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☕️ 団長室数日後。
調査兵団本部・団長室。エルヴィンは執務机に向かい、ハンジは隣のソファで足を組み、茶を飲んでいる。扉をノックする音が響き、エルヴィンが「入れ」と応じると、イリスが少し緊張した面持ちで入室した。彼女の手には、提出期限の迫った報告書が握られている。
「失礼します、団長、分隊長。野外調査の補足報告書です。」
イリスは報告書を机に置き、背筋を伸ばして立った。エルヴィンは報告書には目を通さず、彼女の顔を静かに見つめた。ハンジは、ニヤニヤとした笑みを押し殺すようにマグカップの縁を舐めている。
「報告書の提出、ご苦労。」エルヴィンは言った。「それだけか、イリス。」
イリスは一瞬、言葉に詰まった。彼女の視線が、報告書、エルヴィン、そしてハンジへと彷徨う。
「いえ…その…個人的なご相談がありまして。」
「ふむ。構わん。座りなさい。」
イリスはエルヴィンから少し離れた椅子に腰掛けた。呼吸を整える様子が、彼女の動揺を物語っている。
「単刀直入に申し上げます。リヴァイ兵長のこと、です。」
ハンジは待ってましたとばかりに身を乗り出したが、エルヴィンの鋭い視線に気付き、咳払いをして姿勢を戻した。
「野外調査の夜…洞窟での出来事です。途中で雨に降られ、一晩をそこで過ごしました。」イリスは、語りだす。その声は平静を保とうとしているが、微かに震えていた。
「夜明け前、私…兵長に抱きしめられていた状態で目を覚ましました。すぐに突き放されましたが、兵長は明らかに動揺していて…そして、その後、私を避け続けています。」
彼女は俯き、自分の手のひらをじっと見つめた。
「…私は、あの夜の出来事が、兵長にとって**『弱み』になるのではないかと懸念しています。兵士としての規律を重んじる兵長が、ああいった『制御不能な行動』**をとった。それが、兵長の精神的な重荷になっているのではないか、と。」
イリスは顔を上げ、二人をまっすぐに見据えた。
「私は、兵長に**『兵士としての自責の念』**を感じてほしくありません。人類最強の兵士である兵長が、個人の感情で力を鈍らせるなど、あってはならないことです。」
ハンジは、口元に手を当ててフムフムと唸り、心底楽しそうな表情を隠そうともしない。しかし、先に口を開いたのはエルヴィンだった。
「イリス。お前の懸念は理解する。」エルヴィンの声は、いつものように冷静で、感情の揺らぎがない。「だが、お前の発想には**『一つの誤り』**がある。」
イリスは、エルヴィンの言葉にハッと顔を上げた。
「リヴァイは、お前が考えているよりも、**『脆い』人間ではない。そして、『感情』は、必ずしも『弱さ』ではない。むしろ、それは『動機』であり、彼の鋼鉄の精神を『人間』**として繋ぎ止める、唯一の鎖でもある。」
エルヴィンは、リヴァイに告げたのと同じ言葉を選んだが、その視線はイリスの**『自己犠牲的な献身』**に注がれていた。
「我々が今、リヴァイを最も必要とする時、彼の**『個人的な葛藤』を、お前が『人類の未来』よりも優先して気遣う必要はない。お前は、彼の『感情』を尊重し、その『動機』が彼の戦う力を鈍らせないよう、『兵士』**として接すればいい。」
ハンジは、ここで静かに口を挟んだ。
「そうよ、イリス。あのチビはね、自分で思っている以上に**『素直な感情』に飢えているのよ。それが、彼の『強さ』を壊すと思う?いいえ、きっと逆。『守りたいもの』**がある方が、兵士は強くなる。そうだろう、エルヴィン?」
ハンジはエルヴィンに同意を求めると、イリスの方に向き直り、秘密を共有するような、悪戯っぽい瞳で囁いた。
「それに、ね。**『突き放す行動』が、必ずしも『拒絶』とは限らない。時には、『手放せない』からこそ、突き放そうとするのよ、あの意地っ張りはね。リヴァイの葛藤は、『兵士の規律』と『個人の安堵』**の間にある。それを『弱み』と断じるのは、早計ね。」
エルヴィンは、静かにハンジの言葉を肯定した。
「イリス。お前がリヴァイに対して**『兵士としての尊敬』を貫くことが、今は何よりも重要だ。それ以外の個人的な感情の分析は、我々の『壁の外の戦い』**が終わってからで遅くはない。」
イリスは、エルヴィンとハンジの言葉を胸に、深く頷いた。彼らの言葉は、リヴァイの行動の**『意味』を、彼女の『個人的な懸念』から切り離し、『戦いの戦略』**という大きな枠組みで捉え直すことを促していた。彼女は、リヴァイの動揺が『弱さ』ではなく、『戦いの原動力』になり得るという示唆に、一筋の光明を見出した。