目の前の男…Aはそう言うと同時に別の拳銃を取り出し、引き金を引いた
左胸に痛みが走る
「ぐ…ぅ………」
目の前が暗くなっていく
──人類は進歩した文明と技術によって繁盛しました
金さえあればどんな病気でも治る時代
人類は肉体に対する病気を克服しました…しかし、その対価に魂の病気が都市を蝕んだのです
…そんな時代、カルメンという一人の女性は魂の病気を危惧し、
人類を治療するために動きました
彼女はさまざまな場所で演説を行い、優秀な研究員達を集めました
…人類の井戸から汲み上げた薬品によって魂の病気を治療しようとしたのです
……しかし、彼女は研究の果てに心の病気を抱え、自殺未遂にまで追いこまれてしまいました
それに彼女の理想に賛同した一人の研究員は、彼女の脳を材料として釣瓶を作成しました
それにより薬品を無尽蔵に抽出することが可能となりました
その研究員は彼女の意思を継ぎ、薬品の実験を牽引しました
その後は様々なことが起こりました………
……本当に色々あった
薬品…『コギト』によって発生した幻想体
次々と死んでゆく研究員
研究員の中からの内部告発
頭との衝突
…アンジェラ、セフィラの制作
… …本当に色々あったのだ
「だが、それもあと少しだ」
引きずってきた彼女を機械へ乗せ、釣瓶の前へ立つ
……後はL社を
『Lobotomy corporation社』
を地下へ構えるのみ
その為にこの少女を使う
人間の持つ心と思想の力を物理的に発現する…
Lobotomy社が翼の席に座る為に必要な特異点だ
この少女の中に旧L社の特異点が入っているとしたら…少女は良いエネルギー源となる
元々は幻想体からエンケファリンを抽出し時間を掛けて準備する予定ではあったが…早く済むならそれに越した事は無いだろう
少女の頭に管をつなぎ、エネルギーを抽出する
流石元翼と言った所か、ものの十数分で必要分のエネルギーが溜まってしまった
思わず笑みが漏れる
良い拾い物をした
まだまだエネルギーの抽出は可能だろうが、既に必要分はあるためもう良いだろう
頭から管を外し、台へ寝かす
この少女はLobotomy社の職員として雇うことにでもしようか…とそんなことを考えていると、扉が三度ノックされる
「…入れ」
「失礼します」
入ってきた男は眼鏡をかけた緑色の目に灰色の髪を持っている…自分を慕ってくれる研究員の一人だ
「なんだ?ベンジャミン」
「アンジェラの作成が…
…えっと…その少女は… 」
ベンジャミンは台に乗せられた少女に目をやる
見たことのないボロボロの少女が台の上で気絶している
そしてその横で笑みを漏らす成人男性
この状況は端から見れば意味深である
「あぁ、少し便利な物を拾っただけだ
それでアンジェラがどうした?」
「あぁ…はい
先程アンジェラの最終調整が終了しまして
…ほら、入ってきて。」
…そうして入ってきたのは、蒼白な長髪に無感情のロボットだった
「…こんにちは
ご存じの通り、Lobotomy社の施設運営の指揮を行うアンジェラと申します」
「…特に問題はなさそうだな」
アインは釣瓶へ視線を向ける
本当に全く似ていない
「…取りあえず準備は全て整ったな」
「そうですね…後は特異点を起動するためのエネルギーだけ…」
「それはもう溜まりきった」
「え?」
あと一、二週間は掛かるはずだったが…
そう思ったベンジャミンは横たわる少女に目をやる
「……それにはこの少女が関係し…」
その少女の眉が動き、
少しして目が開く
少し腑抜けた顔をしたまま上半身を起こし…ハッと気が付いた様に台から飛び降りる
「………」
少女は距離を取り目の前の三人を睨む
アンジェラは二人を守るように前に立ち、
ベンジャミンはその目に見覚えがあるような顔で立ち尽くしている
(…何処だろここ
…………?! )
直前の記憶を辿ろうとした所で全身の痛みと疲労で体が強張る
(…………。
そういえば私は……)
ようやく全て思い出し、目の前の男を更に睨みつける
「……A…何が目的だ…?」
ベンジャミンがアインへ微妙な視線を向ける
この人は何をしたのだろうか
「お前を安全な場所へ運んだだけだ 」
「…なら何で私を撃った?」
「お前を一度眠らせただけだ」
「「…… 」」
ベンジャミンが呆れて口を開く
「アインさん……」
(……Aとあの白髪は何とかなるとしても…)
目の前の女性は鋭い目つきでこちらを睨んでくる
「…………」
スミレは両手を上げて降伏の意を示す
立ち姿から今の自分では勝てないと察知したのだ
「いや、少し話をしよう」
アインは近くの椅子に腰掛け、話始める
「お前は…ハンス?という奴を探してるんだろ? 」
「!……なんでお前がそれを…」
スミレが目を見開き、問う
「少し記憶を覗かせて貰っただけだ」
先程エネルギーを抽出する際に記憶も見させて貰ったのだ
「…俺は近頃新しくL社を作ろうとしているんだが…
お前に入社して欲しい」
ベンジャミンが驚愕の表情でアインを見やる
「……何で私が」
「もし承諾してくれればそのハンスを探してやる」
正直必要無い
アイツなら多分元の事務所近くにでも居るだろう
…だが
「断ったら?」
アインは懐から拳銃を取り出し、スミレへ向ける
……やっぱり
「………分かったよ 」
何故私を入社させたいのかは分からないが…死ぬよりかマシだろう
そう思い私は承諾した
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