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その日の帰り道の後 数日後 1-A教室
あの日の夕暮れの帰り道で、タクに抱きしめられてから、
翼は決めた。
(もう、俺のせいでタクの未来を潰したなんて……思わない)
タクが選んだのは、タク自身だ。
みんなが俺を必要としてくれるなら、
全力で前を向く。
同じ熱量で、甲子園を目指す。
翼が今できること。
それは、応援だった。
監督もわかっていた。
新設野球部で、応援席をまとめるリーダーがいない。
応援の声が、どれだけ選手の力になるか——
翼は、誰よりよく知っている。
渉とバッテリーを組んでいた頃、
スタンドからの声援が、どれだけ心を強くしてくれたか。
だから、翼は行動した。
練習試合の前日、放課後のホームルームが終わったタイミングで。
翼は教卓の前に立ち、深く息を吸った。
クラスメイトたちが、ぽかんとした顔で翼を見る。
「……みんな、聞いてほしいことがあるんだけど」
翼の声は少し震えていたけど、目は真っ直ぐだった。
「来週の土曜日、市内の練習試合があるんだ。
うちの野球部にとって、初めての実戦。
まだチームは完成してないけど、みんな本気で甲子園を目指してる」
クラスメイトたちは静かに聞き始めた。
「俺は……マネージャーやってる。
グラウンドに立てないけど、応援席からみんなを支えたい。
でも、一人じゃ無理なんだ。
応援の仕方とか、リハーサルとか、練習試合を通して一緒に形にしていきたい。
だから……協力してほしい。
夏の予選までに、みんなで応援を大きくしたい。
3年生になるまでに、絶対に甲子園に行きたいんだ。
そのために、みんなの声が必要なんだ」
翼の声が、少しずつ熱を帯びていく。
「俺は……野球ができなくなったけど、
みんなが頑張ってる姿を見てると、
俺も一緒に戦いたいって思う。
だから、お願いします……!」
最後の方は、思いが溢れて、涙が止まらなくなった。
翼は両手を握りしめて、頭を下げた。
クラスは一瞬、静まり返った。
そのとき、後ろの席から大きな声が響いた。
「俺からも、お願いします」
タクだった。 立ち上がり、クラス全員を見回して。
「まだチームは完成してねえ。
実力差もある、バッテリーだってようやく動き始めたばっかりだ。
でも俺たちは本気で野球やってる。
練習試合、観に来てください。
翼が言うみたいに、応援がどれだけ力になるか……
俺たち、身に染みてわかってるから」
タクは翼の隣に歩み寄り、
翼の肩にそっと手を置いた。
「翼は、俺たちの大事なマネージャーだ。
お前らが来てくれれば、翼も嬉しいし、
俺たちも、絶対にいい試合する」
クラスメイトたちは、最初ぽかんとした顔をしていたけど、
徐々に誰かが頷き始めた。
「……なんか、熱いな」
「行ってみようか」
「応援、やってみるか」
小さな声が、ぽつぽつと上がる。
翼は顔を上げて、涙を拭った。
タクを見て、小さく笑った。
「……ありがとう、タク」
タクは翼の頭を軽く撫でて、
「当たり前だろ」
この日を境に、
1-Aのクラスは、少しずつ野球部の味方になっていった。
翼は、胸の奥で誓った。
(俺にできること、全部やる。
みんなと一緒に、甲子園に行くんだ)