ワンク
レドブル要素多めの死ネタです。阿吽のビーツパロディです。苦手な方はブラウザバック!!それでもいい方はお進みください。
「おい弟、朝飯買ってこい。」
いつもの台詞を弟に言う俺、弟は嫌味をいいながらうなずき、朝飯を買いに行った。
俺はミスターレッド。ミスターブルーという双子の弟を持つすまないスクールの生徒。朝飯を買いに行くのが面倒くさいため、そういうことは弟に任せている。
朝飯を買ってくるのを頼んだ俺だが、弟が戻ってくる気配が全然しない。だから、何があったのかと俺は外に出た。コンビニまで行く途中、なにか人の集まりがあることに気がついた。
俺は気になったので、そこらに居る村人に話しかけてみた。
「なんかあったんすか?」
「ん? あぁ、誰かがなにかに轢かれていてね。坊っちゃんその子とよく特徴が似てるね。もしかして、兄弟か何かかい?」
「特徴が似てる…? おいおっさん、そいつが着てる服って、もしかして俺のパーカーの色ちがいか? あと、頭に黒色のメッシュ入ってなかったか?」
「あぁ、言われてみれば確かに色ちがいだし、メッシュも入っていたよ。知っているのかい?」
俺はすぐさま村人にお礼を言い、人混みに突っ込んでった。中心に倒れてたのは……弟だった。
「ちょ、君! 何をしているんだい? いきなり突っ込んでって。」
さっきの村人だ。俺は弟を、轢かれて血塗れになった弟を真っ青な顔で見つめ、呟くような声で言った。
「お、おと、うと…な、なんでこんな…」
「弟? あぁ、君、その子のお兄さんだったのかい。…惨いものだね、弟さんがトラックに轢かれてしまって。」
俺は血まみれの弟に手を伸ばし、心臓に当てた。
ドクン、ドクン。
脈はまだある。息をしているということだ。俺は急いで弟を抱えあげ走り出した。その後ろ姿を見て、人混みは段々と小さくなり、人が居なくなってしまった。
「みんな、どっか行っちゃったな。」
だが、俺が最初に話しかけた村人は車に乗り、俺たちを手招きした。
「乗りなさい。病院まで運ぼう。」
俺はその言葉に甘え、村人の車に乗った。
「私はこれでも医者さ。…絶対に治してあげるよ。」
その後村人は俺の気持ちを和らげようとしたのか、色々話してくれた。
そして病院に着くと、村人は大声をあげた。
「おい! 重症の患者だ! 急いで治療の準備をしろ!」
そう言うと、白衣を着た者たちは一斉に動き出した。
「これでもう安心だ。受付を済ませ、急いで診察室に行きなさい。いいね? 弟さんを守るためだよ。」
俺は勢いよくうなずき、受付のカウンターに走った。
受付の人は急いで俺をすぐさま、診察室に向かわせた。
村人は、走っている俺を見ていた。そして、こう呟いたのだ。
「弟さん、脈がゼロになってざまぁないね。」
笑いを含めた呟きに、俺はあいつがすべてを犯したんだと悟った。
俺の勘は当たっていた。あの村人こそが弟を轢いた犯人だ。轢き逃げしたあと、車を置き、集まってきた人混みに溶け込んだのだ。
そして、わざと俺に近づき、俺が村人に話しかけることを計算したのだ。まったく頭のいいやつだ。
弟の特徴をあんな離れたところで掴んだとは思えない。だから、人が集まる前に弟の特徴を把握して、俺を弟の兄だと推測したのだ。医者と言ったのは、俺を騙すため。病院の者たちが一気に動き出したのは、事前に院長を脅かしたから。さっきの口調からしてそうだ。
俺はいきなり目の前が真っ赤になった。でも…弟が生きてることを信じて、あいつが犯人だと言うのはやめた。
村人は何かまだ呟いてた。
「そんなに愛されたいか? そんなに弟のことを愛してたいのか?」
雨が降り始め、俺はなぜかその言葉に同情してしまった。
診察室。俺は医者が診察するところを黙って見てた。弟は助かるのか。助からなかったらどうしようという不安も抱えて。
診察が終わり、医者が声を掛けてきた。
「…駄目ですね。脈はありませんし、心臓も止まっています。…あと一週間ほどで息をお引き取りになります…お助けできなくて、とても残念です。」
俺は頭の中で何かが途切れるのを感じた。
息を引き取る。ということはつまり、死んでしまう。一週間くらいで俺ができることなんて…祈ることぐらいだ。
…俺は心の弱い人間なのだろうか。たった弟が死ぬくらいでこんなに泣きたくなるなんて…。これが、家族というものなのか。
そう思うと、テストで零点を取ってしまったときの弟の励ましの言葉と、笑顔が蘇ってきた。
