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本音
リヴァイの私室
野外調査から戻ったその夜。リヴァイは、普段であれば絶対にしない行動をとった。ハンジとエルヴィンを私室に呼び出し、滅多に使わないティーセットを無言で並べた。部屋には、張り詰めた静寂と、紅茶の香りが満ちている。
エルヴィンは静かに椅子に座り、リヴァイが淹れた紅茶を一口飲んだ。ハンジは既に三口目を飲み終え、好奇心と警戒心がないまぜになった瞳でリヴァイを見つめている。
「…リヴァイ。お前が、自室で我々二人を呼ぶのは初めてだ。よほどの案件と見たが。」
エルヴィンの声は平静だが、その眼光はすべてを見透かすかのようだ。リヴァイは、壁にもたれかかり、腕を組みながら、その場に立っている。彼の周囲には、まだ洞窟で感じた**「温もり」**を振り払おうとするかのような、張り詰めた緊張感が漂っていた。
「チッ…大した話じゃねぇ。」リヴァイは舌打ちしたが、すぐに本題に入った。
「野外調査でのことだ。イリスと二人で行き、途中で雨に降られ、洞窟で一晩過ごした。」
「ふむ。」エルヴィンは静かに頷く。
「夜明け前、俺は寝ぼけて、そいつを…」リヴァイの言葉が詰まる。
「…抱きしめていた。」リヴァイは、絞り出すように言った。「任務ではない。完全に無意識。そして、兵士としての規律を完全に破る、制御不能な行動だ。」
ハンジは、興奮を覚えた表情で椅子から身を乗り出した。
「それで?子猫ちゃんに甘えた夢遊病だったって結論は?」
「黙れ、四つ目。」リヴァイは低い声で威嚇した。そして、エルヴィンとハンジ、二人をまっすぐに見据えた。
「問題は、突き放した後のことだ。あいつの**『拒絶への微かな恐れ』が、俺の『突き放す行動』**を一瞬だが麻痺させた。」
リヴァイは、一歩前に進み出た。その目は、迷いではなく、自己の感情を分析し尽くした上での、厳格な断定を宿していた。
「洞窟で抱きしめていた時、俺の身体は『安堵』を求めていた。そして、目が覚めて反射で突き放そうとした時…身体が、あいつの**『脆さ』**を傷つけることを拒否した。」
彼は、まるで自分が壊れた機械であるかのように、客観的な口調で続けた。
「俺は、あいつを**『守るべき対象』としてではなく、『手放したくない、最も感情を揺さぶる存在』**として認識している。この事実を認めざるを得ない。」
リヴァイは、深呼吸し、人類最強の兵士としての鉄則と、個人の感情という、二つの絶対的な壁を打ち破る、決定的な言葉を吐き出した。
「チッ…そうだ。俺は、イリスのことが**『好き』**だ。」
静寂が部屋を支配した。ハンジは完全に固まり、エルヴィンだけが、表情を一切変えず、じっとリヴァイを見つめていた。彼の瞳は、もはや上官としてではなく、**「人類の未来」を賭けた戦略家として、リヴァイの「最も人間的な弱点」**を査定していた。
「リヴァイ。」エルヴィンはゆっくりと口を開いた。
「お前の懸念は理解する。しかし、私はそれを**『弱さ』**とは呼ばない。」
リヴァイは眉をひそめた。
「それは、**『動機』だ。そして、お前を『人間』**として繋ぎ止める、唯一の鎖だ。」
エルヴィンの言葉は、リヴァイの感情を**「弱さ」ではなく、「戦いの原動力」**として捉えようとしていることを示唆していた。