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「混んでるな……」
「クリスマスだもん、仕方ないよ」
クリスマスの夕方とあって、電車はいつになく混み合っている。
一番後ろの車両に乗り込んだ私たちは空いていた端の方に立つことに。
ちらりと乗客に視線を向けると、カップルが多い印象。
まあクリスマスだから当然だけど、傍から見たら私と結月も恋人同士に見えるのかな、なんてくだらないことを考える。
発車の直前、駆け込み客が数人流れ込むように乗り込んで来たことで私と結月は更に端に追いやられてしまう。
せ、狭い……。
「平気かよ?」
「え? あ、うん……何とか――」
結月に声を掛けられて上を見上げながら答えると、ふいに視線がぶつかった。
私を挟んで結月が壁に手を付く体勢になっていることと、思っていたよりも距離が近いこの状況に思わずドキッとする。
「何だよ?」
「え? あ、ううん、何でも……」
不覚にも結月相手にときめいたことが恥ずかしくて慌てて下を向く。
誤魔化せたかなと思ったけど、結月相手じゃ無理だった。
「何だよ、そんなに焦って。距離近いから照れてんの? このくらいでいちいち顔赤くしてんなよ」
「!!」
私を困らせたいのか、この状況を楽しんでいるのか、私の表情を覗き込むように顔を近付けてくる。
しかも悪戯っぽい笑みを浮かべているのだから絶対面白がってるに違いない。
「き、急に顔近づけられたら、驚くでしょ?」
「そーか?」
「そ、そうなの!」
「ふーん? ま、そういうことにしといてやるよ」
すぐに結月の顔が離れていったけど、私の鼓動は暫くの間ドキドキと大きな音を立てていた。
三駅程で降りる駅に着いて、結月に手を引かれながら人混みの中を抜け出してホームへと降り立つ。
「はぁ、髪ボサボサになっちゃった……」
「別に変わんねぇだろ」
「それ、どういう意味よ」
「つーか今更直せねぇじゃん。諦めろよ」
「うーん、でもこんなボサボサじゃやだし……あ、そうだ」
私はシュシュを持っていることを思い出して鞄からピンク色のシュシュを取り出して、
「ほら、こうすればいくらかマシでしょ? 私はちょっとトイレで髪束ねてくるから、結月は行ってていいよ。ちゃんと連絡するから」
「あ、おい、待てよ」
「え?」
シュシュで括る真似をして見せてから、改札を抜ける前にトイレの鏡の前で髪を束ねる為に歩き出すと、何故か結月に腕を掴んで引き止められる。
「ちょっと来い」
「な、何?」
そして、何故か階段とは別方向に歩き出して自販機のすぐ側まで行き柱と自販機でちょうど陰になって周りから見えない位置に私を追いやると、
「ちょっ、何して――ッ」
結月が急に私に顔を近付け首筋へ唇を這わせると、チュッというリップ音が聞こえてきた。
「――っん、」
こんなところでこんなこと有り得ないと思いつつも、つい声が漏れそうになる。
そして、すぐに顔を離した結月は一言、
「髪括ったら目立つから止めとけよ」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら私にそう忠告した。