『どんまい兄貴。次があるからまた頑張ろうぜ!』
そんなこと言って、励ましてくれたな…。
思い出すと、一気に涙が溢れてきた。手で涙を拭っていると、医者が慰めてきた。
「まだ希望はあります。お兄様の願いを通じれば、弟さんは助かるかもしれません。」
「願い…?」
「はい。弟さんを死なせたくない、また一緒に暮らしたいという思いが弟さんに注ぎ込まれ、目覚めるかもしれません。…お兄様も泣かれていたら、弟さんが悲しみますよ。」
俺が泣いてたら、弟は…悲しむのだろうか。あれだけ散々こき使ってきた兄貴だ。どうせ…生きていてまたこき使われるなら、死んだ方がマシだと思っているんじゃないか。
でも、ふいに弟の言葉が頭に蘇ってきた。
『しかたねぇな。兄貴はほんとに面倒くさがり屋だな。』
そう言って弟は俺がなにか頼む度に笑っていた。仕方ないなという呆れた笑顔で。
あの笑顔が戻ってくるなら、俺は…なんでもしてやる。
だから、まだ目覚めていない弟に向かって言ったのだ。
「お前が生き返ったら、俺にも返事くれよな。」
2
いきなりの出来事に、俺はびっくりしていた。兄貴に頼まれて朝飯を買ってこようとした。
『弟、朝飯買ってこい。』
お前が俺に今まで言ったことは誰のためなんだろうか。答えは俺が探しちゃ駄目なのだろうか。
そんなことを思いながら横断歩道を渡っていると、いきなり車が俺の方に突っ込んできた。
「は…? 赤信号だぞ…!?」
でも、俺はそのまま車に轢かれてしまった。そこからのことはよく覚えていない。確か、兄貴に抱かれて病院に行って、診察されたような…。
たくさんの医者に囲まれて俺は診察された。たくさんの管を体に付けられ、脈を計られたのか? 感覚は…覚えている。
でも、俺はその瞬間気を失った。兄貴の泣きじゃくる声と、お医者さんが慰めてる声、気を失ってもぼんやりと聞こえていた。
兄貴がテストで零点を取ったとき、そんなとき、俺、こんなこと言ったなと、なぜかそんな記憶が蘇ってきた。
まったく、いつもあやふやな答え。曖昧な答え直せよ、といつもいつも思う。
「どんまい兄貴。次があるから頑張ろうぜ!」
俺はこう言って励ました。
兄貴は…こう返してきたっけ。
「こんなの後悔しねぇよ。夜の果てで夢ばっか見てたんだ、きっとな。」
そんな変なことを言うものだから、俺は念入りに兄貴に勉強を教えた。
兄貴になにもかも与えすぎて、そのことを許されたいから笑ってたんだ。
(そしたら……ここに居られる気がしたんだ。)
兄貴の声聞くの、これで最後なのかな。
そう思った瞬間、兄貴の声が聞こえてきた。次ははっきり聞こえた。
『お前が生き返ったら、俺にも返事くれよな。』
分かってる。分かってるよそんなこと。俺は絶対に兄貴のために生き返っていつも通りいやいや飯買ってきてやるよ。
兄貴って、本当に俺が居ないとなんも出来ないよな。だからこそ…俺は生き返るんだ。絶対に…
ここで、俺の記憶は途切れた。
3
それから三日経った。先生たちは弟が車に轢かれたことを知っているから、いつもより俺を甘やかしてくれた。
「ミスターレッド。君、本当に大丈夫なのかい?」
「いざというときには力になりますよ。」
「なんか頼み事あったら言ってくれよな!」
「ミスターレッド。相談なら乗るぜ。」
「はぁぁぁぁ! ミスターレッド、今くらいは力になってやる。」
「犯人は僕が倒す。君は安心しろ。」
そんなこと言われたって、俺の心の慰めにはなりはしない。俺は…俺は弟が居ないとなにもできないから。
だから、いつもどおり顔を伏せ、心のなかで祈ってるだけだった。
(生き返ろよ、弟。お前、俺の弟なんだからそんなこと余裕だろ。せめて今だけは神も信じる。だから…弟、生き返ってくれ。俺はお前が生き返るまで祈り続けるからな。)
あの弟のまぶしい笑顔で、俺はやる気が出るんだ。だから俺はお前が居ないと、本当に何もできない。テストだっていつも補充がある。
もう補充とか勉強とかちゃんとやるから、戻ってこいよ、弟。
五日も経てば俺はもう目の下にクマが出来るようになり、クラスの奴らはみんな心配してくるようになった。
「ミスターレッド。お前本当に大丈夫か?」
隣の席のミスターバナナが良く言ってくるが、俺は「寝不足なだけだ」といつも返す。本当は寝不足なんかじゃない。真夜中まで祈り続けてるだけだ。
そして六日目。あと一日で俺の弟は死んでしまうのかと思うと、本当に胸が痛みつけられた。最後の日くらい、見舞いにでも行くか。
