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#TL
瀬名 紫陽花
14,533
#BL
多 動 症 .
30
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まさか叶人くんの口から、ピンポイントで佐藤くんの名前を出されるとは思わなかった。
心臓がドキンと跳ね、言葉に詰まりそうになるのを何とか耐え
精一杯の笑みで返事をする。
「うん…!ちょっと、びっくりしたこともあったけど…すごく、楽しかったよ」
「……へえ。びっくりしたって何に?」
叶人くんの綺麗な瞳が、じっと私の目を捉える。
その瞬間
私の脳裏に、昨夜あの個室で佐藤くんにガシッと恋人繋ぎをされながら告白された
あの熱いシーンが鮮明にフラッシュバックしてしまった。
(…まさか本当に告白されるとは思わなかったけど…でも、これはわざわざ叶人くんに言わない方がいいよね、ややこしくなるし……)
私が黙り込んで思考を巡らせていると
叶人くんの視線が、さらにじりじりと鋭さを増していくのが分かった。
「さっちゃん?どうしたの?さっきから、顔が真っ赤だけど」
「えっ?!な、なんでもないよ…!あはは」
「……変なさっちゃん」
叶人くんはいつもの優しい声でそう言うと、くすりと小さく笑いながら私を凝視してくる。
その、すべてを見透かされそうな視線に
胸が苦しく締め付けられるような感覚を覚えてしまう。
(───でも、待って。これ……よく考えたら、叶人くんを嫉妬させる絶好のチャンスなんじゃ……っ!?)
ふと、私の脳裏に「恋愛心理学」の駆け引きの知識が閃いた。
佐藤くんは社内でも人気のある可愛いイケメンの後輩だ。
その彼からアプローチされていると知ったら、いくら余裕のある叶人くんだって
私のことを他の男にとられたくなくて、少しは妬いてくれるかもしれない。
もしそうなったら、私を都合のいい女じゃなくて、本気の恋人として意識してくれるかも───
そう思うと、何だか胸の奥がドキドキとワクワクで満たされていくのを感じた。
「実はね…!昨日、佐藤くんに告白されたの」
私は頬が熱くなって破裂しそうなのを必死に堪えながらも
あえていたずらっぽい、少し思わせぶりな表情を作ってそう告げた。
叶人くんが、焦ったり、驚いたり
少し困ったような表情を見せてくれることを、私は心のどこかで期待していたのだ。
しかし、次の瞬間だった。
「……そうなんだ。で、さっちゃんはなんて答えたの?」
叶人くんの声が、鼓膜が震えるほど、明らかにワントーン低くなった。
その、一切の感情が削ぎ落とされたような冷たい口調に
私の身体から一瞬にして全ての血の気が引いていくのが分かった。
「へ?」
あまりの空気の変わりように、思わず間の抜けた声で聞き返してしまう。
けれど、叶人くんは頬杖を突き直すこともせず、ただ真っ直ぐに
じっと私を射抜くように見つめていた。
「…だから。その佐藤からの告白に、さっちゃんは何て返事をしたの?」
向けられたその瞳は、底知れないほど暗く、とても冷ややかで───
一度も見たことがないくらい、恐ろしい目をしていた。
(か、叶人くん?もしかして怒ってる……?)