「この曲、多分あの基地のことだよな?」
悠征がコーヒーカップを持ったまま、他三人に向かってそう言った。
疑問ではなく、確信を共有するみたいに。
「宿あった、茶色の鍵が南京錠なら…丁度二つあったっけ?」
「僕見てへんかったわ、どうやろ?」
平然を装いつつ、なんとかこの場を切り抜けられないか考える。
でも何も思い付かない。
何をしても、スイッチが入った二人はすぐまた戻るだろう。
半分諦め、半分希望。
止めるのはやめにして、流れに任せてみることにした。
「金の箱…ブリキ缶金だよな」
「錆びてる…けど、金っぽい!」
「月光浴びて光る花、足元覗けば金の箱…花柄の下にこれあった?」
「うん、あった」
一つづつ、確実に過去へ向かっていく。
「子供の手ぇとり踊りましょう…この人形かな…?」
「鍵をまわせば秘密の舞踏会キラキラ輪を成し舞っている?鍵なんかあった?」
「まわすってことは多分巻きネジだろ。無かった気がする…」
二人は、うーんと唸りながら考え込んでしまった。
空になったカップが見え、口を開こうとした瞬間悠征の目の前に紙の人形のようなものが飛んできた。
「げっ…師匠だ…」
「うそだろ、任務?」
「えーっと…えぇ?今からかよ…」
僕からすれば良いタイミングで、仕事が入ってしまった悠征は、急用だと言って走って出ていってしまった。
ネスも、今日は俺も…と言って、ドアへてを伸ばした。
「…ネスさん」
「はい?」
開ける前に龍が呼び止め、チラリとこちらを伺うように見る。
「何?どしたん」
「…これ、渡しときます」
龍は、なぜか蓋をしめてしまったオルゴールをネスに渡した。
ネスは一瞬驚いて何か言おうとしたが、龍はそれを静止して追い出してしまった。
「オルゴール渡しちゃったん?」
「一人で聞きたかったですか?」
「…んーん…聞きとうない、かも」
「ええ、…だと思いました」
通りすがりに僕の頭をポンポンと撫でてから、自室へ戻ってしまった。
オルゴールの奥で何か光っていたような…気もするが、一瞬だったので見間違いかもしれない。
オルゴールについては一旦終わったのだし、朝残していた書類や道具を取り出した。
ネスは家に帰ったあと、手の中のオルゴールを見つめたまま動けなくなっていた。
龍さんに渡されたのは、実はオルゴールだけでない。
古びた鍵も一つ、魁星から見えないように渡されていた。
見た感じだと、多分この二つはセットだ。
鍵をいれてまわせば、歌詞の”秘密の舞踏会”?について、何か意味が分かるかもしれない。
そう思っているのに、なぜか、動けずにいた。
それをしてしまうと、自分の中の何かが壊れてしまいそうで。
「はぁ…なんなんだよこれ…」
自分の中の意味の分からない感情にため息が出る。
パッとやってしまえばいいのに。
明日は配信こそないが執事の仕事があるし、寝るなら早い方が…。
「…っ…あークソ…知ーらない!」
思いきって鍵をまわす。
すると、鍵屋で聞いたのと同じ音楽が流れた。
「なんだよ…」
少し拍子抜けしていると、カポッという軽い音のあとに、もう一つの蓋が開き人の形の木彫りが二つ起き上がった。
どちらもタキシードのようなものが描かれている。
クルクルまわる体の腰くらいの位置に、二つのキラキラ光る輪…。
「…指輪…?うわ、ピッタシ」
何を思ったのか紫の方をはめてみると、なんとピッタリサイズだった。
少し小さいような気もするが、全然余裕な程度。
なら、もう一つの方は?
銀色のリングに、緑に塗られた石。
デザインはほぼ同じ。
でも、こちらはちょっとだけ小さかった。
「魁星なら入るかな…」
基地に着いたころから様子のおかしかった彼。
「…ん?」
基地に着いたころから?
それに、「二人だったよ」と、何か知っていたような素振り。
オルゴールも、多分わざと時間をかけていた。
音をならしている最中もどこか悲しそうだったし、そして、この石の色と、人形の見た目。
龍さんは自分の秘密基地だと言った。
それがもし、魁星を守るための嘘なら?
魁星と、”誰か”の秘密基地、その”誰か”が、俺なら?
そういえば気にしていなかったが、初対面の時から距離が近かったような気がする。
最初から呼び捨てだったし、昔を知っているような口調も度々…。
普通の親友という関係なら、忘れていても別にしょうがないし構わないとも思える。
けど、なぜか、忘れちゃダメな気がする。
「魁星…お前…誰なんだよ…っ」
オルゴールはまだ鳴っている。
進んだ時間は、戻らないとでも言うように。






