テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
バス停からは、もう例の駐車場は見えなくなった。
母から聞けてわかったような、分からなかったこと。
一慶さんは、優しくてテンションがおかしくてもいい人で、でも『優しい虐待』を受けていた人。私は駐車場の壁から、一慶さんの家の庭に侵入してそれを目撃した。
でもあの真っ赤な部屋はなんだったんだろう。丸く蹲る少年は、その……本当に一慶さんだったのかな。見た目というか、体型が違ったような。
「あれ? 流伽ちゃんじゃん」
真っ黒なバイクが私の前を横切ったと思うと、少し向こうで止まった。
そして後ろに載っていたピンクのヘルメットの女性がヘルメットを脱ぐと、私に手を振った。
「森苺先輩」
「一年はまだ授業中じゃないの」
「さぼりました。あ、そうだ。今から孔一くんの家に行きたいんですが」
「えー? こっからじゃバスより電車かな。どういけばいいの?」
スモークがはってあるヘルメットの男の人が、バイクのエンジンを切ると森苺先輩の携帯を覗き込む。
同じ指輪が光っているから、この人が森苺先輩の旦那さんだと思うけど、見たことがあるような? この目つきの悪い瞳と、真っ黒な髪、そしてバイクに座っていても分かる高身長と足。美形なのはもちろんだけど、この人。
「あの、先輩の?」
おずおずと尋ねると、先輩はへらっと顔をゆがめた。そして先輩の携帯の画面をのぞき込んでいた男性の腕に抱き着いた。
「うわ」と小さく驚きつつも全く微動だにしない男性に、先輩は満足そうだ。
「私の旦那。テニスプレイヤーで世界ランクなんと11位。美形でしょ?」
「森苺宗亮です」
「こんな美形で、森苺って苗字が可愛くて可愛くて、もう」
頬をつんつんされても、表情を変えない美形さんは私をちらっと見た。
「ああ、この子が要の言っていた、一慶選手のお見合い相手ね」
「そうなの! 一慶さんがずっと指名断ってきた理由の子。可愛いでしょ」
「うん。素朴で一慶選手が好きそう。俺でよければ、孔一のとこまで送っていくけど」
「でも一応、孔一は流伽ちゃんへの暴行で謹慎中でしょ。本人つれていって宗亮が嫌な目に合わないといいんだけど」
う。確かに、しかも非は私にもある。彼の発言が許せないにしろ、突き飛ばしたのは私の方なのに。
「……じゃあ、これはどう?」
旦那さんの提案に、森苺さんが黄色い悲鳴を上げた。
***
ピンクのヘルメットをかぶり、宗亮さんの後ろに跨り、私は高速道路を駆け抜けていた。
制服ではめちゃんこ寒いよって、森苺先輩の体操服のジャージを着こんで乗ったのに、びゅんびゅんと風が当たって寒い。
ライダースーツは見た目が格好いいから着るのではなく、機能性にも優れていたんだなって実感した。
「大丈夫? もう少しでつくよー!」
「あ、はい。ありがとうございますー!」
「なんてー?」
風の音で、大声を出しても聞こえない。聞こえないのに大声で心配してくれる、森苺先輩の旦那さんは優しい人だ。
森苺先輩の旦那さんの家族は全員オリンピック選手だったりプロ選手だったりと、名家中の名家らしい。総理大臣から表彰もされたことがあるので、孔一くんたちともかかわりがあると。
私は普通の少女漫画のような恋愛がしたかったのに、一歩一歩自分で動くたび、なにか深い法律の渦に巻き込まれていきそうで怖くなる。
私のあずかり知らないところでは、政治的な観点からの法律お見合いが盛んなのかな。
ち ょ こ 。
22,688
かんな
690
鷹槻れん

2,537
#シークレットベビー
夏目萌*優しい彼~コミカライズ
1,640