テラーノベル
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女性は、咲良と名乗った。瑞奈の妹で、高校三年生だと付け足しながら。
咲良は癖なのか、眼鏡を中指でくいっとあげ、とても高校生とは思えない堂々とした態度を見せてくる。
瑞奈が、妹がいることに言及していたことを思い出した。それにしても何故、瑞奈の妹が俺に会いに来たのだ。……どうして? 本当に何故と自分は思っているのか? 咲良の最初の言葉を聞いた時に、俺は既に身構えていたのではないのか? 絶対に悪い話だと。
何も言えない俺に対して、咲良は一度深々と瞼を閉じてからゆっくり開いた。それは、咲良もこの話題を口にしたくない、そううかがわせるのに十分な仕草だった。
咲良が強い視線を俺に向け、躊躇を払いのけるように口を開く。
「姉は、おそらく数か月後から一年の間に、動けなくなります」
言葉が耳を通過しそうになる。
信じられないことを聞くと、一瞬、空疎な気分に見舞われるということを知った。しかし、一拍の鼓動を感じるや、すぐに言葉は疑問と絶望とを運んできた。
「どういうこと……?」
喉から掠れ出た声が、自覚できるほどに弱々しい。眼前の咲良が言っていることを理解できないままでいたいとも思ったぐらいだ。
「詳しくは、私にもまだ分かりません。今は、病院で検査を重ねています」
咲良がくいっと中指で眼鏡を押しあげる。
「会いに来てくれませんか? 姉に」
「何の病気……なの?」
視界が揺れ続けていた。夜の闇が濃く狭まっている。それなのに俺は光を求めている。未来を照らす明かりを求め、希望を求め、咲良の顔を見つめる。
闇空が、迸る光の切っ先で爪痕をつけられていた。痛みを吐き出すようにゴロゴロと空が鳴っている。
「ALS。筋委縮性側索硬化症の疑いがあります」
しびれを切らした落雷が大地を叩く。ざああと重たい雨足の音が俺の中にたまっていく。
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