だから今日は学校を休み、病院に行った。
受付の人はすぐに迎え入れ、診察室に案内してくれた。
「失礼するぞ。」
診察室のドアを開けると、やっぱり目覚めないままの弟がベッドに横になってた。医者は俺に気づき、手招きしてきた。
「大分…良くなってはいるんですよ。出血も止まりましたし、傷も回復しています。でもやはり…死はまぬがれないでしょう。お兄様がずっとずっと祈り続けてると、前に少し目覚めた弟さんが言っていました。相当願っているのですね、弟さんの無事を。」
当たり前だと返す俺に、医者は苦笑いした。
「目の下にクマができておられますよ。もし弟さんが生き返っても、次はあなたが入院になりますよ。」
俺ははっとなり、今日はしっかり寝ようと決めた。医者は「二人きりにさせてあげます。弟さんと楽しんでください」と出ていった。
俺は目を閉じてる弟に向けて、たくさん喋った。
「俺がお前を命をかけて守ったこと、絶対に忘れるなよ。忘れたら許さねぇぞ。いつか借りを返してもらうからな。」
いい加減優しくしろよな、と嫌味たっぷりに言うが、俺は笑っていた。
「本当は戻りてぇよ、轢かれた六日前に。時を戻せたら良かったのにな。なぁ、弟。」
弟は、少し目を開けて微笑んでいた。まるで「そうだな」と言うように。
「今から戻れたなら、俺は絶対お前を守ってたのにな。悔しいぜ…。明日には死ぬんだろ? なんか俺に一言くれよ。俺も言ったんだからよ。」
「今は無理」と言うように首を小さく横に降る弟。「また明日来るぜ」と言い残し、俺は病院を後にした。気がつけばもう夕方だ。どれだけ喋っていたんだろう。
俺は家に帰り、今日ぐらいはゆっくり寝た。久しぶりの睡眠は、すごい気持ちがよかった。
そして、翌日…
俺は朝一番に起き、病院に向かった。院長は俺を迎え入れ、急いで弟の診察室に向かうようにと言ってきた。
診察室では、目が開いている弟が迎えていた。相変わらず管は繋いだままだが、座って俺の方を見ている。
「弟…?」
俺は恐る恐る弟を呼んでみた。弟は「なんだ?」と言い返すように首を傾げてきた。
医者はにっこりと微笑み、俺に話しかけてきた。
「今日が命日なのは間違いありません。今日…絶対にお亡くなりします。ミスターブルーさん、兄貴を出迎えたいと言い出して、ご自分で起き上がったのですよ。」
「マジか……。でも、結局今日死ぬんだな。」
弟はこくっと首を下に動かした。うなずいたのだ。なのに、自分で起き上がった? 俺のために?
「弟、お前…」
「…うん。本、当に自分で起き上が、った。」
喋った。喋り方はたどたどしいが、ちゃんと俺に向けて喋ってくれた。
「さぁ、ミスターレッドさん。ミスターブルーさんに、たくさんたくさん喋ってあげてください。今日、お亡くなりになるんですから、悔いを出さないようにね。」
そう言って、医者は診察室を出ていった。
俺はベッドの横の椅子に座り、弟に色々喋ってあげた。
「足…とか、大丈夫なのか?」
「うん。もう全回復、したから。心配かけてごめん、な。」
「心配したぞ。いきなり轢かれてる弟が道路に転がってんだから。」
「あはは! ほんとに、ごめんな。」
そうだ。この笑顔が欲しかったんだ。俺の心を照らしてくれるような眩しい笑顔。
それから俺たちはずっとしゃべっていた。だが、弟が横になったところで俺は聞いた。
「…弟。」
「なん、だ?」
「昨日の言葉、覚えてるな? 俺にも一言くれ。最後の弟の言葉。」
「あ、ぁ。」
目を閉じかけたまま、弟は口を開いた。そして、思いにもよらぬ言葉を最後に言った。
『馬鹿兄貴』
そして、弟は眠った。いや、死んだのだ。「馬鹿兄貴」と、俺を馬鹿にする言葉を、満面の笑みで言い残して。
俺は少し笑ってしまった。あの笑顔であの言葉は合わなすぎるが、最後に言い残した言葉は、心に刻んであった。
「……今までありがとう、弟。お前から言ってくれて…お前が俺のことを忘れようと、俺が絶対に忘れない。何年経っても、他から盗まれなかった宝物は、一生大事にするな。」
俺は泣き笑いしながら、弟を抱きしめた。
翌日、ミスターブルーの葬式があげられた。
「本当に今までありがとう。俺の宝物」
コメント
7件
うぅ感動してきた思わず見とれてしまったなぁ普段チャットノベルしか見ないけどこればかりは神作だな言い切れる理論は認めん
これは泣いちゃう(泣)
うぅ……(泣) 泣いちゃうよ……でも最期、すっごいよかった……(泣)