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ニヤニヤと笑いを浮かべながら、なぜか学年主任は主席騎士様をねめあげ、そしてあたしに視線を戻した。
「君も知っての通り、このリカルド・シャウトル君はこの一年、ずば抜けた成績を上げ続けてきた。この演習もあくびがでる程退屈だろうと思ってねぇ、君というハンデを与えてあげたわけだ」
衝・撃……!
あり得ないと思ったこの組み合わせは、そのせいだったのか。イヤミだイヤミだと思ってたけど、本当にイヤミな奴だな学年主任……!
魔法学校にいながら不発みたいな魔法しか紡げない劣等生だなんてこと、自分が一番よく分かってるよ。
いつもこの学年主任の先生にはあてこすられてばっかりだと思ってたけど、なにも、こんな……首席騎士様まで巻き添えにすることないじゃない!
思わず口を開こうとしたら、目顔でやんわりと首席騎士様に止められてしまった。
そのやりとりを知ってか知らずか、先生は長~いどじょう髭をこよりのようにヨリヨリとよりながら、今度は首席騎士様を見上げてニヤリと嫌な笑いを浮かべる。
「まぁこの才能の欠片もない小娘が足手まといになるのは間違いないが、それでも君ならばBランクの魔物くらいは倒せるだろう? なんせ君は、代々この国の剣と名高い騎士の家系、シャウトル家の出だ。それくらいできなくては御父上の名が泣くだろう」
うっわ、最悪だ。首席騎士にまでこんなイヤミな物言いなのか。あたしが『できの悪い生徒』だから、単にあたりがキツいのかと思ったら、どうもそれだけでもないらしい。
あっ……そういえば、この先生のご実家って魔術師系の大家だっけ。代々騎士団長を輩出しているシャウトル家とは犬猿の仲だって聞いた事あるような、ないような。
ニヤニヤと、嫌な笑いを浮かべる先生を、首席騎士様は相変わらず冷たい目で見下ろしている。
「そうですね、確かに父からはAランクを狩ってくるようにと言われております」
その言葉にあたしは目を剥いた。
待ってよ、Aランクの魔物ってこの近辺でもそうはいないよ!? Bランクくらいなら数種類いると思うけど、Aランクって……ドラゴンくらいしか思い浮かばないんだけど。
「ふ、ふん。この落ちこぼれを庇っていては生きて帰るのも難しいぞ」
「問題ありません」
「おや、早々に見捨てるつもりかね? まぁ、そうされても仕方ない程度の実力ではあるがね。せいぜい生きて帰ることだ」
うわ、首席騎士様を言い負かすことができなかったからって、またこっちに矛先が。
悔しいけど、確かに今のあたしなら、Aランクなんかと戦ったりしたら簡単に死ぬ自信がある。でも、でも……うまく使えないだけで、魔力の保有量はこの学園でもダントツにトップだって言われたもん。いつか、いつか見返してやるんだから!
うつむいて拳を固めていたら、なぜか先生の焦った声が聞こえてきた。
「な、なんだ貴様。事実を言って……何が、悪い……」
急に先生の声が小さくなって不思議に思って見てみたら、いつの間にかあたしと学年主任の先生の間に、首席騎士様が立っている。
背がとてもとても高い首席騎士様を見上げている先生は、若干顔色が悪い。首席騎士様の表情を盗み見たら、確かにさっきとは明らかに違う、険しい表情で先生を見下ろしていた。
「これから命をかけて討伐演習に挑もうという生徒に、かける言葉ではないと思いますが」
「な……!」
「行こう、実力を見せれば済むことだ」
あたしの腕をむんずと掴むと、首席騎士様はさっさと踵を返してその場を離れる。その足取りはとても早くて、あたしは小走りでついていくのがやっとだった。
こんなところで足の長さの差が……! うう、身長差三十センチはあるもんね。
でもそのおかげであっという間に学年主任の先生からは遠ざかっていく。なんか先生が叫んでる気がするけど、もはや何言ってるかわかんないし。
「気にするな、負け犬の遠吠えだ」
首席騎士様もそう言ってくれてることだし、もう気にするまい。首席騎士様が意外と優しい人で良かった。てっきり怖い人かと思ってたのに。
なんて思っていたら、いきなり首席騎士様が足を止めるものだから、あたしは思いっきり首席騎士様に後ろから体当たりする羽目になってしまった。
「いたた……」
「す、すまない」
見上げたら、首席騎士様は途端にオロオロと視線を彷徨わせる。
「……?」
どうしたんだろ、さっきまでの堂々とした態度はどこにいっちゃったのか。不思議に思ってまじまじと見ていたら、ついに首席騎士様の顔が赤くなる。
そして、ハッとしたように掴んだままだったあたしの手を離し「す、すまない」と慌てたようにあたしから距離を取った。
なんだこの挙動不審さ。
「あー、悪いね! コイツこうみえて極度の人見知りなのさ。意外だろう?」
「ぐあっ」
突如現れた、キラキラ光るみたいなイケメンが、首席騎士様の肩に腕をドーン!と乗っけて、華やかに微笑んだ。
うわぁ……この人、知ってる。こんな間近で見たの、初めて。首席騎士様の方が背は高いけれど、この人も別な意味で迫力だよね。
たしかお名前は、ジェードさんっていったかな。翡翠の瞳に銀の髪の、エルフかと見まごうばかりにカッコイイお方だ。成績はいつも首席騎士様に次ぐ二番をキープ。さらにコミュニケーション能力も高いという、あたしから見たらもう、それホントに人間? って問いたくなるくらい。物腰が柔らかくって女性にも優しいから、人気なら多分、この学園で一番なんじゃないかなぁ。
ちょっとでいいからその才能、分けて欲しい。
「馴れ馴れしい! 肩を組むな!」
「酷いな、君がいつもの挙動不審さを発揮しているようだったから助けてあげたんじゃないか。そんなんじゃパートナーの彼女だって困るだろ?」
「う……必要事項は、きちんと伝達できる。問題ない」
「うんうん、だよねー。雑談とかがダメなんだよねー、何話したらいいか分かんないんでしょ」
「……」
うわぁ、完全にジェードさんのペースだ。
首席騎士様は気まずそうな顔で目を逸らした。学年主任の先生を黙らせてしまったさっきまでの雄姿はどこへやら、水をかけられたワンちゃんみたいにシュンとしている。
でっかいナリして、可哀そうっていうか、可愛いっていうか。