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「九州より少し小さいこの島は、17世紀まで原住民が暮らす島でした」
教壇の前に立つ女教師が“台湾の歴史”と黒板に書いてそう語り始めた。
教室の女生徒は、席に座り真剣にそれを聞いている。
(今日の授業はこの島の歴史のようだ…
丁度いいな歴史を知れば犯罪動機の理解に繋がるかも知れない)
俺はシメシメと真剣に聞くことにする。
「そこに、Age of Discovery(発見の時代)のオランダが東アジアへの拠点として島の南端を領有し統治を始めました。
1624年から1662年のことです。
当初はこの北端の台北はスペインが占領していましたがオランダが後にスペインを追い出します」
(300年前までは原住民の島ということか…)
「大陸では1644年に明王朝が滅亡し、今の清王朝に変わりました。
それに対し、明の皇族が反清復明を唱えて南明朝を興して反攻するのですが、上手くいかず清に滅ぼされます。
明の軍人であった鄭成功が反清復明の拠点を求めて軍勢を率いて台湾に渡り、オランダを追い出すことに成功します。
それが1662年から1683年の鄭氏政権時代です」
(ほう)
「しかし、それも長くは続きませんでした。
清は反攻勢力を見逃さず、鄭氏政権は滅ぼされます、そして1683年から1895年は清の統治時代になりました」
(統治者がコロコロ変わるな…)
教師は黒板にこの島の絵を描き始め。島に東と西を隔てる線を描いた。
「オランダ、鄭氏政権時代、清統治時代の流れの中において島の支配状況は西側だけで、東側は原住民の支配する地域のままでした」
(費用対効果の問題だろう…それほど島を重要視しなかったのか、支配するには原住民が強かったのか…)
「1895年に日本が日清戦争で勝利します。
戦後処理の下関条約によって、現在は日本の外地として台湾は大日本帝国台湾と呼ばれ、台湾総督府の統治下に置かれることとなりました。
現在は1914年ですので約20年になります」
(日本の統治はまだ20年なのか…)
「その間に、日本は様々な日本化を進めインフラや教育、産業に投資し近代化を進めて来ました。
皆さんのご両親はそのためにこの島に渡られ、日夜尽くしておられます」
(日本化をしているということか、原住民と軋轢を生んでないと良いが…)
「日本統治が始まりましたが、清の役人や清からの移住者による台湾民主国軍の鎮圧、その残党や原住民による抗日運動などがあり、難しい舵取りが現在も行われています」
(全然駄目じゃん)
これが誘拐事件と関係しているのだろうか…
高等警察も捜査はしているようだが、特定までは至っていないらしいしな。
さて…
――どうやったら、俺を狙ってくれるかなぁ…
根本的な問題な気がする…
***
「朔間さま。新高堂書店へ行かれませんか?」
休み時間に次の授業の用意をしていると宮小路さんが話しかけてきた。
「宮小路さま。新高堂書店ですか?」
「はい栄町の角に立つ赤レンガ造りの立派な洋風建築の書店で、今日は愛読書が届く日ですの」
(無防備な姿を見せていれば目につくかな…)
「ぜひご一緒させてください」
***
放課後。新高堂書店まで柚木に車で送って貰う。
「すみません、私まで乗せていただいて」
「気にしないでください。宮小路さまのお抱え人力車を先に帰してしまって申し訳ないと思っております」
気遣わしげに言う宮小路さんに微笑む。
新高堂書店は台北庁立台北高等女学校から、斜向いで建設中の台湾総督府新庁舎を横に見つつ大通り沿いに北に進むと直ぐに見えて来た。
歩いて10分、車で6分程であった。
学校の位置が、政府機能の中心地にあるんだ、凄いな。王城の前に学校って事だろ?
新高堂書店に入ると、宮小路さんが小走りになって売り場へと向う。
余程好きな本なのだろう。微笑ましい。
俺が売り場に着いたときには、宮小路さんは二冊の本を大事そうに抱えていた。
「そちらの本が?」
「はい、こちらの本です」
そう言って宮小路さんは俺に表紙を見せてくれる。
少女画報と少女の友という、表紙に少女の絵が描かれた本だった。
俺のいた世界にはこのような絵の描かれた表紙は無いので、少し驚いた。
「私、少女の友には投稿もしておりますの」
「それは凄いですね」
「まだ採用されたことはありませんが…」
そう言って悲しそうな顔をする。
「宮小路さま。ご自分を信じて下さい。きっと願いは叶います」
パァアアアァっと花が咲くように、沈んだ顔だった宮小路さんが笑顔になる。
「あ、ありがとうございます」
そう言って俺の手を取って額をこするように手につける。
「いえ、どういたしまして。私も期待させていただきます」
「あの、このことは両親には言ってませんので」
「ご安心ください。誰にも話したりしません」
何度もお辞儀する宮小路さんが可愛い。
――さて。
なんともお嬢様然とした言葉遣いのこの会話…
功を奏したのか…品出しの店員達からの視線が、まるで品定めでもしているような目でこちらに集まっている…
まさか、もう目に止まったとか?
都合がいい分には文句はないぞ?
***
「宜しいのですか?」
「はい、私がご厄介になっておりますお爺様の台湾総督官邸はここからだと目と鼻の先ですので。宮小路さんのお屋敷までは、柚木に送らせてください。誘拐とか物騒ですので」
「朔間さま。お心遣い本当にありがとうございます」
「今度、お書きになった物。どうか読ませてくださいね」
「はい、はい。是非」
そう言って手を振る宮小路さんを乗せた、デイムラー57HPを見送った。
ここから東に500メートルも進めば、台湾総督官邸なのだけど…さて遠回りでもしてみるかな…
コメント
1件
第6話読みました!歴史の授業から始まる展開、新鮮でしたね。統治者がどんどん変わる台湾の歴史を、現代から来た朔間くんの視点で「費用対効果の問題だろう」なんて冷静に分析してるのが面白かったです。 そして「どうやったら、俺を狙ってくれるかなぁ…」って、誘拐事件の被害者側なのに自ら囮になろうとしてる不気味さがゾクゾクします。宮小路さんの投稿の話での優しいやりとりとのギャップがまたいいんですよね…期待が高まります!