤジにタンパク質を摂らせるか、と話し合ってお互いのレシピノートを交換して参考にしたりアレンジをしてみたりと偏食家たちの食生活を考える時間は楽しかった。
「主様は今幸せですか?」
寝る前に私を抱きしめながらラトが尋ねてきた。
『幸せだよ。ラトとこうやって一緒に居られるし、学校の仕事も安定してきたみたいだし、ロノとかベリアンに気軽に会いに行けるのも嬉しいし…』
私がそう答えるとラトは嬉しそうに笑った。
「それなら私も嬉しいです。主様の幸せが私の幸せですから。これからもずっと幸せでいたいですね。そのためならなんだってやりますよ?」
『ふふ、ありがとう。そうだな…お風呂の後髪を乾かさないで寝ようとするのはやめてほしいかな。風邪引いちゃうし髪も痛んじゃうよ?』
「おや…主様もフルーレのようなことを言うのですね。この間主様の新しい服を作ったからと届けてくれた時にもフルーレに「濡れた髪のまま寝ようとしてないよね?ラトが風邪引くことはないかもしれないけど、主様のお体を冷やして主様が風邪を引いたら許さないからね!?」と言われてしまったので、髪は乾かしてから寝ることにします。…正直面倒ですが、主様の健康のためと思えば続けられそうです」
離れて暮らしても相変わらず仲良しな元地下の執事達の会話がすぐ想像できて、私は思わず笑ってしまった。
『今度、フルーレが働いてるお店に一緒に行こうか。私も服のお礼を言いたいし、靴下とか下着もそろそろ新しいのが欲しいなって思ってるところなの』
「いいですね。今度の休みの日にでも行きましょう。何でも買って差し上げますよ」
相変わらず私のこととなると財布の紐が緩くなるラトの言葉を聞いて、私は愛されてるんだなぁと実感するのだった。
コメント
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うわ、もう、めちゃくちゃじんわり来た……😢🤍 指輪を外したら戻れなくなるって分かってて、それでもラトのそばにいたいって選ぶ主様の気持ち、すごく伝わってきた。ラトの「死にます」の一言、重いけど本気で言ってる感じがしてゾクッとした… ミヤジが最初から三人暮らしを想定して物件探してたのも優しくて笑ったし、ロノとのパセリ談義、めっちゃほっこりした🥀 偏食ラトが主様のご飯だけは残さず食べるようになったエピソード、胸熱すぎるよ… この「ささやかな幸せ」が、二人の過去を思うと本当に尊い…!また続き読みたいです🌙