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奇蹟あい
2,184
#勘違い
かませ犬S
455
#男主人公
パラレル・ゲーマー
173
にとり
1
マホガニーの執務机に置かれた黒光りする鉄の塊。
「朔間様。これはなんでしょうか?」
「FN ブローニング M1910だ。
必要ないとはわかっているが、桜花君が心配なのだ」
俺は両手を伸ばしてそれを手にする。
少女の手になった俺にも握りやすそうな小型の拳銃だった…
「御心遣いありがとうございます」
右手に持ち、左手でグリップエンドのノッチを押さえながら、弾の入った弾倉を引き抜く。
鈍色に光る弾を確認すると、グリップに戻し、上部をスライドさせる。
――カシャ
弾倉からチャンバーに弾が装填される。
人差し指をトリガーガードに掛け、人に向けないように、右へ左へ身体を移動させて構える。
「取り回しやすいです。
朔間様。大切にいたします」
そういってスカートの横を摘み上げて、膝を曲げた。
「桜花君…君は拳銃を扱ったことがあるのかね…」
朔間が俺を不思議そうな目で見つめていた。
(――ん?)
そういえば…なんで知ってるんだ?
ふと、ニマニマとしている石動に目を向ける。
「フフフフフ。
桜花さん。不思議かい?」
「はい。隼人様お教えいただけますでしょうか?」
(勿体ぶるなこの野郎)
「うむ、桜花さんには撫子モードがあるのは知っているね」
「はい」
(意志と無関係に喋らせる巫山戯たモードだよ!)
「撫子モードの他に、桜花さんには数多のモードが装備されているんだ」
(……何?)
「(…あ、)数多ですか?」
「そう、数多だ!」
鼻息荒く目を輝かせる石動。
「(た、)例えばどの様なモードを備えていただけているのですか?」
「その拳銃を持った時どうだったかね?」
「…手にとても馴染みました」
「それはアサルト(突撃兵)モードだ」
(……)
「この世界の兵器に精通できる。とても役に立つモードだよ」
「ありがとうございます。桜花は幸せ者です」
(……)
「そうだろう、そうだろう」
「他にはどの様なモードが備わっているのですか?」
「そうだな、主な機能としては隼人様ラブラブモードだな」
石動のその言葉を聞いた瞬間、背中から汗が噴出した。
(この身体こんなに汗も出るんだ)
違う、汗はどうでもいい!
まてまて、その機能は何だ!嫌な予感しかしない!
「他に…」石動はさらに続けようとする。
「隼人様。お待ちになってください。
その隼人様ラブラブモードとはどのようなモードなのでしょうか?」
「え、聞きたい?」
(!!!)
俺は聞いておきながら光速で首を横に振った。
(怖すぎた…あまりにも)
「石動君、君も大概鬼畜だな…」
黙って聞いていた朔間が冷ややかな目をしている。
「やだなぁ。そんなに褒めても何も出ませんよ」
「「……!」」
「隼人様。申し訳ありません。登校の時間です。桜花は登校いたします」
これ以上、聞きたくも考えたくもなかった。
「おお、そうか。まあ、備わったモードには
追々自分で気づくだろう」
(ラブラブ系が無いことを祈るしかない)
「ああ、桜花君」
「はい。何でしょうか朔間様」
「君に今日から護衛を付ける」
「護衛ですか?」
「この時世に総督の孫娘に護衛が一人もいないのは逆に不自然だからな」
「…ありがとうございます」
「入り給え」
「はっ!失礼いたします」
身長のある清潔そうな男が、朔間の執務室に入ってくる。
「柚木蒼月君だ」
「桜花様、柚木蒼月と申します。
どうか宜しくお願いいたします」
そう言って柚木は俺に敬礼をする。
「朔間桜花です。どうか宜しくお願いします」
俺も返礼を行う。
撫子モードここはカーテシーじゃないんだね。
切り分けがわからない…
「桜花君、彼は弱い。君が守ってやってくれ」
(え?俺の護衛じゃないの?)
「武官の手が空いてなかったんでな…彼は事務員だ。見てくれは強そうなのを選んどいたよ」
不審げにしていると朔間はそう言ってきた。
(…それって足手まとい…)
「誠心誠意それっぽく頑張ります。どうか守ってやってください」柚木は畏まる。
(……)
「一応軍人だ、殉職したらそれはそれで構わんからな、桜花君」
「了解しました。仔細承りました」
口が勝手に動き朔間に敬礼した。
(ああ、今は撫子モードじゃないんだな…)
***
「桜花お嬢様」
女学校に向かう車。デイムラー 57HPの中で、運転する柚木に声をかけられる。
(お嬢様…ね。
まさかそんな呼ばれ方をする日が来ようとは…)
「何でしょうか、柚木さん」
「私は学校の敷地内に駐車し車で待たせていただく予定です。非常時は校内への立ち入りも許可されていますので、ご安心します」
(ご安心しますって…ご安心して下さいじゃないんだ)
「わかりました、お気をつけ下さい」
「ありがとうございます」
「柚木さんは、この誘拐事件について何か情報はお持ちですか?」
「この島は日本の統治以来、日本と同じように扱おうと苦心しておりますが反抗勢力が絶たない状況です。また日本からも清からも犯罪者の逃げ場とされることも多い地です」
(そうなのか)
「…台北は治安も良い方ですが完全でなく、身代金、政治的要求などで弱い女学生狙われているのではないかと」
「そうですか…犯行声明とかは?」
「ありますが、身代金要求の場合、原住民のせいにする犯罪者もいて…」
(ああ、だよね…ん)
「…もしかして、犯行グループは一つではないのでしょうか?」
「可能性はあります」
(何だよそれ!)
「到着します」
車はゆっくりと校門を通り過る。
本館正面玄関の車寄せに車を停車させると柚木は外に出て、俺のドアを開けてくれる。
「いってらしゃいませ」
「いってまいります」
柚木さんの敬礼に見送られ俺は校内へと足を向けた。
踵を打ちつけ敬礼した後で…
(だから何モードだよ)
コメント
1件
第5話、読ませていただきました! 拳銃を手にした瞬間、スッと手に馴染む感覚が本当に自然で驚きました。撫子モードとは別の“アサルトモード”があるって設定、めちゃくちゃワクワクします。「(意志と無関係に喋らせる巫山戯たモードだよ!)」って心の声に思わず笑っちゃいました(笑) そして朔間様の「彼は弱い。君が守ってやってくれ」からの護衛なのに逆向きになる流れが絶妙で、思わず「それって足手まとい…」と心の中でツッコんでしまいました。柚木さんの「ご安心します」の言い間違いも、なんか愛嬌があって和みました。 今回も楽しかったです!続きが気になります🤍