一夜が明けた10月2日 (金曜日) 。ダンジョン覚醒まで34日。
俺は朝から地下秘密基地のリビングへ下りていた。
何をやってるのかというと、
撮りためておいたニュース番組を高速再生で見たり、ネットを使って情報取集を行なっているのだ。
まず、地震についてだが、
東京、京都、共に地震の回数は増え規模も大きくなっているようだ。
度重なる地震により地割れや崖崩れが多数発生。
地形の変化に加え、秋の長雨による河川の氾濫も起きている。
特に東京方面では地震による影響が深刻化しているみたいだ。
大きな地震が起これば電車や地下鉄はもちろん、新幹線も止まる。
――当たり前のことだ。
強震度の地震が起こったあとは脱線等の危険性が高まるため、線路の点検なしでは電車を走らせることはできない。
つまり点検作業にかなりの時間を要してしまうのだ。
これが年に一度や二度ぐらいであればさほど影響もでないだろうが、月に二回三回ともなれば大問題である。
車に乗ったところで、首都高や幹線道路はどこも10㎞・15㎞の大渋滞。ほとんど動かない状態にまでなってしまうそうだ。
これには日本政府も東京都もまったく打つ手がなく、お手あげ状態になっているようだ。
その他は……、 どこどこで煽り運転により車が横転しただの、これこれのコンビニでは店長さんが詐欺を未然に防いで表彰されただの、ごくありきたりな記事がならんでいるだけであった。
そんな事情を頭に入れながら、キロが淹れてくれたコーヒーをすする。
因みにだが、現在この秘密基地に居るのは俺とキロの二人だけだ。
フウガたちは茂 (しげる) さんの早朝訓練と時を同じくしてダンジョンへ入っていった。
そうして早朝に一旦戻ってきていだが……、
そこからタマー隊長による【地獄のブートキャンプ】が始まってしまった。
回復要員としてシロも同行している。
シロが付いているのだし、安全安心にダンジョン探索が行えるだろうと 一見思えるのだが、
――そうではない。
シロがいるということは即死しない限りは回復できるというわけで……。
――ゾンビアタック――
本当の意味での【地獄のブートキャンプ】になってしまうのである。アーメン。
おまけにタマはこちらでの仕事は特にないわけでして……。
フウガたちはおそらくゾンビのようになって帰ってくるだろう。いや、スライムになっているかもしれない。
それで影たちがいない間、神社周辺の監視はヤカンにお願いしている。
これにはヤカンも喜んでやってくれている。
『仕事が多いほうが張り合いがあっていいです』 なんてどこの社畜だよ。
――だから千年もこき使われるんだよ!
まぁ楽しいというなら、これからもどんどん仕事を与えるようにするけど。
まったく可愛い従魔たちだよ。
昼過ぎになってフウガたちがようやくダンジョンから戻ってきた。
みんな目が死んでいる。
―― へんじがない。ただのしかばねのようだ ――
かなり過酷な訓練だったことが伺えるが、
タマー隊長の顔はツルツルテカテカのたまご肌である。
「ご主人様、今日の取り分ニャ。みんなでがんばって取ってきたニャン」
俺に魔石とポーションを渡してくるタマ。
「でも、これはお前たちが取ったんだろう。そっちで分けたらどうだ」
「なに言ってるニャ。家人が稼いだものは主のものニャ。向うでもこっちでも変わらないニャ」
まあ、そう言われるとそうなんだけど。
だから株とかFXで儲けた金も、フウガはちゃんと帳簿に付けて管理しているからな。
取りあえず袋を開け、中身をテーブルの上に出してみた。
低級ヒールポーションが2本、魔石 (小) が76個。ずいぶんと頑張ってきたみたいだ。
ん~~~、よし!
「ではタマと影たちが持ち帰った魔石の内、半分はタマの取り分としよう。これからも影たちをしっかり鍛えてやってくれ」
そういって俺は魔石38個を袋に入れタマに返した。
「ほ、本当ニャ! タマは頑張りますニャン」
おおー、タマー隊長の目がギラギラと輝いている。
「あっ…………」
もしや火に油を注いでしまったのかもしれない。許せよフウガそして影たちよ。
遅くなった昼食を終え再び訓練へと意気込んでいるタマを一旦とめる。
考えるところがあった俺は、
シロ、ヤカン、タマを連れ【女神さまの祠】へと飛んだ。
先ずはお掃除からだね。
みんなに指示をだして外周、女神さまの祠、野干の祠と順番に掃き清めていく。
掃除が終ったらみんなを呼び集め、女神の祠の前で膝を突いて祈りを捧げた。
すると横にいるタマの身体が薄く光っている。 やはりそうか!
タマはもともと女神さまの加護を授かっていたから、もしやと思っていたのだ。
さっそく鑑定してみるか。
タマ Lv.22
年齢 25
状態 通常
HP 71⁄71
MP 49⁄29+20
筋力 53
防御 40
魔防 31
敏捷 45
器用 36
知力 30
【スキル】 短剣術(4)格闘術(2)魔力操作(4)魔法適性(風・結界)
【魔法】 身体強化 (3)
【称号】 万能メイド、影の長、ゲンの女、タマ姉、
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
久しぶりにタマのステータスを見たけど、さらに磨きが掛かっているな。
さすがは影の軍団元首領、これでは誰も逆らえまい。
さて、注目の魔法適性の方だが……。
風・結界のダブルか。
ますます手がつけられなくなるなぁ。頼もしいことではあるけど。
さっそく教えてあげようかね。 喜ぶぞー♪
なにせ家の連中は俺をはじめとして魔法を使えるやつが多いから、
魔法への憧れは強かったはずなんだ。
俺はシロ、ヤカン、タマを連れダンジョン・カンゾーの8階層へ転移した。
「タマ、魔力操作の訓練は今も続けているな」
俺の問いにコクコクと頭を縦に振るタマ。可愛い。
「それじゃあタマ、シロの背に手をのせてみろ。シロはエアハンマーのイメージをタマに送るんだ」
「…………ニャ」
「どうだタマ、イメージは掴めそうか?」
「ご主人様、タマは魔法が使えないのニャ」
「いいからあそこの岩を目掛けてエアハンマーを打ってみろ。片手はシロにのせたままだぞ。行け!」
「わったニャ。やってみるニャン!」
そしてタマは反対側の手をゆっくりと前方の岩に向け、
「エアハンマーにゃ!」
───ドグゥゥンッ!!
発声と同時に凄まじい音がダンジョン内に響きわたり、前方にあった大きな岩は粉々になって吹き飛んだ。
タマはさっきまで岩があった場所と自分の掌を何回も見つめながら、
「ま、ま、魔法ニャ! ご主人様、タマの魔法ニャン!」
両手を挙げたままダンジョン内を駆けまわっているタマ。
それはそれは、ものすごい喜びようであった。
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